第34話 初めての依頼は指名依頼



 俺の初依頼、魔物調査に関して、ヤンさんから話を聞いた。

 最近の事だが、ヘルサルの街周辺の魔物の数が激減しているらしい。

 今まではこんな事は無く、ある程度冒険者達が狩って数が減る事は多少なりともあるのだけど、今のような状況は無かったみたい。

 ヘルサルはアテトリア王国の中でも王都に次ぐ人口の街、農業等はしていないが、冒険者が狩る魔物を使った素材や肉を輩出する街として有名らしい。

 しかし、街周辺の魔物が減った事で、出回る素材や肉は当然減る事になる。

 そうなれば街としての収入はもちろん、冒険者の収入から始まり、街に住む人達の生活にまで関わって来る。

 ヤンさんが俺に依頼したいのは、どうして魔物が減ったのか、減った原因を調べる事と、その原因を取り除く事が出来るかどうかの調査をして欲しいという事みたいだ。

 この街では過去にそういった事は無かったのだけど、他の国で同じような事があったらしく、その時の原因は大型の魔物の発生による餌の確保での魔物減少。

 他には大量発生の前兆との報告例もあるらしい。

 新人に依頼する内容ではないのだけど、俺の素質ともし大型の魔物がいた場合の対処が出来る人物という事で俺に依頼したいらしい。

 報酬はBランク相当の報酬を用意するとの事で、大分奮発してくれるというので引き受けた。

 この街周辺という事で、元ではあるが詳しそうなマックスさんやマリーさんから話を聞いてみようと、登録が終わった報告もするため、獅子亭に帰って来た。


「ただいま帰りましたー」

「おう、おかえり。どうだった?」

「何か、Cランクになるそうです」

「Cランクだぁ? 初期ランクは最高でもDランクだろ?」

「そうなんだけど、父さん、副ギルドマスターのヤンさんが試験官だったんだけど、それを模擬戦で吹っ飛ばしちゃってね……推薦するからCランクにって言われたの。私はDランクね」

「……やっちまったのか……リク、お前手加減を覚えろって言ったろ?」

「いえ、その……試験なので手加減するのもいけないかなと思いまして。あと、ヤンさんが強そうだと思ったので思わず……」

「まあ、ヤンなら多少の事じゃビクともしないだろうが……それにしてもなあ……」

「それで、Cランクにする代わりにギルドからの指名依頼を受けてくれと言われまして」

「指名依頼? そりゃお前、ギルドからの信頼の証だぞ? ……待てよ……そうか、だからヤンの奴俺とマリーに推薦をって言ってやがったのか……」

「そういえば父さんと母さんの推薦も考えてCランクって言ってたわね」


 マックスさんが推薦したのは、ヤンさんからの提案だったらしい。


「ヤンの奴に俺がリクの事を色々言ったからそれでか」

「色々、ですか?」


 何か俺のいないところでマックスさんがどう言ってるか気になるな。

 さっぱりした性格の人だから、悪い事を言ったりはしてないだろうけど。


「魔法が規格外だとか、俺がリクに力任せに吹っ飛ばされるとかだな」

「それで、なんですね。模擬戦の時の対応は」

「どうした?」

「いえ、模擬戦の時、モニカさんとの時は受けに回っていたんですが、俺との時は最初から全力で攻めてきましたから」

「あー、ヤンは先手必勝が得意な攻め方だからな。俺の話しをそのまま聞いて全力で戦った方が良いと判断すればそうなるか」

「小回りが利いてちょっと厄介だったので、思わず力任せに剣をぶつけまして」

「それで吹っ飛ばした、か」


 まあ、結構長く打ち合って来たから面倒になったというのもある。

 俺は力任せに振り回す事は出来るが、技術で攻められるとどうにも対処できないから、なんてったって剣を持ってまだ半月も経ってないんだ、技術対技術なんて到底無理な話。

 マックスさんは俺の話しを聞いて頭を押さえているけど……。


「それで、その指名依頼ってのはどうだったんだ?」

「ヘルサルの街周辺の魔物調査ですね」

「魔物調査?」

「最近この街の周辺の魔物が減ってるらしいの。それで何か大きな事が起こる前兆なんじゃないかって」

「ヘルサルの街の収入にも響きますし、早急に原因を調べて欲しいそうです」

「ああ、まあ確かに魔物が狩れなくなったら商売が出来なくなるな。うちの店も使ってる肉は魔物の肉だからな」


 そうだったのか。

 魔物の肉、普通に食べてたよ俺。

 この店で出る肉料理は牛肉っぽい味がしてたから、似た動物を使ってるのかと思ってた。

 でも確かにこの街周辺に牧場なんてないようだし、魔物から肉を取るしかないのか。

 魔物の肉っておいしいんだなぁ。


「そういえば確かにリクの魔法練習のために北側に行ったが、見かける魔物の数は少なかったな……いつもはもっと数も種類も多くいるはずなんだが。しかし魔物の調査か……新人がやる依頼じゃねえな」

「多分、マックスさんやマリーさんから情報を得られるっていうのもあるんだと思います」

「そうだろうな、あいつはその辺計算高いからな。悪い奴じゃないんだが、利用できるものは何でも利用するってのが信条らしい」


 穏やかで丁寧な物腰のわりに、ヤンさんは意外と強かな人らしい。

 マックスさん達と同じパーティだったって事だけど、マックスさんもマリーさんも細かい事を気にしない性格だから、バランスは取れてたのかも知れない。


「魔物の調査ならまずこの街周辺に出る魔物を知らないといけないな」


 そうして夜の営業を開始するまでの間、マックスさんと、途中からルディさんとカテリーネさんの教育を終えたマリーさんも加わって、ヘルサルの街周辺の情報を教えてもらった。



―――――――――――――――



 翌日。


「マックスさんに聞いたように、街の西に来たけど……確かに魔物の姿は見当たらないなあ」

「そうね。父さんの言ってた通りなら、狼とか猪の魔物の群れがいるはずだけど」


 ヘルサルの街の西にある森、というか林での調査。

 センテにあった森よりは木々が少なく見通しは良いのだけど、見える範囲に魔物は1匹もいない。


「鳥とかはいるんだけどなあ」

「……魔物を見つけるのだわ? それならリクの魔法で探すといいのだわ」


 いつものように頭にくっついているエルサが言ってくる。

 というか、お前さっきまで寝てたよな? よくしがみついたままで寝られるな。


「魔法で探すって、出来るのか?」

「簡単なのだわ。魔力を薄く広げるイメージで……その魔力に触れた物を読み取ることが出来るのだわ」

「……ドラゴンの魔法、何でもありね……人間の魔力はそんな使い方出来ないわよ」


 ふむ、やってみるか。

 魔力を広げる……そうだな……水の波紋のイメージが楽そうだ……波紋が広がる……林だけじゃなくもっと、もっと遠くまで……。


「やっぱりリクの魔力量はとんでもないのだわ。私の魔力じゃここまで広範囲には広げられないのだわ」


 何かいるのがわかる。

 魔力に触れた物の情報を読み取る……近くだとこれはモニカさんか……あとは木と草と……木に止まった動物か……ん?生き物?これは……人間じゃない、魔力を持った生き物。


「見つけた。魔力を持ってるけど人間じゃない」

「ならそれは多分魔物ね、魔物はどんなに弱くても必ず魔力を持ってるから」

「形はわかるのだわ?」


 形……人間じゃないのはわかるけど……子供くらいの大きさ?二足歩行……結構数がいるな……群れか?


「子どもくらいの大きさで、二足歩行、マックスさんから聞いた話しと合わせると、多分ゴブリンだな。複数いるから群れだと思う」

「ゴブリンなら魔物でも最下級ね。行って調べてみましょう。まだこの辺りにいるのなら何か分かるかも知れないわ」


 俺はモニカさんに頷き、林の奥へと歩きだす。

 ゴブリンか……ゲームとかだと雑魚キャラだけど、こっちでもそうなのか。

 初めて面と向かって魔物と対峙する事に少しだけ緊張しながら、魔力で探知した場所へと向かっていく。


「初めてにしては上出来なのだわ」


 緊張してる中で、エルサに褒められて少しだけ嬉しかった。



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