第19話 モフモフの正体と契約



 モフモフを堪能し続けてしばらく。

 すっかり日が落ちてしまい、夜になってしまった。

 もうこれから森の中を出ようとするのは危険だろうから、今日はここで野宿決定だ。

 だが、後悔はしていない。

 モフモフを堪能するために費やした時間は無駄ではないのだ!

 と偉そうな事を言ったところで、野宿をする事と野盗への不安がどうにかなるわけじゃない。

 だけど、まずは目の前の巨大な犬の事だ。


「それで、お前はなんでそんなにモフモフなんだ?」

「何か質問の内容がおかしい気がするのだわ……」


 おっと、モフモフがあるからまた我を忘れかけたぜ。


「……さっきの小さかった犬がお前って事で良いのか?」

「……………質問は真っ当になったのにまだ私から離れないのだわ?まあいいのだわ。そうなのだわ。主がキューを食べさせてくれたのが私なのだわ」

「そうか……何故大きくなったんだ?……ん?主?」


 ちなみに俺はまだ最上のモフモフに包まれています。

 真面目な雰囲気を出すために顔だけはキリッとして話している。


「大きくなったというより、元々私はこの大きさなのだわ。小さくなってたのは魔力が少なくなってたからで、いわゆる"しょうえねもーど"ってやつなのだわ。あと、主は主なのだわ」

「魔力が少なくって事は弱ってたって事か?何でまた?」

「話せば長くなるのだわ。1か月くらい前に私の直感にビビビっと来たのだわ。私と契約をしてくれる人が現れたってわかったのだわ」

「……ビビビっとね」

「それで私は浮かれてしまったのだわ!その契約相手を探そうとして色々飛び回ったのだわ!」

「飛び回った……」

「飛び回ったのはいいけど、見つける方法がわからなかったのだわ。それで探し続けて1か月飛び続けたのだわ!そうしたら魔力が切れて、ここに勢いよく墜落したのだわ!もうダメかと思ってたけど、主に発見されたのは運が良かったのだわ!」

「だからか……」


 それでこの森がここだけ木々がなぎ倒されて広場になってるのか……

 そりゃこんだけの大きな体で勢いよく突っ込んだら木々もなぎ倒されるわ。

 というか、全然話しながくなかったな……。


「んで、俺を主って呼んでるのは?」

「契約した相手を主と呼ぶのは当然なのだわ!」

「契約?俺とお前って契約したのか?」

「そうなのだわ。だから主の記憶の一部とか色々私に流れて来たから言葉を喋れるようになったし、そっちも色々流れているはずなのだわ」

「色々……」



 そういえば確かに、何か力が漲ってる感じはある。

 よくわからないので、とりあえず森の中を歩いたり野盗と戦ったりした後でも今は体に疲れは感じない程度の実感しかないけど。

 会話が出来る分には意思疎通が簡単に出来て良いけど。

 俺の記憶から言葉を学んだのか?だからさっきの言葉が出たのか。


「ああ、だから省エネモードか」

「そうなのだわ。主の記憶にあった言葉なのだわ」

「俺の記憶がわかるのか?」

「全てではないのだわ。一部だけ。でも主、この記憶……別の世界の人間なのだわ?」

「……別の世界とかわかるのか……ああ、俺はなんか色々あってな、別の世界からこの世界に移動してきた」

「そうなのだわ。初めて見たのだわ。だから1か月前に突然ビビビっと来たのだわ。別の世界はドラゴンなら知っているのだわ。ドラゴンは神に近い生き物なのだわ。だから知ってるのだわ」


 え、ちょっと待って……


「……ん?……ちょっと……今ドラゴンって……言った?」

「言ったのだわ。私はドラゴンなのだわ」

「……犬じゃないの?」

「違うのだわ。そもそもこんなに大きい犬なんかいないのだわ」

「……」


 えっと、ちょっと待って、え?嘘?ドラゴン?え?あのドラゴン?ラノベとかでは定番で、最強種だのなんだの言われてたり、ラスボスだったり仲間だったりで、何にしてもデカくて強いあのドラゴン?

 俺、ドラゴンに近づいて犬呼ばわりした挙句、撫でまわしたりしてたわけ?

 しかも小さい時ならまだしも、大きくなってからもモフモフを堪能するために色々撫でまわしたりしてたの?


「……俺、殺されちゃう?」

「?……何でなのだわ?」

「……だって、ドラゴンだし、人間襲ったりするんじゃないの?」

「失礼なのだわ!ドラゴンは自分から人間を襲ったりしないのだわ!私以外のドラゴンを見た事ないけどなのだわ」

「……襲わないの?」

「襲わないのだわ。契約者である主を襲うなんてするわけないのだわ」

「……その、契約者とか主って何?」

「契約者は契約者なのだわ。ドラゴンと意思疎通をして、生を共にするパートナーなのだわ。ドラゴンは契約した人間に従うための契約なのだわ」

「人間に……従うの?ドラゴンが?」

「契約をしたのだから従うのだわ。主従関係ではないから、全て従うわけでないけどだわ、主の記憶を借りて言うのなら……伴侶、相棒、パートナー、つれあい、仲間、親友とかそんな言葉の関係なのだわ」


 一部聞き逃しちゃいけないような単語があった気がするが……。


「じゃあ、俺と一緒にいるって事?」

「そうなのだわ!離れないのだわ!というより、今既に主が離れてくれないのだわ」


 そういえばドラゴンだと知った後も、俺モフモフに包まれたままだった。


「まあ、いいか、いいのか?いいか」


 どうにかこうにか自分を納得させる。

 というか、楽観的に納得した気分になっておかないと、色々追いつかない、だってドラゴンだし。

 幸い、モフモフに癒されているおかげでドラゴンと知った衝撃はあっても自分を見失わずに済んだ。

 モフモフを堪能するために自分を見失ってたってのは、まあ気にしない。

 とりあえず一つ……。


「その主ってのはやめないか?何か柄じゃないっていうかさ」

「主は主なのだわ?」

「主従じゃないんだろ?だったら主ってのもなんか違わないか?俺の事はリクでいいからさ」

「……わかったのだわ。リク、よろしくなのだわ」

「ああ、よろしく。ところでお前、名前は?」

「無いのだわ。付けて欲しいのだわ」


 期待に満ちた目で俺を見つめながら、フサフサの白く輝く尻尾を振ってるなあ。

 やっぱり犬に見えてしまう……。


「じゃあモ……」

「モフモフは無しなのだわ!!」


 むぅ、いい名だと思ったのに。

 これだけ最上のモフモフを持ってるんだから、モフモフの頂点という意味で相応しいはずなのに……。

 モフモフパラダイスとかもいいよな、全身が埋まる程のモフモフ、これをパラダイスと言わずに何と言うのか。


「ちゃんとした名前が欲しいのだわ!」

「……仕方ないな。よし、エルサ……お前の名前はエルサだ」

「……エルサ……いい名前なのだわ!」


 そう言ってドラゴン、エルサは尻尾をぶんぶん振っていた。

 その尻尾の風圧だけで森の木が斜めに揺れてるんだけど……まあ、ドラゴンだしな。

 喜んでくれたようで何よりだ。


「さて、それは良いが、これからどうするか。すっかり夜だしな」

「夜だから寝るのだわ?」

「寝るのはいいけど、ここに来る前に野盗に襲われたんだ。もしかしたらまだ近くにいるかもしれないし、襲って来た奴の仲間がいるかもしれない。おちおち寝てられないな……」

「……んー、それなら結界を張るのだわ」

「結界?」

「誰も近づけないようにする結界の魔法なのだわ。これがあればその野盗が近づいて来る事もないから安心して寝られるのだわ」

「……魔法……か……わかった。じゃあそれをお願いしていいか?」

「わかったのだわ。ん。はい、オーケーなのだわ」

「もう出来たのか?早いな」


 結界か……確かに何か薄い膜のようなものが広場を囲んでいるのが見える。

 ドラゴンの結界だ、信頼しても大丈夫だろう……多分。


「じゃあ寝るのだわ。契約のおかげで魔力がリクからもらえたから動けるけど、まだ眠いのだわ」

「魔力が俺から……まあ、細かい事は明日以降でいいか。俺も色々ありすぎて疲れた」


 これも契約のおかげなのか、体は疲れを感じさせず元気なのだが、さすがに精神的には疲れている。

 そのせいなのか、結界で安心したからなのか、それともモフモフに包まれているからか、俺は眠気に任せるようにそのまま体の力を抜いていく。


「おやすみ、エルサ」

「おやすみなのだわ、リク」


 俺を包むように丸くなるエルサに包まれ、俺はモフモフって暖かいなあと考えながら眠りについた。


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