第40話 ゴブリン防衛戦準備から開始まで
ヘルサルの街へ戻ってから、俺達は防衛のための準備で忙しかった。
ソフィーさんをエルサから引き剥がしながら、色々と働いたんだ。
まずはセンテからの報告をヤンさんへ、最初センテとの往復が随分と早いと言われたけど、何とか誤魔化した……ソフィーさんがセンテにいる冒険者だと知られてたので助かった。
ヤンさんはヘルサルギルドのギルドマスターや職員と会議をして、すぐに強制依頼を出した。
ヘルサルにいる全冒険者はこの強制依頼を受ける事を義務付けられる。
冒険者を集める傍ら、王都へ伝令を飛ばしたり、ヘルサルやセンテを含むこの地域の領主をしているという貴族にも伝令を出した。
元冒険者で、ギルドがこの街にいる事を把握している人には防衛への参加要請も届いたようだ。
マックスさんやマリーさんにもそれが届いて、参加することを承諾していた。
これは強制ではないけど、ヘルサルの街に定住している元冒険者達はほとんどが参加するらしい。
この街に愛着があって定住している人がほとんどだからだそうだ。
皆、住んでる所を守りたいんだね。
たまたまこの街にいて強制依頼で防衛に参加させられる冒険者よりも士気は高いそうだ。
領主も王都程ではなくとも、軍を持っているから、数が足りなくても防衛する時間を稼げるはずとの事。
ヘルサルの代官は街の兵士を招集、ゴブリン達がいつ来るかを調べるために街付近の捜索を開始した。
それと共に街の一般住民を一時的にセンテに移動させる手はずを整える。
戦えない人達全員じゃないけど、住民の約半数は避難できる見込みらしい。
避難しない人の中で、戦えない人は炊き出しや荷運び、兵士達の装備の手入れ等をやってる。
ゴブリン達の軍勢が襲ってくるというお触れが出ても、ヘルサルの街の住民はほとんどが悲観的になっていないと聞いた。
防衛に兵士、冒険者、元冒険者の人達が戦ってくれると聞いてるからなんだろう、むしろその人達への協力を申し出る人達が多かったらしい。
年老いた人や、子供は優先的に避難したけど、戦える人も多少はいるようだし、戦えなくても支援するために残ってくれていた。
俺? 俺は何故か冒険者ギルドと冒険者達、元冒険者達への連絡役をしてた。
新人なんだけどな……。
元冒険者の人達はマックスさんが纏めてくれてるから楽だけど、冒険者の人達は乗り気じゃない人がいたり、そもそもいる場所が固定じゃない人が多いから、ヘルサルの街のあちこちの宿や店、酒場等を行ったり来たりしたよ。
おかげで、もうモニカさんに案内される必要もないくらいヘルサルの街に詳しくなった。
まあ、連絡役をする事で色々な冒険者と顔見知りになるから、その冒険者が持てる情報を聞けたりする利点もあったけどね。
たまに、どこの酒場の酒がおいしいだとか、歓楽街のどこの店が良いだとか、変な情報があったりしたけど……。
それをモニカさんが横にいる時に話すのは辞めて欲しかった、しばらくモニカさんの機嫌が悪かったじゃないか。
モニカさんとソフィーさんは、暇を見つけては元Bランク冒険者のマックスさんに特訓を受けていた。
出来るだけ戦えるようにしておきたいからだそうだ。
ソフィーさんは魔法が使えない分、剣の使い方が上手くてたまにマックスさんも驚くくらいのキレを見せる時がある。
モニカさんは魔法屋に通って、いくつかの魔法を使えるようになったみたい。
今は、マリーさんに教わって魔法の適切な使い方、使う場面のでの注意等を聞いていたりする。
そういえば、ヘルサルの街にソフィーさんを連れて来た時に、泊まる宿の事で少しだけ揉めた。
最初は宿を取ってそこに泊まると言っていたのだけど、結局これからセンテの街からも人が来る事を考えれば宿の部屋は少しでも開けておいた方が良いというマックスさんの説得により、獅子亭に泊まることになった。
獅子亭の料理に感動していたソフィーさんだったが、エルサが俺の部屋で寝ようとした時に、エルサと一緒に寝たいと言い出し、モニカさんに怒られながら連行されて行ったりという事もあった。
最終的にはモニカさんと同じ部屋で寝泊まりし、たまにエルサがそこに遊びに行くという事で決着がついた。
ヘルサルの街で色々な準備に追われていると、センテの街からの応援が来た。
そのうち冒険者で、ランクの低い人達は避難する人達の護衛兼、センテから食料を運ぶ役目になっていた。
ハンスさんもお店から武具を持ってきたのだろう、剣や槍、斧や鎧等を馬車に積んでヘルサルに来ていた。
なんでも、センテの街鍛冶工房のうち武具を作っている人達が防衛に使う装備を作ってくれているらしい。
センテの代官が先頭に立って、ヘルサルが落ちれば次はセンテ、ならばヘルサルで防衛してくれた方が被害も少なくて済むはずと予算を組んで支援してくれているとハンスさんから聞いた。
次にセンテの街に行ったときは、前回のエリノアさんの店だけでなく、ハンスさんの店で買い物をしよう、ハンスさんの店の場所はしっかり聞いておいた。
センテの兵士、冒険者はヘルサルの街よりも数は少ないけど、今は少しでも戦える人数が多い方が良い。
さっそく、防衛に参加する人達はヘルサル、センテ合同で訓練を始めたようだ。
訓練する事で連携を取って戦えるようにする事が目的らしい。
俺は連絡役で方々を飛び回っていたので不参加だったんだけど……参加してみたかったなぁ。
防衛の要になるのはヘルサルの街の西と北の門。
俺がジェネラルを発見したのが西だった事と、センテがある方角の東はセンテとの間に異常が無い事が理由だ。
さすがに東から攻めて来るなら、センテの街との行き来で異常はあるだろうし、数万の軍が来るのであればいまだに何もないのはおかしいからね。
南側は川になっているので、そもそもゴブリンが通って来れないみたいだ。
だから、他の街や村との距離があり、軍が侵攻して来てもおかしくない西と北に注目した。
ジェネラルがいたのが西という事もあり、西2に対し北1くらいの人の配置になってる。
あとは、準備を整えつつ斥候の兵士を出していつゴブリン達が来ても良いように備えるだけだ。
ちなみにエルサはほとんど俺の頭にくっついて寝ていた。
暢気なドラゴンだね、まったく。
そうして準備に明け暮れて、俺達がソフィーさんを連れ帰ってから7日経った頃、西門に斥候の兵士が慌てた様子で馬に乗って駆け込んできた。
「緊急伝達! ゴブリンの軍勢を発見しました! この街へと進行中です!」
その情報が入って来た時から、俺とヘルサルの街、センテの街の人達の防衛戦が始まった。
ヘルサル防衛戦参加総人数、兵士4500名、冒険者と元冒険者500名、計5000名。
―――――――――――――――
「来たぞ! ゴブリンだ!」
日が高くなりかけた昼前。
外壁の上で監視をしていた兵士が叫ぶ。
弓や魔法等の遠距離攻撃が出来る人達は出来る限り西側の外壁に登ってる。
「ゴブリン軍、およそ10万! 想定の倍以上の数です!」
「多くても食い止めるしかない! 遠距離部隊、一斉攻撃開始! 外壁に張り付かれる前に数を減らせ!」
「「「「「おう!」」」」」
叫び声と共に、外壁の上から魔法と矢が放たれる。
俺は西門付近で待機してる。
現役冒険者、元冒険者、ヘルサルの兵士、センテの兵士の4グループに分けてあって、その中の元冒険者グループと一緒にいる。
俺は本来現役冒険者の中に入るはずなのだが、マックスさんやマリーさんと親しく連携が取りやすいという事で、その中に入れられていた。
モニカさんやソフィーさんも同じくだ。
「いいか、遠距離攻撃を抜けて来た敵が外壁に辿り着く頃に門が開く。そうしたら俺達の出番だ。門から外に突撃してゴブリン達と戦う。俺達が外に出たらゴブリンが抜けてこないように一旦門が閉まる。ゴブリン1匹たりとも街に入れるな!」
「はい」
「ええ」
「わかったわ」
マックスさんの言葉に俺、モニカさん、ソフィーさんが返事をして頷く。
周りにいた人達もそれぞれ頷いている。
緊張した空気、皆それぞれの武器を抜いていつでも戦えるように備えている。
「領主軍が来るのが明日、王軍が来るのは早くてもあと2,3日ってとこだろう。それまで耐え抜けば俺達の勝ちだ! 決して無理をするな。俺達はゴブリンをこの街に入れないように耐えればいい!」
領主からは伝令の返事があり、向こうも兵士を編成して駆けつけてくれるらしい。
でも向こうからの伝令によると、到着は明日になるそうだ。
王都からも同じく伝令が早馬で駆けつけ、こちらの到着は早くても2日、遅くとも3日後には到着するらしい。
せめてゴブリンが来るのがあと1日遅ければ領主軍もいて防衛も少しは楽になるのに……と考えても、来てしまったものは仕方がない。
全力でヘルサルを守る事を考えるだけだ。
まだ外壁の上からは遠距離部隊の攻撃が続いている。
俺は緊張をほぐすために頭にくっついているエルサを撫でた。
モフモフで癒されないと緊張でどうにかしてしまいそうだ。
エルサを撫でて落ち着き始めた時、外壁上から声号令が出た。
「遠距離部隊、打ち方辞め! 門を開け、近距離部隊突撃開始! 遠距離部隊は門が閉まった後、再度攻撃開始だ! 近距離部隊を援護しろ、味方に当てるなよ!」
門が開き、外壁の外が見え始める。
おびただしい数のゴブリンがひしめく戦場へ俺達は向かった。
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