第36話 ゴブリンがもたらす危機の判明



「数万……ですか……」

「ええ、今までキングやジェネラルの目撃が報告されたギルドがある街では、その後ゴブリンの軍勢に襲われています」

「……」

「それなりの大きさの街でも、その数のゴブリン達に襲われたらひとたまりもありません。頻繁に起こる事ではありませんが、一度ゴブリンキングが現れると壊滅する街や村の数はかなりの数に上ると考えられています」

「……対処法は、ないんですか?」

「一番被害が少ないのは街を放棄して逃げる事ですが……すぐに逃げられない人達もいます。老人や子供等……。あとは冒険者や街の兵士、国が軍隊を派遣して討伐する事ですね」

「国の軍隊で対処してくれるんですか?」

「街や村が複数壊滅する可能性というのは、国への被害は甚大な物になります。国が軍を出すのは当然の事でしょう。……ですが」

「何か、問題が?」


 ゴブリンキングの対処で国の軍隊が来てくれるならそれに越したことは無い。

 軍隊で討伐、制圧すれば街の被害も少ないんじゃないかな?

 でもヤンさんは何か悩んでいるようだ……。


「軍隊が派遣されても、間に合うかどうか……今からすぐ王都へ報告し、軍隊要請をしても早くて1週間。もしかしたら2週間以上かかるかもしれません」

「そんなにかかるんですか?」

「ええ。王都へ報告するのに早馬を飛ばしてヘルサルから2日。そこから王都が判断し、軍隊派遣を決定するのに1日。派遣する軍隊の準備等をして、王都からこの街へ軍隊が到着するのに4日以上というところですかね。あくまで早く見積もって、ですが……」

「その間にゴブリンの襲撃があったら……」

「……何もしなければ、この街は壊滅するでしょうね」

「……」


 皆押し黙ってしまった。

 ヤンさんもモニカさんも深刻な顔をして俯いている。

 ゴブリン達の襲撃が確定としても、数万ってのは想像してなかったからね、どうしたらいいんだろう。


「あのー、ヘルサルで防衛して、軍隊が到着するまで持ちこたえるって出来ますか?」


 俯いていたモニカさんが顔を上げてヤンさんに聞いた。

 防衛か……ヘルサルの城壁は頑丈そうだったから、何日かはもちこたえられるかもしれないな。


「出来るかどうかは判断出来ませんが、それしかないかもしれないですね。すぐに逃げられない人達を置いて逃げるわけにはいきませんし、逃げると当然追いかけて来ますが、追いかけて来たゴブリン達と戦うより、この街の外壁を使って防衛した方が被害が少なくなるかもしれません。軍が間に合えば、ですが」

「間に合わなかった場合は?」

「数に押されて壊滅、ですね」


 街を放棄して逃げても、逃げ遅れる人達に被害が出るし追いかけて来たゴブリンによってさらに被害が出る。

 街で防衛をして、時間を稼いでも軍が間に合わなければ壊滅する。

 どちらを選んでも被害は出る事になるし、最悪どちらも壊滅、か。


「今この街には冒険者が、ランクは様々ですが合計で約200名程います。それとは別にこの街の兵士が約2500名と聞いています。1匹1匹は弱いとはいえ、やはりゴブリン達とは数が違いすぎますね」

「難しいですね」

「……ですが、ただ逃げるというよりも防衛に徹した方が望みはあるかもしれません」


 ヤンさんの考えは防衛する方向へ行っているようだね。

 俺もこの街から逃げて、この街が無くなるなんて嫌だから、抵抗するために防衛する事に賛成だ。

 

「とりあえず、この話はギルドマスターに報告した後、この街の代官にも報告しておきます。どれだけ出来るかわかりませんが、出来るだけの事をしましょう。」

「はい」

「わかりました」

「それで、ですが……多分私もギルドマスターもこの件の対応でここを動けなくなると思います。なのでリクさんには急ぎセンテの街の冒険者ギルド支部へ行って頂き、協力を仰いでもらいたいのです」

「センテの街ですか?」

「はい。この件はおそらく緊急防衛依頼となって、ヘルサルの街の冒険者には強制依頼として出されるでしょう。センテの街の冒険者にもこの依頼を受けてもらえるように向こうの支部へ伝えて欲しいのです」

「……わかりました。出来るだけ早く向こうへ伝えます」

「お願いします。取り急ぎセンテ支部への報告書を作りますので、それが出来次第向かって下さい」

「はい」

「私達は報告書ができるまでこのまま待機ですか?」

「報告書が出来たら獅子亭に届けますので、一旦獅子亭に戻ってマックスさん達に事情を伝えておいてく下さい」

「わかりました」

「はい、父さんと母さんには必ず」


 話しを終え、ヤンさんは真剣な顔をしたまま会議室を出て行った、ギルドマスターに報告に行くんだろう。

 俺とモニカさん、ついでに頭で寝ているエルサは獅子亭に帰る。

 しかし暢気だね、エルサ。

 まあ、このモフモフがあるおかげで俺も必要以上に緊張せずに済むんだけど。

 あー頭がモフモフで幸せ……現実逃避じゃないよ?


――――――――――――――――


「ゴブリンキングか……また厄介なもんを発見したな、リク」

「発見したのはジェネラルでしたけどね。でもヤンさんが言うにはジェネラルを見たら必ずキングが近くにいるらしいんです」


 獅子亭に帰り、マックスさんとマリーさんに報告。

 今日はもう夕飯の営業を終え、ルディさんとカテリーネさんは帰っているようだ。


「そうだな。俺も冒険者をやってる時に散々聞いた事だ。ゴブリン達は弱いが、ジェネラルには気を付けろ、奴を見つけたら必ずキングが襲ってくるってな」

「やぱりそうなんですね。それでヤンさんとの話では防衛をするという事になりました」

「そうね。この街を見捨てて逃げるなんて出来ないわ。逃げ遅れる人達もいるだろうし、何より私達の店もあるんだもの」

「ああ、そうだな。しかし冒険者を引退しても防衛に参加するとはなあ」

「参加してくれるんですか?」

「当たり前だろ! マリーも言ってたようにこの獅子亭を守らなきゃいけねえ。それに久々に全力で魔物と戦えるしな」


 やる気満々なマックスさんとマリーさん。

 元だけど、ベテラン冒険者の二人が加わるなんて、頼もしい事この上ないね。


「さて、リクはセンテの街にある冒険者ギルドに行くんだったな。モニカも行くのか?」

「もちろん行くわ。ジェネラルは私も発見したしね」

「そうか、センテには明日朝の馬車で行く事になるだろうが、報告とやらは今日中に来るだろうな。それまで腹ごしらえでもしとけ」

「今日の夕飯はうちの看板メニュー、獅子亭スープと獅子亭煮込みよ。しっかり食べてね」

「ありがとうございます、頂きます」

「ありがと。父さん、母さん」


 俺とモニカさんは早速とばかりに食事を始める。

 おっと、エルサの分も忘れてはいないぞ? しっかりマリーさんから用意されてすごい勢いで食べてる。

 スプーンの使い方上手くなったな……。


「そういえばなのだわ。リク、街を移動するのだわ?」

「ああ、お前を見つけた森の近くにある街に行こうかとな」


 エルサがキューを齧りながら聞いてくる。

 ああ、食べながら話すから口から色々こぼれてるじゃないか!

 って、モニカさんが嬉しそうにそれを綺麗にしてる、面倒見良いんだなモニカさん。


「早い方がいいのだわ?」

「そりゃ、出来るだけ早く行ける方がいいな。だから明日の朝馬車に乗って向かおうと思ってる」


 馬車に乗れば明日の夕方前にはセンテに着ける。

 またあのお尻が痛くなる揺れを我慢しなければいけないとなると、ちょっとだけ億劫だけど。


「早い方がいいなら、何で馬車なのだわ? 私が乗せるのだわ」

「……あ」

「!?」


 また忘れてた……そういえばこいつ大きくなって飛べるんだったな。

 ヘルサルに帰る時も忘れてたけど、やっぱモフモフである事が重要でその他を考える事が少ないからな。

 それに最近ペット化して来てる気がして、ドラゴンっていう実感が、ね。


「エルサちゃんに乗れるの!?」


 モニカさんが興奮したように、身を乗り出す。


「特別にリク以外も乗せるのだわ。感謝するのだわ」

「うん! ありがとう、エルサちゃん!」


 エルサに乗って行けるなら夜のうちに移動した方が良いかもな。

 見られる心配も少なくなるし。

 センテの冒険者ギルドが夜もやってるかわからないけど。


「じゃあ今日中にセンテに向けて出発するか。そういう事でお願いします、マックスさん」

「わかった。まったく、ドラゴンで移動できるなんてな……」

「ほんと、ちょっと考えられないわよね」

「私は夢のようだわ。ドラゴンに乗れるなんて!」


 これからの方針が決まって、食事を食べ終えた頃、獅子亭の入り口のドアがノックされ一人の男が急いだ様子で入って来た。


「失礼します。冒険者ギルドの使いで来ました。こちらにリクさんはおられますか?」


 その人はヤンさんからのセンテ支部へ渡す報告書を持ってきたギルド職員だったみたい。

 その報告書を受け取り、風呂に入る等の準備をして、いざ、セントの街へ!

 ちなみに風呂はモニカさんが入るって聞かなかった。

 ゴブリンと戦ったりしてたからね、俺もちょっと気持ち悪かったから入れてよかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る