第33話 冒険者ランク決定



「模擬戦、始め!」


 ギルド職員の合図が響く。

 その瞬間、ヤンさんが弾かれたように向かって来た。

 モニカさんとの模擬戦の時は受けに徹していたのに、俺に対しては向かってくるようだ。


「ふっ!」


 左手のガントレットで殴って来たのを、体をずらして避ける左に避ける。

 それを分かっていたのか、続けて右手のガントレット、いや剣部分で切りつけて来る。


「っ!」


 右手に持っている木剣でヤンさんの剣を払いのけ、こちらもと左手で殴りつけようと振りかぶるが、その時既にヤンさんはバックステップで距離を取っていた。

 そこからは同じような事の繰り返し、ヤンさんの突進と同時に繰り出してくるガントレットの拳、剣の攻撃を避け、払い、反撃する頃にはまた距離を取る。

 会場には複数の人が模擬戦をしているはずだったけど、いつのまにか静まり返り俺とヤンさんがぶつかる音だけが響いていた。

 チラリと周りに目をやると、ギルド職員も冒険者達も、皆俺達を見ていた。


「何やら観客が増えていませんか?」

「……これだけの模擬戦、そうそう見られる物じゃないと思いますよ。はっ!」


 俺の疑問に答えながらも、ヤンさんはヒットアンドアウェイを繰り返す。

 さすがにこれだけの人に見られると少し緊張するなぁ。


「そろそろ、こちらから打つ番ですかね」

「まったく、これだけ攻めても崩せないなんて、どうなってるんですか?」


 ヤンさんが攻めを止め、守りの姿勢に入る。

 俺の攻撃を防ぐつもりのようだ。


「とりあえず、全力で防御して下さいね。とあ!」

「っ!?」


 試験だから力は抜けない。

 なので全力でヤンさんが構えている両手に剣を思い切り振った。


「あ」


 両手でガッチリガードしていたはずのヤンさんが派手に吹っ飛んで壁に叩きつけられ大きな音を立てる。


「…………」

「…………」


 職員の皆さんも、冒険者の皆さんも口を大きく開けて固まってらっしゃる。

 モニカさんは頭を押さえて溜め息を吐いている。

 あれ? 俺何かやっちゃた?


「力を入れすぎなのだわ。腕を弾くくらいでいいのに、体ごと吹っ飛ばすのはやり過ぎなのだわ」


 頭にくっつきながら、エルサが俺にしか聞こえないよう小声で呟く。

 そういえば、マックスさんにも力任せ過ぎるって言われてたんだった……。

 ま、まあ試験だしね、全力を出さないとね?


「えっと、終わりですか?」

「……は! あ、そ、そこまで!」


 これで、俺とモニカさんの冒険者試験も終わったね。



 小1時間後、吹っ飛ばされたヤンさんは無傷で立ち上がり、負けを認めた後俺達を連れて会場を退出。

 俺とモニカさんは冒険者達の目を逃れながらヤンさんについて行き、別室へ通された。


「いやー完全にやられましたね。まさかこれ程とは思いませんでした。これならマックスさんとマリーさんが推薦する理由もわかります」

「えーと、すみません。思い切り吹っ飛ばしてしまって……」

「良いんですよ、手加減なんてしてたら試験の意味もないです。私は本気で相手をしましたからね、それで手加減されずに吹っ飛ばされたとあっては、むしろ負けて清々しいくらいですから。ははは」

「はあ、父さんには力任せにするなって言われてるんですけどね。リクさん、模擬戦とは言え人を吹き飛ばしてはいけませんよ?」

「……はい、すみません」


 ヤンさんは笑っているけど、俺はちゃんと反省しないと。

 今回は木剣だったし、相手がヤンさんだったおかげで怪我もなく終わったけど、相手によっては怪我をさせたりする場合もあるだろうし、気を付けないと。


「さて、二人の試験評価ですけどね」

「はい」

「モニカさんは知識面に少し不安がありますが、戦闘面では問題は無いでしょう。癖が付きかけてはいましたが、それは今後の訓練次第だと思います。現時点ではCランク相当の実力があるとの評価です。さすがはマックスさんとマリーさんの娘さんですね」

「Cランク……」

「ただ、登録時の初期ランクは最高ランクDまでとなっているので、Dランクとなります。順調に依頼をこなせばすぐにCランクにあがれるでしょう」

「Dランクでも十分です。それに初期でDランクになるのでもそんなに無い事なんですよね?」

「そうですね。ここ数年は初期Dランクの方はいませんでしたね。それだけの逸材という事でもあります。将来が楽しみですね」


 少し照れたようなモニカさん。

 そうだよね、あのマックスさんとマリーさんの娘さんが非凡なわけないよね。

 モニカさんは負けず嫌いな事もあって、努力家だからすぐに上のランクに行けるんじゃないかな?

 それこそBランク、果てはAランクも夢じゃないかもしれない。

 俺も置いて行かれないように頑張らないと!


「それで、リクさんなんですが……」

「はい」


 何故か言いづらそうなヤンさん。

 俺の評価そんなに悪いのかな? 筆記で何か失敗した? それとも模擬戦の方で……やっぱ吹っ飛ばしたのがいけなかった!?


「筆記の方は問題なくしっかりと知識を持っているようです。ですが、実技の方がですね……正直Bランクどころか、Aランクでも適わないんじゃないかというのが私の評価です」

「え、Aランク、ですか?」

「……さすがリクさん規格外」

「なので、規定に従えばリクさんもDランクのスタートなんですが……正直に言えばですね、ギルド側としては実力のある方を低ランクに留めるのは損になるのです」

「はあ……」


 身を乗り出しながら説明を始めるヤンさん。

 俺、Dランクでもいいんだけど、何か問題があるのかな?

 むしろEランクでも構わないと思ってたのに。


「ランクというのはですね、実力不相応な人が依頼を受けたりしないような措置という側面もあるのですが、実力のある人が低ランクに留まると、高ランクに分類された依頼が滞る事になりかねません。BランクやAランクの依頼は高難易度の物が多いわけですが、当然それを遂行できる人間は限られてくるのです」

「Bランクは全体の1割、Aランクはさらにそこから1割くらいの人数だと聞きました」

「そうですね、実際にはもう少し少ないでしょうが、大体そのくらいの人数になります。ですが人数が少ないと各地のギルドに行き渡らないのです。実際このギルド支部にはBランクが数人、Aランクになっている冒険者はいません」


 まあ、人数が少なくても世界に広がるギルドだから支部はいっぱいあるはず。

 ギルドの数とAやBのランクの冒険者の数がどうしても合わなくなるのは仕方がない。


「そこでですね、リクさんには特例としてCランクスタートとして頂き、ギルドからの指名依頼をさせて貰い、それをこなす事で速やかにランクを上げていくようにして欲しいというのが私の考えです」

「Cランク……特例ってそんな事できるんですか?」

「前例はありませんけど、可能です。筆記試験は問題なし。実技に関しては私自ら行ったうえ、しっかりと実力を示しました。それは私だけでなく、会場にいた職員や冒険者の方達が目撃しているわけです。それだけの証言と副ギルドマスターである私の推薦、元Bランク冒険者であるマックスさんとマリーさんの推薦がある事で可能となるはずです」

「マックスさんとマリーさんが推薦ですか?」

「高ランク冒険者は実力を見定めた新人冒険者を推薦してランクを上げる査定にプラスにできるのです。これで、リクさんをCランクスタートの特例にできます」


 前例のない特例って、俺そんなにすごい事してないのにな……低ランクからコツコツ依頼をこなしていこうと思ってたんだけど……。


「そういうわけで、リクさんの冒険者ランクはCランクになります」

「はあ」

「さすがリクさんね」


 横でモニカさんが喜んでいたけど、これは喜んでいいんだろうか……まだ依頼を一つも受けていないのにCランクなんて、ちょっと不安になる。


「それで、リクさんにはランクを速やかに上げてもらうために、指名依頼を受けて欲しいのですが」

「指名依頼ですか」

「簡単に言えば、冒険者が依頼を選ぶのではなく、ギルド側が冒険者に直接依頼をする事ですね」

「俺に出来る依頼なら受けますよ」


 ただでさえ、特例としてCランクにしてもらってるんだ、指名されて俺に出来る事なら受けていきたい。

 指名依頼自体、冒険者としては名誉な事っぽいし。


「ありがとうございます。この依頼はCランク以上が受けられる依頼となります」

「それもあってCランクにしたかったんですね。それで、どんな依頼ですか?」

「リクさんにお願いしたいのは、この街周辺の魔物調査です」


 俺の冒険者初依頼は討伐とかではなく調査をする事になるようだ。


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