第20話 よくわからないけど契約のおかげで強くなったらしい
遠くで鳥の鳴き声が聞こえる……。
「……ん」
瞼の向こうから光が見える。
朝か……。
目を開け体を起こそうとするけど、何かの魔力に絡めとられたように動かない、いや動かないのではなく、動く気が出ない。
何やら幸せな感触が体全体を覆い尽くしている。
「……モフ……モフ」
寝惚けているのか何なのか、まだ頭ははっきりしないけど、無意識にモフモフを求めている。
というより、モフモフをひたすら堪能している。
「ああ、昨日の……」
目を開けると視界いっぱいの輝く白。
それを見て思い出す昨日の出来事。
「ドラゴン……なんだよな……」
そのドラゴンは俺を、朝日に照らされて昨日よりもさらに美しく白く輝いている体で守るように丸まっている。
モフモフに包まれてたから外でもこんなにしっかり寝られたのか……。
やっぱこのモフモフは素晴らしい!
「……リク?」
「起きたか?エルサ」
さすがにこれだけモフモフしていれば起きるか。
丸まっていた体の先、エルサの顔が持ち上がる。
昨日も思ったが、やはりデカイ。
顔だけで俺の体くらいの大きさがある。
起きたばかりでまだ眠そうな目をしていたが、その大きい顔を一回横に振ってようやく意識がはっきりして来たようだ。
「……お腹空いたのだわ、リク」
「俺もだな、しかしその大きい体で何を食べるんだ?」
「昨日食べたのがいいのだわ!」
「キューか……あれはもう今はないんだ」
「そうだったのだわ、そう言ってたのだわ」
「んーと、他のなら色々あるけど……足りるのか?」
「昨日のキューとやらがないのなら何でも食べるのだわ」
「種類というより量がな。大量の食糧を持ってるわけじゃないからな」
そう言って鞄の中を漁るが、昨日買った食料の残りは増えていたりしない。
鞄いっぱいに詰めて来たといっても、俺だけならまだしも、エルサの大きな体では量が足らないだろう。
「大丈夫なのだわ、そんな時はこうするのだわ」
「?」
言うが早いか、エルサの体が光に包まれながら、光と共に小さくなっていく。
「すごいな」
光が収まった時には、昨日見つけた時と同じくらいの大きさになっていた。
「小さくなれば、食べる量は少なくても満腹になるのだわ」
「便利だなー……しかし……」
小さくなっても綺麗なモフモフは健在だけど、あの大きな体が埋もれるようなモフモフが……。
小さくなって残念なんて考えてないぞ?うん、もっとあの大きなモフモフを堪能したいなんて思ってないからな!……多分。
「リクは私の体を触り過ぎなのだわ」
「すまない、どうしてもモフモフがあるとな……」
「レディに対して失礼なのだわ」
「……ドラゴンにも性別ってあるのか……すまなかった。今度からは許可を取ってからモフモフするように気を付ける」
「まあいいのだわ。それよりご飯なのだわ」
「そうだな」
俺は鞄に入っている食料を出し、簡単に食事の準備をする。
上等な物はないが、野菜と干し肉等の携帯食料で簡単に朝食を取る。
この後森を出るために動くので、満腹になるまでは食べないでおこう。
「モキュ、モキュ」
エルサの方はそんな事を考えていないのか、しっかり食べている。
さすがドラゴンなのか、俺が抱えられるくらいの大きさなのに、俺より食べている。
鞄の中身が3分の1くらいになったあたりで食事は終了。
「これからどうするか」
「街に行ったらキューが食べられるのだわ?」
「そういやそんな事も言ったな。契約前に」
「キューが食べられると聞いて契約を決心したのだわ!」
「食欲に負けたのか……それでいいのかドラゴン……」
「いいのだわ。契約した後に気付いたのだけど、リクが私が契約するべき人間だったのだわ」
「契約するべき人間?」
「ドラゴンは人と契約するのが定めと言われているのだわ。誰とでも契約するものじゃないのだわ。ドラゴンは本能で契約する相手がわかるのだわ。私は1か月前まで契約する相手がわからなかったから、それまで落ちこぼれドラゴンかと思っていたのだわ」
「落ちこぼれドラゴン……1か月前っていうと俺がこの世界に来たときか。契約すると何かあるのか?」
「ドラゴンは契約した相手の魔力を貰う事で本来の強さを発揮できるのだわ。契約しなくてもその辺の魔物や人間には負けないのだわ。契約する事で制限されていた能力が解放されるのだわ。だから1か月前にリクがこの世界に来た時は嬉しかったのだわ」
「それで浮かれてここに墜落か……契約した相手の魔力って、俺にも魔力はあるのか?」
「浮かれすぎた事は反省してるのだわ。リクは人間にしては大きい魔力を持ってるのだわ。契約には大きさは関係ないのだわ。ほんの少しの魔力でドラゴンの力が解放されるのだわ。けどリクの魔力が大きいから、小さくなったままだった私もすぐに大きくなれたのだわ」
「魔力……ねえ……だったら俺にも魔法は使えるのかな?」
そういえばユノがこの世界には魔法があるって言ってた。
こっちに来てからまだ一回も誰かが魔法を使うところは見てないけど。
「使えるはずなのだわ。人間は魔法を習得しないといけないはずだけど、リクは私と契約してるからドラゴンの魔法が使えるはずなのだわ。ただ、慣れてないから今は使わない方がいいのだわ」
「ドラゴンの魔法って何なんだ……ってか慣れないといけないのか?」
「元々の魔力が大きいのと、私と契約した事で本来人間に扱える量とは比べ物にならない魔力量で魔法が使えるのだわ。けど、慣れずに使うと自分まで巻き込んでしまうのだわ。魔力だけじゃなくて、ドラゴンの魔法は強力なのだわ」
「強すぎるからってことか……」
「まずは小さい魔法から練習して慣れていくといいのだわ」
帰ったらどこかで練習してみるか。
魔法が使えるなら使わない手はないし、使ってみたいからな!
って待てよ……普通は使えないドラゴンの魔法が使えるって……これは。
「もしかして、チート能力なんじゃ……?」
「リクの記憶でいう言葉ならそう言うかもしれないのだわ。普通の人間じゃリクにはもう勝てないのだわ」
……ラノベとかでよく見る展開になってたな……。
まあ、使い方には気を付けよう。
まずは慣れる事からだ。
「……とりあえず、魔法の事は置いておいてまずはヘルサルに帰るか」
「街なのだわ?キューを食べるのだわ!」
すごいキューを気に入ったらしいな。
ドラゴンなら肉とかが好物のイメージだけど……まあ、そんなドラゴンがいてもいいか。
「まずは森から出る事からだな。野盗に会わないといいけど……」
「野盗なんか今のリクなら軽く蹴散らせるのだわ?」
「魔法はまだ使わない方がいいんだろ?それに、やっぱ人間相手に襲われるってだけで嫌なもんだ」
「そうなのだわ?」
「そうなんだよ」
遭遇しない事を祈って出発、の前にまず方角を確認。
太陽があの位置で、センテの街があっちで……ならこっちがヘルサルだな。
センテ方面に戻るより、ヘルサル側に行く方が森を出るのが速そうだ。
それに昨日野盗と会ったのはセンテ側だからな……ヘルサル側に行けば遭遇しないかもしれない。
「行くぞ、エルサ」
「はーい、なのだわ」
エルサに声をかけると、ジャンプして体にしがみついて来るので、腕で抱えてやった。
「抱っこなのだわー。小さいと便利なのだわー」
「それでいいのかドラゴン……」
「いいのだわー」
軽く苦笑しつつ、上機嫌なエルサを抱きかかえて広場を後にする。
腕の中でおとなしく抱かれているエルサは、小さくともやはりモフモフだった。
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