第31話 冒険者登録のためギルドへ
獅子亭に新しく来た従業員、ルディさんとカテリーネさん。
二人は結婚したばかりで、とても仲が良さそうだ。
真面目そうなルディさんだけど、少し気弱なところがあるようで、年上のカテリーネさんの尻に敷かれているっぽい。
いつか二人で食べ物屋の店を持ちたいという事で、獅子亭に修行がてら働きたいのだそうだ。
「よろしくお願いします。獅子亭の評判はよく聞いています。頑張って勉強させてもらいます」
「よろしくお願いしますね。ほらルディ、そんなにガチガチに緊張しないでシャキっとして」
「う……すまない」
「よろしく。俺が店主のマックスだ。これからビシバシ鍛えてやるからな」
「知ってると思うけど、マリーよ。よろしくお願いね」
「モニカです、よろしくお願いします」
「リクです。俺もまだまだ新人ですが、よろしくお願いします。こっちはエルサ」
「ワゥ」
エルサには悪いが、二人の前……というより他の人の前では犬の振りをしてもらおう。
「白い犬だなんて珍しいわねー。わーモフモフだわー」
「こら、カテリーネ、失礼じゃないか」
「いえ、いいんですよ。存分に撫でてあげて下さい」
「……ワゥ」
エルサが少しだけ不満気な顔をしてるが、それには構わずカテリーネさんに撫でさせる。
モフモフは世界共通言語だからね! モフモフの素晴らしさは共有するべき!
「それじゃあ、軽く店の事を説明しておくわね」
「「はい!お願いします」」
二人が揃って返事をして、マリーさんについて行った。
カテリーネさんだけは、もう少しエルサを撫でたかったのか名残惜しそうな顔をしていたが。
「これで、リクとモニカが冒険者の仕事を始めても大丈夫だな」
「はい。でも冒険者としての仕事が無い時とかは店を手伝いますよ」
「私も手伝うわ」
「二人共ありがたいんだがな、無理はするなよ?」
「はい」
「ええ」
冒険者になったからと言っても、ここで働かないわけにはいかない。
マックスさん達に恩返しをしなきゃいけないし、まだ借りてる2階の家賃分くらいは働かないとな。
「それじゃ、新しい従業員が来た事だし、お前ら冒険者ギルドに行って登録して来い」
「今からですか?」
「ああ、モニカの特訓はまだ終わってないが、登録するだけなら早くてもいいしな」
「わかったわ。それじゃあ行って来るわね」
「場所はわかるか?」
「大丈夫よ、私が案内できるから」
「そうか、じゃあ行って来い」
「はい、行って来ます」
早速とばかりに冒険者登録をする事になった。
ここまで来たら、冒険者になるか決めかねてるとか心の準備がとか言ってられないか。
2階の部屋へ戻り、軽く準備をして部屋を出る。
センテの街で買った皮鎧を着て、マックスさんから借りてる、というより、特訓が始まってすぐマックスさんが「そこそこ良い剣だ、物置に仕舞って置くのももったいねえから使ってくれ」と言って貰ってしまった剣を持つ。
店の入り口には、槍を持ち、俺と似たような皮鎧を着たモニカさんが待っていた。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
「ええ、リクさん。よろしくね」
「私も行くのだわ」
いつものようにエルサが頭にドッキングし、 モニカさんの案内でヘルサルの街にある冒険者ギルドへと向かった。
……………………
…………………………………………
ヘルサルの街にあるギルド支部。
センテの街のよりは少し大きめだった。
ヘルサルの方が人口が多いからだろうか? それとも単に冒険者の数が多いだけかな?
モニカさんと二人、少し緊張しながらギルドのドアを開け、中へ入る。
ギルドの中はセンテの街のとほぼ変わらないようだ。
何人かの冒険者に見える人達がテーブルに陣取り、入って来た俺達を見るが、すぐに視線を外し談笑に戻る。
「えっと、あそこが登録の受付かな」
カウンターの一番左端、冒険者登録受付と書かれている場所へ行く。
センテの街では職員に獣人がいたが、こちらの受付は普通の人のようだ。
「冒険者ギルドへようこそ。冒険者登録ですか?」
「はい、お願いします」
俺がそう言うと、受付嬢はカウンターの下から書類を出して俺達の前に置いた。
「こちらに必要事項の記入をお願いします。冒険者に関しての説明は必要ですか?」
「説明は大丈夫です。知り合いに冒険者がいるので、その人に色々聞きましたから。……えっと、名前と得意な武器? あと魔法が使えるかどうか、か」
「私は槍ね。魔法は検査してもらったら使えるって言われたから、使えるにするわ」
「……よし、出来た」
「私も出来たわ」
「はい、ありがとうございます。それでは初期ランク判定のための試験を受けてもらいますが、今からすぐでも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「私も大丈夫よ」
試験を受けるのか……学校以来だけど、どんな試験になるんだろう。
受付嬢さんが立ち上がり、後ろに向かって声を掛けようとしたところで、さっき俺達が入って来たのを見ていた冒険者がこちらへ近づいて来る。
「おう、女連れで登録たあいい身分だなぁ」
「はは、こいつ女に振られたばっかでよお。兄ちゃんすまねなぁ」
「うるせぇ! ふむ、この兄ちゃんはちょっと頼りなさそうだ、そこの姉ちゃん、登録が終わったら俺達のとこに来ねえか? 兄ちゃんよりは頼りになるぜ?」
何か、絡み方がテンプレっぽいんだけど……とりあえず、チンピラっぽい最初に話しかけて来たスキンヘッドのおっさんを観察する。
腰に下げてるのは斧、筋肉が結構付いてるから力はあるんだろう。
力任せに斧を振り回すタイプかな? でもマックスさんの方が力がありそうだ。
身に着けてるのは金属の上等そうに見える部分鎧を着て、急所は守れるようにしている。
ニヤニヤしながらも少々威圧的、モニカさんを見る目が怪しいのが気に入らない。
「何ですかアナタ達は。私はリクさんとパーティを組むんです。アナタ達とは組みません」
「ははは! また振られたな!」
「ちっ!うるせえな!」
モニカさんにすげなく断られて、周りにいる他の男達は笑っている。
チラホラと見かける女の冒険者さん達は、冷たい目線を男に向けてる。
「そうやって威圧的でうるさいからモテないんじゃないですか?」
「お、言うねえ兄ちゃん」
「てってめえ……」
何かモニカさんを見る目が嫌で挑発するような言い方になってしまった。
周りの男達は面白い物を見るように見ているが、声を掛けて来た男だけは俺を睨んで顔を真っ赤にしてる。
何かそろそろ殴りかかって来そうな雰囲気……男が拳を握り振り上げようとした。
「やめた方が良いですよ」
カウンターの奥から若い男の声が響き、男が動きを止めた。
「ふ、副ギルドマスター……」
「その娘さんは、元冒険者のマックスさんの娘ですよ? Eランクのアナタ達が絡むのは辞めておいた方が身のためだと思います。」
「何だって!? あの元Bランク冒険者の!?」
副ギルドマスターと呼ばれた男性が言った事を理解した男達が驚きながらモニカさんを見る。
何か、何人か腰が引けてるんだけど……マックスさんてそんな怖いの?
「す、すまなかった!」
「俺達も楽しんで見ていて、すまなかった」
絡んできた男も、それを見て笑っていた男も顔を引きつらせてギルドを出て行った。
というか、逃げ足早いなー。
2、3人くらい残像が見える速度で出て行ったぞ。
マックスさん何したんだろう?
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえいえ、あのようなチンピラが若い人に絡むのは良くある事なのですが、ギルドに取っては頭の痛い問題です」
「ははは、それであなたは? 副ギルドマスターと呼ばれてましたが」
「失礼しました。私、ヘルサルのギルド支部にて副ギルドマスターを務めさせて頂いております、ヤンと申します。マリーさんから聞いてますよ、リクさんとモニカさんですね?」
「ええ、そうですけど、母さんと知り合いなんですか?」
「私は以前、マックスさんやマリーさんと同じパーティでしたので。近々有望な若者が登録しに来るからとマリーさんから聞いています」
「という事は、副ギルドマスターもマックスさんたちと同じ?」
「私の事はヤンで結構ですよ。ええ、私も元Bランク冒険者でした。さて、冒険者登録のランク決め試験でしたね。私が試験官を務めますのでよろしくお願いします」
「ヤンさん、こちらこそよろしくお願いします」
「お願いします」
ヤンさんは黒髪を肩まで伸ばしたサラサラの髪をした優男と言った顔立ち。
少し線の細いスマートな出で立ちだけど、戦士のような雰囲気が漂っている。
副ギルドマスターで元Bランク冒険者の人が試験官か、これは結構厳しい試験なのかもしれないな。
ギルドに入って来た時よりも緊張しつつ、ヤンさんについて試験会場に入った。
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