第37話 センテに移動と再会



 いざセンテの街へと意気込んでも、街の中でエルサが大きくなるわけにはいかない。

 マックスさん達に挨拶をして、街の東門の兵士に冒険者ギルドのカードを見せ、依頼のためとの理由で街の外に出る。


 あ、そうそう、冒険者ギルドカード。

 これ今日の朝調査に出る前に貰ったんだよね。

 金属が入ってるカードで、大きさはキャッシュカードや免許証とかと同じくらいの大きさ。

 これには魔法がかかってて、偽造や複製防止、冒険者情報を読み取るための情報が入ってるんだそうだ。

 無くした時の再発行は手間とお金がかかるから気を付けるようにと注意を受けた。

 街の出入りをする時、兵士に止められる事がある、夜間とか怪しい恰好をしてたりとかね。

 その時に身分証の代わりになるらしいから、ちょっと便利。


 そんなこんなで街を出て、少しだけ歩いてヘルサルから見えない場所まで行く。

 そこでエルサに大きくなってもらい、モニカさんと背中に乗り込んで飛び立った。

 モニカさんは感動しっぱなしだったけど、俺は二度目だから落ち着いて流れる景色を楽しんだ。

 相変わらず速度があり過ぎて、景色も一瞬で流れるけど。

 うん、ごめん、嘘ついた。

 大きくなったエルサのモフモフに包まれて幸せで景色なんてほとんど見ていない。

 やっぱこのモフモフは最高だなー、体が埋もれるように沈み込んで優しく包まれる……ここは天国か!


「着いたのだわ」


 そんな事をしている間に、センテに到着。

 ヘルサルに帰った時とは違い、こちらも見つからないよう街から少し離れた場所へ降りる。


「こんな速さでセンテに来れるなんて……」


 モニカさんは飛んだ興奮と、ドラゴンでの移動の速さに驚きっぱなしだ。

 地面に降り立つとすぐさまエルサが小さくなり、俺の頭にドッキング。


「やっぱこれが一番楽なのだわー」

「……ちょっと羨ましいわ」


 モニカさんは「私の頭でもいいのよ?」とエルサに差し出しているが、エルサは「こっちの方が居心地がいいのだわ」と取り合わない。

 この頭のモフモフは俺のだ! いくらモニカさんでも渡せない!

 などとやり取りをしつつセンテの街へと入る。

 西門で兵士にこんな時間に来た事に少し訝しまれたけど、冒険者カードを出してすぐに入ることが出来た。


「久しぶり、って程でもないか」

「私は久しぶりよ。前に来たのは1年前だったかしら。父さんと一緒に問屋さんへ行ったわ」

「問屋って、ホルザラの店?」

「ええ、リクさんは問屋に行くためにここに来たんだったね。ホルザラさんと会った?」

「うん、会ったよ」

「どうだった?」

「……あれ、最初は絶対店主だってわからないよね」


 見た目幼い小学……中学生くらいかな?

 初めてみたら、娘さんが店番してるだけにしか見えないよね。


「私初めて会った時、頭撫でちゃった」

「あー……小さい子に見えるからね」

「その後父さんに笑いながらホルザラさんを紹介されて、謝ったけど恥ずかしかったわ……」


 モニカさんと談笑しながらセンテの街を歩き、しばらくして冒険者ギルドに到着。

 ……到着、したんだけど……これ完全に閉まってるよね……。


「やっぱりこんな遅い時間じゃギルドもやってないわね」

「そうだね、仕方ない。宿に泊まって明日の朝来よう」


 今日中にギルドに伝えたかったけど、空いてないのなら仕方ない、というよりどうしようもない。

 俺とモニカさんは以前俺が一人で来た時に泊まった宿へと向かう。


「すみません、遅い時間ですけど、部屋空いてますか?」

「あら、マックスさんとこの。またこっちに来たんだね。そちらは」

「おばさん久しぶりです。マックス父さんの娘のモニカです」

「まあまあ、モニカちゃん。よく来たわね。それで部屋よね、空いてるわ。……同室?」

「ち、違います! 別々でお願いします!」


 瞬間的に真っ赤になったモニカさんが叫ぶけど、どうしてこの世界は男女でいるとそういう方向に持って行きたがるんだろう。

 前は服屋のおばちゃんだったっけ、おばちゃんってそうなのかもね。


「なんだ、別々なのね。えーと二部屋ね。今回は何泊するの?」

「1泊でお願いします」

「わかったわ。それじゃ二部屋1泊で銀貨16枚ね」

「はい」


 おばちゃんにお金を渡す。

 宿代もそうだけど、今回センテに来るためにヤンさんからの費用という事で報告書と一緒にお金を渡されてる。

 まだこの世界に来てからの収入は獅子亭で給料をもらっただけだったから、正直助かる。

 ヘルサルに帰ったら、ゴブリンジェネラルの討伐報酬が出るみたいだから、それまでお金に関しては心もとないし。


「ご飯は食べた? 今ならまだ食堂で食べられるわよ」

「いえ、食べて来たので大丈夫です」

「私も大丈夫です」

「そう。それじゃ、はいこれが部屋の鍵ね」


 鍵を受け取り、モニカさんと別々に部屋へと向かう。

 俺は以前泊まった2階の一番奥の部屋だ。

 エルサはモニカさんに連れて行かれた……モフモフが……。

 その後、一旦部屋で荷物を置いて部屋の外で合流したモニカさんと、おばちゃんにお湯をもらってまた別々の部屋へと帰って、今日は早々に寝る事にした。

 今回はちゃんと体を拭いて寝る事ができた! ヘルサルを出る前に風呂には入ったけどね。


 翌日。

 食堂で朝食を取った後、おばちゃんにお礼を言って宿を出る。

 モニカさんとギルドへ向かう道すがら、広場へと寄って、露店でキューを買いエルサへのおやつを確保しつつ冒険者ギルドへ。

 ちょっとのんびりし過ぎかもしれないけど、早朝過ぎてギルドが開いてないかもしれないからね。

 モニカさんはキューを齧るエルサを微笑ましく見ている。

 エルサ、お願いだからキューを俺の頭にこぼさないでね。

 あ、ちょっとモニカさん、食べてる時のエルサを撫でちゃダメ! そちらに注意が逸れるとエルサがこぼすから!あ……。

 遅かった……エルサの口からこぼれたキューの残骸が俺の頭にべっとりと……


「ごめんなさい。つい、一生懸命食べてるエルサちゃんが可愛くて」 


 モニカさんが謝りながらタオルで拭いてくれる。

 待てよ、モニカさんにお世話をされるのも悪くはないな……これはこれでありかも……とか邪な考えが頭をよぎったけどさすがにそのためにいつもエルサの食べこぼしを付けられるのはちょっとな。

 そうこうしつつ歩いて冒険者ギルドに到着する。

 良かった、この時間ならもう開いてるようだ。

 入口のドアを開け、中に入って受付へと進む。


「あれ? リクじゃないか。またセンテに来てたのか?」


 途中で声を掛けられ、そちらを向くとそこには何人かの冒険者達と一緒にソフィーさんがいた。

 相変わらず綺麗で長い金髪にスタイルの良い立ち姿だね、前の世界ならモデルとかやっててもおかしくないんじゃないかな。


「ソフィーさん! お久しぶり、ですかね?」

「あんまり久しい程ではないな。それで、今日はどうしてギルドに……ん? その頭と、そちらは……」


 ソフィーさんが俺の後ろにいたモニカさんに気付く。

 モニカさんは何故かこちらをジト目で見つつ、俺の横に立ちソフィーさんに会釈をする。

 あとソフィーさん、なにやら俺の頭をチラチラ見ていますが何か……エルサが気になるのかな?


「冒険者のモニカです。リクさんとはヘルサルの街で冒険者になって一緒に活動してます」

「そうか、リクは冒険者になったか! 仲間が増えるのは嬉しい事だ」


 何かモニカさんがソフィーさんに対して少し素っ気ない気がするけど、どうしたんだろう? 人見知りとかじゃないと思うんだけど。

 ソフィーさんは俺が冒険者になった事が嬉しいみたいで、満面の笑みを浮かべているけど、視線がエルサをロックして離れない。


「それで、試験はどうだったんだ? 初期ランクは?」


 試験の結果次第で初期ランクが決まるのは冒険者なら誰でも知ってる事だ。

 俺の試験結果が気になるんだろうけど、どう言ったものか……。


「私はDランクです」

「ほう、Dランクスタートか、優秀なんだな。これからが楽しみだ。それで、リクは?」

「えーっと」


 モニカさんが先にランクを答えたけど、ソフィーさんは俺のランクの方が気になるようだ。

 まあ、隠す事でもないし、教えるか。

 というかソフィーさん、そんな興味津々に聞いてるのにエルサから全然目を離さないんだけど……。


「俺は……初期ランクで、Cランクになりました」

「……は!?」


 俺が初期ランクを伝えると、ソフィーさんだけでなくその場にいた冒険者達全員が驚いて固まった。

 あ、ソフィーさんがようやくエルサから目を離して俺を見た。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る