第35話 ゴブリンとの戦闘



 林の中を進む事約数十分、俺の探査にひっかかった場所までやって来た。

 モニカさんと二人、木に身を潜めながらその場所を窺ってる。

 数十匹のゴブリンが集まって群れを作っていた。

 ゴブリンは前の世界のゲームで出て来たのと同じような、小さくてつぶれてるような顔、棍棒を片手に群れの中をそれぞれウロウロしていた。


「結構数がいるわね」

「1、2……ざっと20くらいかな。でも1匹大きめのがいる」


 探査でもわからなかったけど、実際に見てみると奥に1匹だけ他のゴブリン達と違う大きさの奴がいるな。

 1匹だけ鉄の鎧を着ていて、棍棒じゃなく剣を持ってる。


「あれは……父さんの話の中にあったゴブリンジェネラルかしらね、こんなとこにいるなんて」


 ゴブリンジェネラル……将軍か。

 確かマックスさんの話だと、ゴブリン達を束ねて群れで襲ってくるため、厄介な魔物らしい。

 ジェネラル自体も強くて、Cランクの冒険者がパーティで討伐するような魔物と言っていた。

 けど、ヘルサルの周りには出た事が無いってマックスさんが話してたんだけど……これはやっぱり何かこの周辺であるのかもしれないな。


「ジェネラル相手は難しいわね……1匹だけならまだしも、周りのゴブリンが邪魔ね」

「そうだね。どうしようか……このまま放っておくわけにもいかないし」


 調査をする事が目的とはいえ、魔物を発見しておいてみすみす見逃すというのは避けたい。

 冒険者の心得として、勝てそうにない場合は逃げる事も重要と聞かされたけど……。


「まずは、そうだな……俺が魔法で凍らせるから、モニカさんが周りのゴブリンを蹴散らすってのはどうかな? 俺も魔法を使ったらすぐに駆け付ける」

「……そうね、それでいいわ。ただし、前みたいな広範囲を凍らせるのはやめてよ」

「さすがにあんな事はもうしないよ。エルサ、しっかり捕まっておけよ」

「振り落とされたりはしないのだわ」


 エルサに軽く注意をしておいて、俺は魔法のイメージを始める。

 凍らせるよりも火で燃やした方が後処理も含めて楽だと思うけど、ここは林の中だしね、燃え移ったりしたら大事だ。

 よし、イメージ完了!


「フリージング!」


 魔法の発動と同時に辺りの温度が下がり、ウロウロしていたゴブリンの足元から凍り始める。

 よっし、ゴブリンだけに発動した!今回は地面も凍ってない!

 半分以上のゴブリンが頭まで凍ったあたりで、モニカさんが槍をかざして突撃した。

 ジェネラルは……さすがに足が凍っただけですぐに抜け出してるな。


「やぁぁぁ!」


 モニカさんの気迫の掛け声と共に振られた槍で凍ったゴブリンがガラスが割れるような音をさせて砕け散る。

 砕け散った後も凍ったままなので、色々飛び散ったりしなくて良かった。

 俺もモニカさんに続くために走る。


「グルゥァァァァァ!」

「はっ!」

「せい!」


 こちらに気付いたジェネラルが何事か叫び、まだ凍ってなかったゴブリンを差し向けて来るが、モニカさんの槍と俺の剣で切り伏せる。

 凍ったゴブリンも叩いて砕きながら何匹か切った頃に、ジェネラルが俺にめがけて突進して来た。

 モニカさんは凍ってないゴブリンを相手にするので手一杯なようだ、こっちは俺が何とかするしかない。

 ジェネラルが剣を振りかぶり、上段から俺に切りかかるのを剣で受け止め弾く。

 軽いな……これなら!

 

「せい!」


 ジェネラルの剣を上に弾いた事で、相手は万歳状態。

 がら空きの胴に潜り込み、力を込めて剣を横薙ぎに振る!

 

「グガッ!」


 ジェネラルがくぐもった声を出しながら、上半身と下半身が切り離され地面に落ちる。

 他のゴブリンは!?


「これで、最後!」


 残っていたゴブリンの最後の1匹がモニカさんの槍に貫かれて絶命する。


「モニカさん、平気?」

「ええ……何ともないわ。凍らせて数を減らせた分、楽だったわ。それにしても……」

「ん?」

「ゴブリンジェネラルを一振りで切り裂くなんて、聞いた事ないわ。しかも鎧ごと」

「んー、マックスさんからもらった剣が良いんだよ、きっと」 


 前に自分で買った剣はすぐに折れちゃったしね。

 この剣は折れずにちゃんと切れたってことは良い剣なんだよきっと。

 マックスさんありがとう。


「剣だけじゃない気もするけど……まあいいわ。それより、後処理をしないと」

「食べるのだわ?」

「食べないよ!気持ち悪い……ゴブリンは食べてもおいしくないらしいしね」

「埋めるか燃やすかしないといけないわね。魔物が寄って来たり、新しい魔物が発生したりするから」

「んー、じゃあ小さい火の魔法で燃やそうか。まずはゴブリン達を集めよう」

「あ、そうだ。討伐証明の部位を切り取らないと」


 魔物を倒したら、その部位を切り取って討伐証明をすれば討伐報酬がもらえる。

 素材にも肉にもならない魔物はそうやって冒険者はお金に換えるらしい。

 ただ、死体から切り取るってのも少し嫌な気分だね。


「えっと、ゴブリンが耳で、ジェネラルは?」

「確か、通常のゴブリンと同じで耳で良かったはずよ」

「臭くてまずそうなのだわ」


 俺とモニカさんがせっせと部位を切り取ってるのを眺めながら鼻をクンクンしてエルサが嫌な顔をしている。

 確かに臭いね。

 匂いに関してはどうしようもないから我慢するしかない。

 部位を切り取り終わったら一か所に集めて……落ちてた枝を数本、先を燃やして死体に火をつけて燃やしきればお終い、残った骨は穴を掘って埋める。

 骨だけなら掘る穴は小さくても良いから楽だ。


「ファイアー(極小)」


 指先に灯した小さな火の魔法で枝に火を付け、その火でゴブリンを燃やす。


「小さい魔法も上手くなったわね。最初の頃は爆発してたのに」

「まあ、あれだけ練習したからね。さすがに少しは慣れるよ」


 もうあの広範囲の氷を溶かすのも、爆風で熱い思いをするのも嫌だからね。

 そうこう言ってるうちにゴブリン達は燃え尽きた、後は穴を掘って、と。


「よし、骨は全部埋めた。一旦街まで帰ろうか。ジェネラルの事を報告しないといけないし」

「そうね、本来この辺りには出ない魔物だものね」

「飛ぶのだわ?」

「今日は無しだよエルサ。飛んでるところを見られたくないから」

「……乗ってみたかった」


 最後にボソッと呟いたモニカさんの呟きに苦笑して、また今度ねと言ってヘルサルの街へ帰った。



―――――――――――――――



 ヘルサルの街の冒険者ギルドに入ると、登録の受付をしてくれた職員さんがヤンさんを呼びに行ってくれた。

 ヤンさんが奥から出て来て、ギルドに来ていた他の冒険者達が副ギルドマスター直々に出て来るとは何事?という顔をしていたけど、その視線から逃れるようにヤンさんに奥へと通され、筆記試験の時に来た会議室へと案内される。


「何か、進展はありましたか? 予想より早い訪問ですが」


 まあ、昨日の今日だからね。

 さすがに1日でわかるような依頼じゃないから、ヤンさんが少し驚いてる顔をしてる。


「街の西を調べてみたんですが、先程ゴブリンジェネラルを発見しまして」

「ゴブリンジェネラルですか!?」

「ええ、これがその討伐部位になります」


 討伐部位を入れた革袋からゴブリン達の耳と一緒にジェネラルの耳も出す。


「確認させて頂きます……これは……確かに、ゴブリンジェネラルのようですね。これが街の西にいたと?」

「少し離れてはいますが、林の中を数十分程度西に歩いた場所にいました」

「そうですか……」


 そう言ってヤンさんは何か悩むように俯いて黙ってしまった。

 ジェネラルは確かにこの周辺では見る事の無いはずの魔物だと聞いたけど、何かあるのだろうか。


「どうしました?」


 悩んでいるヤンさんに聞いてみると、ヤンさんは顔を上げ、真剣な目で話し始める。


「ジェネラルがこの街付近にいたという事は、もしかしたら、事態は最悪かもしれません。ジェネラルは単独で行動することは無く、必ずそれより上の上位種の命令で動いているのです」

「上位種?」

「ええ、ジェネラルの上位種です。ゴブリン以外の種族から命令される事もあるそうですが、大体の場合、ゴブリンキングに命令される事が多いのです」

「ゴブリン、キング?」

「そうです。ゴブリンキングはその名の通り、ゴブリンの王。群れなんて生易しい言葉ではなく軍勢を率いて街や村を襲います」


 軍勢……ってことは少なくとも数十匹どころじゃないって事か。

 まさか1000匹を越える事はないだろう。


「ジェネラルはキングの次にゴブリンの中で格が高いのですが、これが命令されてこの街付近に来たという事はジェネラルが近くにいた場合、その付近の街や村は必ずおよそ数万のゴブリン種に襲われるというのが、今まで各地でギルドが集めた情報です」


…………ゴブリン…………1000匹どころじゃなかったよ…………。



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