第32話 冒険者登録試験開始
副ギルドマスターである、ヤンさんの案内で試験会場に通され、俺とモニカさんの試験が開始された。
まずは筆記試験。
試験会場は会議室のような広めの部屋にいくつもの机が並んでおり、複数人同時に試験を受けても大丈夫なようにしてある。
多分試験用ではなくて、本当に会議とかをしてる部屋なんだと思う。
試験官であるヤンさんは、当初の物腰穏やかな雰囲気がなくなり、鋭い目つきで試験を受ける俺達を見ている。
カンニングとかする人がいるからなんだろうなー。
「はい、そこまでです」
約1時間で筆記試験は終了。
内容は冒険者としての心得、簡単な薬草等の知識から、野営や何かを護衛する時の注意点だったりと、色々な知識を問われる内容だった。
一応どれも基礎的な部分の問題が多かったので、この1週間の特訓でマリーさんに習った俺には簡単な問題だった。
……マリーさん、問題を間違えたり、真面目に聞いてなかったりすると容赦なくシルバートレイの角が頭に落ちて来る。
俺はこの世界への興味から真面目に勉強していたけど、勉強が苦手なのか、モニカさんはよく頭の痛みに耐えられずに泣く事が多かった。
ちなみにこの世界、識字率はそこまで高くはないらしい。
読み書きできない人はこの試験をどうするのか聞いてみたら、この試験はパスされるらしい。
ただし、初期ランク判定には当然影響はあるうえ、ギルドから有料で教科書のような物が渡されるらしく、ランクを上げるためには読み書きを習得しないとダメなようだ。
「それでは、次は実技試験ですね。こちらに来て下さい」
ヤンさんの案内で会議室のような部屋から出て移動する。
今度は広い体育館のような場所に来た。
「ここで実技試験をします」
ここは冒険者が訓練をする場所のようだ。
何人かの人達が剣や槍、弓等の武器を持って対峙している。
監督役なのか、スーツに近い服を着て、名札を付けているギルド職員とみられる人達もちらほらと見かけられた。
「登録試験です。ここ、使いますよ」
「はい、どうぞ。しかし、副ギルドマスター直々ですか、珍しいですね」
ヤンさんが職員さんに話しかけているが、やはり副ギルドマスター自らが試験官をやるというのは珍しいのだろうか。
「たまたま仕事が少なくて暇だったもので。それと、知り合いから今回の登録者の事を少し聞きましてね、その確認も兼ねて、です」
「副ギルドマスターの知り合いですか……? 中々面白そうな逸材ですかね?」
「そうですね、私が見る限りですが……ちょっと測りかねてますね」
職員の方は驚いているようだ。
測りかねてるって、モニカさんの事かな?
俺は普通の何処にでもいる人間だからな、色んな人を見て来たであろう冒険者ギルドの副ギルドマスターが測れないような人間ではないはずだ。
「いや、リクさんの事だと思うわよ?」
「え? 俺?」
モニカさんを見ていたらおかしな事を言われた。
んー、俺じゃないと思うんだけどなー。
「さて、それでは試験を始めますね。試験は私と1対1での模擬戦となります。必ずしも勝たないといけないわけではありません。武器を扱えているか、戦闘の素質はどうかといった事の確認ですので。まずはモニカさんからお願いします。武器は槍でしたね、それではこちらを」
「はい!」
呼ばれたモニカさんが前に進み出る。
職員の人が持ってきた、刃引きした槍を受け取ってヤンさん相手に構える。
ヤンさんは何も武器を持って無い……拳に何か付けてるな。
籠手……というより、あれはガントレットかな? 指部分は金属で覆われておらず自由に動かせるようにしているみたいだけど、両手の甲は完全に分厚い金属で覆われてる。
右手のガントレットから、木で作られた剣のような物が飛び出している。
いや、剣のような物と言うより完全に剣だな、木なのは模擬戦で実践じゃないからか。
モニカさんが構えるのを見て、ヤンさんも構える。
ヤンさんの方は剣が突き出ているが、構え自体は格闘家っぽい構えで、両手を顔の前に持って来ている。
「それでは、模擬戦、始め!」
「ふっ!」
職員の開始合図と同時、モニカさんが先手必勝とばかりに槍を突き出し突進。
「ほう、これは中々」
ヤンさんは槍の一突きを左手のガントレットで弾く。
「まだまだ!」
弾かれた槍を引き戻し、モニカさんは次々に槍を繰り出していく。
払い、突き、振り降ろしからの払い、そしてまた突き。
マックスさんとの特訓の成果か、とても初心者とは思えない槍の連続攻撃だけど、ヤンさんは軽々と左手、時には右手のガントレットを使って捌いていく。
「さすがマックスさんの娘さんと言ったところですかね」
「っ!」
そう言いながら、モニカさんの首を狙った突きを左手で弾いたと同時、右手の剣をモニカさんの首元に突き付けた。
「そこまで!」
職員が試合を止め、モニカさんの負けが決定する。
「はあ……はあ……父さんみたいに軽々と受け流されて……はあ……手も足も出ないとはこの事ね……」
「いえいえ、中々鋭い突きでしたよ。いなされてもすぐに槍を引き戻す速度といい、中々初心者にできるうごきではありませんでした。あとは……多分マックスさんに今まで軽々と受けられてたせいもあるのでしょうが、少し変な癖が付きかけてますね」
「はあ……はあ……癖、ですか?」
「ええ、突きの鋭さは十分にあるのですが……次の事を考えすぎというか、止められたらまた次を打てばいいという感じの動きに見受けられました。ですが、最後の1撃のようにいなされてまた次があるとは軽々しく考えるべきではありません。槍は剣よりリーチが長い分、一度弾かれると戻すまでの動作に時間がかかります。なので、一突きに全力を込め一撃必殺とするのが理想かと思われます」
「……なるほど。はあ……はあ……ありがとうございます。参考になりました」
「貴女はまだ若いのですから、焦らず鍛錬していけばもっと強くなれると思います」
全力で戦ったモニカさんは、息を整えながらもヤンさんの指南を受けているけど、時折下唇を噛むような仕草をして悔しさを滲ませている。
やっぱ、負けず嫌いだよなぁ。
ヤンさんからの指南が終わり、少し俯きがちにこちらへ戻って来るモニカさんと交代するように、俺が前に出る。
モニカさんとすれ違う時、軽く声を掛ける。
「お疲れ様、モニカさん」
「はは、負けちゃったけどね」
「あとは任せて」
「……え? ちょっとまさか」
モニカさんに微笑みかけ、ヤンさんと対峙する。
何か戸惑う声が聞こえた気がするが、耳には入れずヤンさんへと意識を向ける。
「リクさん、でしたね。私が測りかねる人材がいる事は嬉しいですが、正直言ってちょっと怖いですね」
「俺は何処にでもいる平凡な人間ですよ。副ギルドマスターで元Bランク冒険者のヤンさんを怖がらせるような事は何もないと思いますよ?」
「そんなまさか。貴方のその雰囲気、何処にでもいる人間が出して良いものじゃないですよ」
モニカさんの言ってた通り、測れない人間は俺の事だったようだ……俺そんな変な雰囲気出してるかな?
「それに貴方のその頭にくっついている犬ですが……ただの犬がおとなしく人の頭にくっついておとなしくしていますかね?」
「珍しい犬なんですよね。俺も拾った時は驚きましたよ」
マックスさんの知り合いという事で、ヤンさんは信用できるとは思うが、念のためここでも珍しい犬だという事で通しておいた。
「さて、話しをするだけでは時間だけが過ぎますね。そろそろ始めましょうか。私がどこまで通じるか」
「先輩冒険者の胸を借りますよ」
話している間に職員から木剣を受け取って構える。
ヤンさんも同じく構えるが、モニカさんと対峙した時にはなかった緊張感が漂ってる。
真剣な顔でこちらを見る姿に油断はなく、全力を出す気でかかるようだ。
俺も全力でかからないといけないな、試験だから手加減する気はないけど。
「それでは、模擬戦、始め!」
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