第39話 ソフィーさんへの事情説明
「獅子亭には以前に一度だけ行った事があってな。そこで食べた料理はおいしかったなぁ。それにこの前リクに、センテ行きの馬車で移動中に獅子亭で作ったパンを分けてもらった。あの時はせっかくヘルサルへ行ったというのに獅子亭へ行けなくて悔しい思いをしたからな、だがあのパンのおかげで悔しさも無くなったんだ」
「そんな事が……」
へー、ソフィーさん一度獅子亭に来た事があったんだ。
以前パンをあげた時はすごい勢いだったけど、あの料理を知ってたんならそれも納得だね。
獅子亭の料理はおいしいから。
「モニカと言ったな。獅子亭の料理は食べた事があるのか?」
「ソフィーさん、食べた事があるどころかモニカさんは獅子亭店主の娘さんですよ」
「なんと! そうだったのか。モニカ、あの料理は素晴らしい。またヘルサルに行く事があれば是非寄らせて欲しい!」
「はい、お待ちしてます。こうして、店とは別の場所でうちの店の事を聞くと嬉しいですね」
うん、モニカさんも笑顔になって良かった。
そう安心してたらモニカさんがボソッと「悪い人じゃなさそうね」と言うのが聞こえたけど、もしかしてソフィーさんの事を警戒してたのかな?
その後、お昼を食べるために移動しながら、獅子亭の事や料理に関する話をしていたんだけど、やっぱりチラチラと俺の頭にくっついてるエルサを見てるな、ソフィーさん。
「ところで、リク」
「はい?」
「その頭にくっついてる犬なんだが……」
ソフィーさん、意を決したように真剣な目で俺に聞いてきた。
「エルサって名前です。エルサがどうしました?」
「うむ……そのな……その……エルサちゃ……エルサ、をな? こう、ちょっと撫でて見てもいいか?」
すごい躊躇うというか、考えながら聞いて来てるけど。
エルサを撫でたかったから、ずっと俺の頭を見てたのかな?
まあ減るもんじゃないし、いいか。
「いいですよ、どうぞ」
「!」
頭に手を伸ばしてエルサを持って引き剥がし、ソフィーさんの前に出す。
エルサは何故か諦めたような顔をしておとなしくしている。
恐る恐るソフィーさんが手を伸ばし、俺の手からエルサを受け取った瞬間。
「おー! モフモフだー! んーこの肌触り! この毛並み! 素晴らしい! エルサちゃーん、可愛いねー!」
ソフィーさんが壊れた……。
「「……」」
さすがにこんなソフィーさんは想像出来なかった。
隣にいるモニカさんも同じなのか、驚いて固まってる。
だよね? これを見たらそうなるよね? 俺もモニカさんと同じで固まってる。
「おーよしよし。んー可愛いねー。良い毛並みだねー。モフモフー!」
これ、どうしたらいいんだろう……。
あ、撫でるだけじゃなくて抱きしめたり頬ずりし始めたぞ。
……ソフィーさん……モフモフ好きだったんだ……。
「ええい! いい加減にするのだわ!」
我慢の限界だったのか、しばらくは良いようにされてたエルサだけど、あちこち触られまくって怒り始めた。
「……え……喋った……?」
「こんなにされて喋らないなんて出来ないのだわ! 我慢の限界なのだわ!」
怒ったエルサは体を暴れさせてソフィーさんの腕から抜け出し、そのまま飛んで俺の頭にドッキング。
ほんとに好きだね、その位置、俺もモフモフが感じられるから良いんだけど。
「……リク、それはいったい……?」
「あー、説明しないと……駄目ですよね。はあ」
訝し気なソフィーさんからの視線から逃げられず、エルサの事を説明する事になった。
こんな簡単にエルサが犬じゃないってバレていいのだろうか? まあ、何の警戒もせずにソフィーさんにエルサを差し出した俺も悪いんだろうけど。
―――――――――――――――
「成る程。それでリクが初期ランクCなのか。しかし……ドラゴンとは……」
「ははは」
ソフィーさんオススメのお店で昼食を取りながら、色々と説明をした。
俺がセンテからの帰りにエルサと会った事、ドラゴンである事、契約したことと喋る事が出来る事。
冒険者登録をしたら元Bランクの副ギルドマスターに模擬戦で勝ってCランクになってしまった事、ヘルサルギルドからの指名依頼で魔物調査をした事から、ゴブリンジェネラルを発見した事、ヘルサル防衛の事、今回センテギルドへ来た理由等々、全部説明した。
まあ、部分的に説明しようとしてもよく考えたら全部繋がってるし、俺にはごまかしたり説明しなくても良い事を説明せずに済ませる事は出来なかったよ。
ヘルサル防衛に関しての事は強制依頼が出るとベリエスさんが言ってたから、どうせすぐわかる事だし、まぁいいか。
「それで、ゴブリンジェネラルか……それがヘルサルの近くにいたからゴブリンキングが軍を率いてヘルサルを襲う、と。本当か?」
「本当みたいです。ゴブリンキングはまだ発見されてませんが、ヘルサルの副ギルドマスターとセンテのギルドマスターもそれが確実な事として考えてるようです。あと、獅子亭の店主であるマックスさんは元Bランク冒険者なのですが、その人も同じ考えのようです」
「そうか……獅子亭の店主が言うのなら間違いがないのだろうな。あの料理を作る人が嘘を言うわけがない」
マックスさんの信頼度がすごい事になってるけど、根拠が料理って……。
ソフィーさんの基準がよくわからない。
「数万の軍だったか……」
「そうみたいですね」
「強制依頼が出されるなら、私もセンテギルドにいる冒険者の一人だ、防衛に参加することになるな。リクはどうするんだ?」
「俺はもちろん参加しますよ。ヘルサルにはお世話になってる獅子亭があります。それがゴブリン達のせいで無くなるなんて耐えられませんから」
「リクさん……ありがとう」
「リクならそう言うと思っていた。それで、これからどうするんだ? センテギルドから派遣される冒険者と一緒にヘルサルへ向かうのか?」
「いえ、俺達はセンテギルドが応援に駆けつけてくれる事をヘルサルギルドに報告に帰ります。それからは防衛の準備をする事になるでしょうね」
「ふむ、なら私もリクと一緒にヘルサルへ行って先に防衛参加をするか」
「一緒に来てくれるんですか?」
「ああ」
ソフィーさんが仲間になった! どこぞのゲームのBGMが脳内で流れた気がするけど、それはどうでもいいか。
今のうちにソフィーさんがヘルサルに来てくれるのなら心強い。
「しかし、この時間からだとヘルサル行きの馬車はもうないな。明日朝一番の馬車で出発するか」
今は……大体午後3時くらいかな? もし馬車が出ていても、帰り着くのは日付が変わる頃になるかもしれない。
さすがに今日はヘルサルに行けないだろうと考えてるソフィーさんだが、忘れちゃいけない、ここにエルサがいる。
エルサに乗れば夕方までにはヘルサルに帰れるはず、ってソフィーさんはエルサが大きくなれるの知らないんだっけ。
「明日まで待たなくても、今日中にヘルサルに帰れますよ」
「? 馬車はもうないし、歩いてだと数日かかる。馬に乗って行くのか? しかし暗くなってからの移動は危ないぞ」
「いえ、エルサに乗って行けばすぐですから」
「……え? 乗る? いくらドラゴンと言ってもこの大きさでは……」
「大きくなれば、人を三人乗せるくらい簡単なのだわ」
今まで黙ってモニカさんの膝の上で、朝に買ったキューを齧り終わったエルサが言う、ちょっと得意気だ。
「エルサちゃ……エルサ殿は大きくなれるのか? てっきりドラゴンの子供なのだと思っていたのだが」
「大きさは自由自在なのだわ。もう1000年以上生きてるのだわ。子供じゃないのだわ」
いえ、モニカさんの膝の上で幸せそうにキューを齧ってた姿はどう見ても子犬にしか見えませんでした。
「ドラゴンに乗れるのか……」
感動したらいいのか、恐れたらいいのかわからない複雑な表情をしたソフィーさんはお店の代金を払い、三人でセンテの街を出る。
ちなみに、移動中にソフィーさんがエルサを抱きたがったが、エルサが断固として断りソフィーさんが落ち込んだけど、コッソリエルサに乗るとモフモフに包まれる事を教えてあげると幸せそうな笑顔になった。
「じゃあ、行くのだわ」
まだ明るい時間なので、来た時よりも少し街から離れ人から見られないように気を付けつつ、エルサが飛び立ちヘルサルへと帰った。
言葉にすらなってないソフィーさんの感動の叫びを聞きながら。
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