第21話 森から出る前に強制戦闘
森の中に戻ってしばらく歩いた。
「なあエルサ?」
「なんなのだわ?」
「もう少し小さくなれないか?」
そんなに重いわけじゃないんだけど、ずっと抱きかかえてるとさすがに腕が疲れてくる。
腕が固定されているので、剣が持てない。
鬱蒼と生い茂る森という程でもないけど、進んでいると邪魔になる枝葉があるため、それをどかしたり切ったりが出来ない。
「出来るのだわ」
またさっきのように光に包まれたと思ったら、今度は両掌に乗るくらいのサイズ、チワワくらいのサイズになった。
「そのくらいの大きさにもなれるのか」
「さっきの大きさが一番楽なのだわ。けど、多少魔力を使っていいならこれくらいの大きさにもなれるのだわ」
「へえー。じゃあ今朝のような大きい姿は?」
「あれが本来の私の大きさなのだわ。けど大きい分魔力を使うから、小さくなって省エネモードになるのだわ」
「あれが本来の大きさか。やっぱドラゴンはデカイんだな」
「この大きさならここが楽そうなのだわ」
小さくなって乗っていた掌から小さい体をちょこまか動かし、俺の体を登っていく。
「おい、そこでいいのか」
「ここが落ち着くのだわ」
エルサは俺の後頭部から頭に覆い被さるようにくっ付いた。
ちょっとだけ首が重くなったが、これくらいなら問題はないだろう。
腕も使えるしな。
そうして移動する事しばし……そろそろ森の端が見えて来る頃に、俺を囲むように近づいて来る人の気配に気付いた。
「何か、気配を感じるんだが」
「多分、リクが言ってた野盗なのだわ。私と契約した今のリクなら隠そうともしない人の気配くらい簡単に気付くのだわ」
「契約って便利だなー」
何か、契約っていえば何でも通じる気がしてきた……。
そう言ってる間にも、囲んでいる気配はジリジリと近付いて来る。
「森から出たくらいじゃ逃げられそうにないな……」
「どうするのだわ?」
「……迎撃するしかないだろうな」
森に入った頃の俺なら、慌てて逃げるだけだっただろうけど、今は落ち着いていた。
理由はわからないが、野盗がいくら束になって来たところで負ける気はしなかった。
その場で止まり、以前買った剣を抜いて待ち構える。
昨日の構えは見様見真似の正眼の構えだったけど、今は片手で剣を持って構えている。
「ほう、昨日は下っ端ジールを追い払ったらしいが、坊主只者じゃあないな」
俺を囲んでいる気配の中から一人が進み出て喋りかけてくる。
「ジール?ああ、昨日襲い掛かって来た人の……仲間か?」
「一応な。下っ端だが仲間に怪我を負わせたんだ、生きてこの森から出られると思うなよ」
昨日襲い掛かって来た野盗の仲間らしい、リーダーなのかな?。
昨日はひたすら必死だったからな……何とか追い払ったけど、今日のこの数……14人か……昨日の時点でこの数に襲われてたらひとたまりもなかったな……。
「やれ!」
リーダーっぽいおっさんの一声で囲んでいた気配が一斉に動く!
「おらあ!」
まず左手側から一人木に隠れていた奴が叫びながら飛び掛かって来るのを、右手に持った剣で振り払う。
相手の武器や体格等を確認するまでもなく、振り払った剣に打たれてその一人は飛んでいく。
「おー、あれ森の外まで飛んだんじゃないか?」
「……」
その一人の犠牲で俺が簡単な相手じゃないと分かったんだろう、隠れていたところから姿を見せていた何人かが足を止めていた。
「来ないの?」
「……チィ!」
わざわざ挑発してみたら、あっさりそれに乗って襲い掛かって来る。
前から一人、右から一人、後ろから二人。
一応連携を取るような形で襲い掛かって来るけど、動きが遅い。
前からくる奴を右足で横腹を蹴り飛ばしつつ左回りで振り向き、振り向いた勢いのまま後ろから来た二人に剣で横薙ぎの一振りを武器に当てそのまま力任せに吹き飛ばす。
右から来た奴は剣を振るった勢いのままそちらに体を捻り、左手で武器を持った手を掴んで一度体ごと一回転させて放り投げる。
全員木を超えて森の外かその近くへと飛んでいく。
そこからは簡単だった。
やけくそなのか、襲い掛かって来た奴をなんだかんだで吹き飛ばし、残ったのはリーダーっぽいおっさんとその横に一人だけ。
「何なんだこいつは……」
「何なんだって言われても……ただの飲食店の従業員だよ?」
「んなわけあるか!お前、冒険者か!?」
「冒険者じゃないな。なってみたいとは思うけど、まだ登録してないし」
「……くそ!」
「お頭ぁ、どうするんで?」
「どうするもこうするも、やるしかないだろうが!」
「……でも」
「うるせえ!行くぞ!」
お頭と呼ばれたリーダーっぽいおっさんはでかい両手剣を持って、もう一人は斧を振りかぶって襲い掛かって来る。
上段から来る斧を剣で受け止める、と、受け止めた剣が音を立てて刀身の半ばから折れる。
力任せに使いすぎたようだ、初心者用の剣でそこまで良い物じゃなかったから仕方ないか。
振り降ろされた斧は剣が折れたために力が流された形になり、地面に突き刺さる。
「しめた!」
チャンスと思ったのか、おっさんの方が両手剣を横なぎに振るのを、折れた剣先が地面に落ちる前に拾い両手剣に投げつけて止める。
「ちぃ!」
「くそがぁ!」
目の前で斧を持った男が再度振りかぶって来るが、そこに一歩踏み込んで折れて半分になった剣の残りの刀身で切りつける。
「ぐっ!」
右脇腹から腹の真ん中まで深々と切り裂かれた男はくぐもった声を出しながら倒れ込み、動かなくなる。
あれ……俺、これ、殺した?え?あれ?
相手を吹き飛ばすだけで殺そうとまでは考えていなかった。
剣が折れた事に少し動揺して、全力で反撃してしまった。
「まだ来るのだわ!」
動揺してしまった俺に、両手剣を持ったおっさんが切りつけて来るのをエルサが知らせてくれる。
俺は折れた剣を手放し、もう一本、マックスさんから借りた剣を抜いた勢いで両手剣を弾き飛ばす。
「ぐあ!」
そのままの勢いで左手を握り込み相手の鳩尾を殴り、拳を振りぬいて先程までの野盗たちと同じ方向へ飛ばす。
「……ふぅ」
「終わったのだわ」
他に人の気配はない。
戦闘が終わった事に安堵する事もなく、切ってしまった野盗を見る。
地面には血が広がっており、ピクリとも動かないそいつが死んでいるのは一目瞭然だった。
「どうしたのだわ?」
「……俺……人を殺した……」
「襲って来たのだから仕方ないのだわ。それに野盗何かやってるのだから殺されても文句は言えないのだわ」
「……それは……そうだけど」
「……大丈夫なのだわ……悪いのはリクじゃないのだわ」
動かないそれから目が離せない俺の視界の隅が光り、頭が軽くなったと思ったと同時、白く輝くものに包まれる。
「……大丈夫……大丈夫……なのだわ」
「……エルサ」
包まれたのは、大きくなったエルサ。
エルサは俺を安心させるためにしてくれたのだろう。
少しだけそうしている事で、モフモフとエルサの声に何とか気持ちを切り替える事が出来た。
「……ありがとうエルサ」
「これくらいなんて事ないのだわ」
最後に俺の頭をモフモフで撫でるようにして、また小さくなって頭にくっついた。
気持ちを切り替えて、森の外に向かって移動。
「ようやく出られたな」
森から出たのは、センテの街に馬車で移動した時に途中で休憩した場所だった。
途中気絶した野盗達が転がっていたが、それらは手足を縛って街道近くに転がせておいた。
縛る物は野盗達が縄を持っていたのでそれを使った。
捕まえて街に連れて行くことも考えたが、徒歩で移動しているので邪魔にしかならない。
ここに転がせておけば、馬車が通りがかって発見されるだろう。
「それじゃ、ここからは街道を歩いて行くか。夜までにヘルサルにつけるか……いや、無理せず途中で野宿だな」
「野宿するのだわ?飛んで行かないのだわ?」
「……え?」
「ん?」
思わず頭に引っ付いているエルサを掴んで顔の前に持ってくる。
「……飛べるの?」
「飛べるのだわ。飛んでて墜落したって言ったのだわ」
「…………確かにそう言ってたな……」
「大きくなった私の背中に乗れば一緒に飛べるのだわ」
「……そ、そうか……ドラゴン……だもんな……飛べるよな」
衝撃的?事実を知らされ、だったら広場から飛んで行ったらよかったじゃん!森の中を歩いた労力と野盗と戦ったのって全部無駄だったの!?
という葛藤もあったが、エルサにお願いしてヘルサルまで飛んで行く事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます