第27話 リクのドラゴン魔法実践



「えっと……ナニコレ?」

「使う魔力が多すぎなのだわ。人間一人が本来使える最大魔力の倍は使ってたのだわ」

「そんなに!?俺、大丈夫か?魔力枯渇とか……」

「それは何ともないのだわ。リクの魔力量から比べたら微々たるものなのだわ」

「……俺の魔力量って」


 人間の最大魔力の倍を使って微々たるものって、俺の魔力どうなってるの?

 益々チートじみてない?

 ……というか俺人間なのかな? ハハハ。


「……生きてるって素晴らしい事なんだな」

「ええ、アナタ。生きてるだけで感謝しないといけないわね」

「……寒い」


 マックスさん達は目の前の光景に驚いているようだ。

 俺も驚いてるからね!こんなに威力のある魔法なんてどうしろと!?


「落ち着くのだわ。リクはドラゴンとの契約者なのだわ。これくらいは出来て当たり前なのだわ。けどリク、最初に言った通りやっぱり練習して慣れないといけないのだわ」

「……確かにそうだな。慣れないうちに使ってたら危ないとこだった」

「幸いリク本人が危ない威力じゃないのだわ。そのあたりはイメージと操作が出来たみたいなのだわ」

「俺自体に影響がなくてもこの威力はなぁ」


 さすがにこの威力を街中や人の多い場所で使うわけにはいかない。

 すごい魔法だとか騒がれたりする前に、被害がひど過ぎて俺が正気を保ってられそうにない。

 というか、火の魔法じゃなくてよかった……凍ったのが全部火だとしたら余波で色々焼けてるんじゃないだろうか。


「これがドラゴンの魔法か。規模が大きすぎて意味が分からんな」

「人が、私が使う魔法なんて子供の遊びって言われてもおかしくないわね」

「今まで母さんに見せてもらった魔法って何だったんだろうって気がしてくるわ。ところでこれどうするの?」


 自分達のいる場所以外に広がっている氷の地面。

 たまにホーンラビットなんかが、凍って氷の上に転がってるのをモニカさんが見ている。


「放っておいても勝手に溶けるのだわ。解けない氷も作れるけど、今のリクにそれをやらせたら危ないのだわ。もっと魔法に慣れないといけないのだわ」

「溶けない氷って、存在してたのか」

「おとぎ話しにはあったけど、さすがに作り話かと思ってたわ」

「まずリクは魔力を最小限に抑えて小さい魔法を使うようにしないといけないのだわ。大きい魔法もつかえるけど小さい魔法から使っていった方が慣れやすいし魔力操作も上手くなるはずなのだわ」

「慣れる慣れない以前に、大きい魔法ばかりだと練習場所も困るし、何よりいつもこんな効果を目の当たりにしてると俺の精神が持ちそうにない……」

「というかリク」

「何ですか?」


 ちょっとした疑問という感じでマックスさんが声を掛けて来るが、片足が少し後ろに下がって引き気味なんだけど……。

 怖くないですよー。


「これだけの魔法を使って大丈夫なのか?魔力を大量に使ってるはずだが、体の調子はどうなんだ?」


 どうやら茫然としてたのでエルサの言葉は耳に入っていなかったらしい。


「何ともありませんね。魔法を放つ時少しだけ体から何かが抜ける感じがしましたが、体調が悪くなったりはしてません」

「やろうとすればリクはこれ以上の魔法を連発する魔力があるのだわ」

「……」


 えっと、マックスさん? 何故後ずさりしてますか? 何もしませんよ? 怖くなんてありませんよー?


「魔法を放つ前に尋常じゃない魔力が見えたけど、あれが少しだけ?ちょっと理解が……」


 マリーさんは頭を押さえてるし……。


「リクさん、今まで偉そうに指導しててごめんなさい。これからは気を付けます」


 モニカさん?教えてもらえるのは嬉しかったし、偉そうだなんて思ってませんよ?謝らなくていいんですよ?これまで通りでいいんですからね?


「あのー、皆さん?」

「「「……」」」」

「ちょっと!無言で離れるのは辞めて下さい!」

「だって」

「なあ」

「ねえ」

「こんな事が出来るからって、変な事には使いませんから!皆さんとはこれまで通りですから。何も変わりませんから!」

「「「ほんとに?」」」

「ええ。皆さんに対して何かするわけないじゃないですか。むしろこれまで働かせてくれて感謝してるんですから」


 この人達には本当に感謝してもしきれない。

 働かせてくれただけでなく、素性も知れない俺を心配までしてくれた。


「まあ、リクならそう言うと思った」

「リクは私達に何かするような人じゃないのは知ってるわよ」

「リクさんの反応、楽しいわ」


 三人ともニヤニヤしてる。


「からかったんですか?」

「フューフュー」

「口笛吹けてないですよ?」


 まったく……でも、楽しいからいいか。


「和やかにしてるところ悪いのだけどだわ」

「どうしたエルサ?」

「この氷をどうするかなのだわ」

「あー、確かに。このまま放っておけないよな」

「時間が経てば勝手に氷は解けるのだわ。けどこの範囲だと溶けるのに時間がかかるのだわ」

「溶ける前に誰かが見つけでもしたら、それこそ大騒ぎになるだろうな」

「そうね」

「氷に囲まれてると少し寒いわ」


 数十メートルに渡って氷漬けだからな。

 知らない人が見たら間違いなく、何か大変な事が起こったと大騒ぎになる事は簡単に想像できる。


「……この氷を練習に使うと良いかもしれないのだわ」

「氷を?」

「氷に向かって火の魔法を使うのだわ。火で溶かせば短時間で終わるのだわ」

「火を使うのは危なくないか?」


 今回使った魔法の威力を目にした事で、使う以前より火の魔法が危ないんじゃないかと自分で自分を警戒している。

 火傷とか……それこそ火で焼かれるなんて嫌だからな。


「もちろん、火の魔法を使うときは注意が必要なのだわ。だから使う魔力を少なく、小さい火で溶かしていくのだわ。それなら何回も使う事になるから練習にもってこいなのだわ」

「確かにそうか……でも制御を間違えたら」

「大丈夫なのだわ、次からは私が見張るのだわ。危険があるような魔力を使おうとしたら止めるのだわ」

「それなら大丈夫かな?」

「けど、この範囲を溶かしていくなんて時間がかかり過ぎるんじゃないか?今更魔力に関しては心配してないが」

「それなら私も手伝うわ。久々に思いっきり魔法を使ってみたいからね。もちろん、使い過ぎには注意をしてね」

「母さんは火の魔法が得意だったわね」

「それじゃ、俺とモニカは見学だな」


 マリーさんに手伝ってもらえるなら早く終わるかもな。

 火の魔法に対してはまだ少し不安はあるが、エルサが止めてくれるだろうしマリーさんもいてくれるなら心強い。

 俺の魔法を見張るためか、モニカさんに抱っこされていたエルサが翼をはためかせて俺の頭へドッキング。

 モフモフがあればなんでも出来る!

 モニカさんは今まで触っていたモフモフが無くなって少し寂しそうだけど、このモフモフは俺がモフモフするんだ!

 モフモフーモフモフー、頭に引っ付いたモフモフがー……おっと、魔法に集中しないとなモフモフ。


「エルサちゃん、その大きさでも飛べるのね。綺麗な羽」

「それじゃ、始めるのだわー」

「わかった」

「ええ」


 魔法のイメージは、小さい炎。

 ライターとかマッチの火でいいかな。

 変換する魔力の量は小さく、小さく……


「あ、今度はリクさんの周りの魔力が赤いわ」

「使う魔法によって色が違うのか、さっきより魔力は少なくなってるみたいだな」


 イメージしやすい火の魔法の名前は……と。


「ファイアー!」


 手のひらサイズの炎が地面に向かって飛んで行く。

 結構離れた場所に飛んだのに、熱と共に爆風がこちらまで届いてるな……もう少し小さくしないと危ないか。

 こうして俺は、自分で凍らせた地面を自分で溶かしていった。



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