第22話 初めての飛行と獅子亭に帰還
森を出てすぐの街道のほとり、先日馬車でセンテに向かった時、途中で休憩した場所で、エルサに大きくなってもらいながら。
「そういえば、今更だけど」
「どうしたのだわ?」
「どうして俺、あんなに落ち着いて野盗と戦えたんだろう……?何か力もおかしいくらい付いてたし、あんな人を吹き飛ばすなんて……」
「……契約したからだと思うのだわ」
「魔力とか魔法が使えるようになるだけじゃないの?」
「魔力は本来リクに最初からあったもの。魔法は契約の影響があるけど、身体能力もドラゴンの力の影響で飛躍的に向上するのだわ」
「じゃああの力はエルサの物って事?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるのだわ。私と契約した事でリクはドラゴンの力が使えるようになったけど、元々体の小さい人間じゃドラゴンの力には耐えられないのだわ。私の力が流れてるのは確かにそうだけど、リクが発揮するために力に耐えられるように調整されてるはずなのだわ」
「自動出力調整まであるとは……まあ、人間も元々身体能力を100%出さないように脳が制御してるらしいから、それと同じようなもんか」
「だからそれを半分本能というか無意識に理解していたから、あんな野盗に気後れしなかったのだわ」
「まあ、確かに負ける気はしなかったからな」
「それより早く乗るのだわ、街に行ってキューを食べるのだわ」
「食いしん坊ドラゴン……」
「失礼なのだわ!」
そんな軽い言い合いをしつつ、元の大きさになったエルサの背中によじ登り、モフモフに包まれてちょっと幸せ。
「乗ったのだわ?じゃあ行くのだわ!しっかり捕まっておくのだわー」
「!」
飛び立とうとするためか、俺が乗っている場所の左右から白く輝く翼が生える。
ああ、あれもモフモフだなーモフモフしたいなーなどと考えつつも、忠告に従ってエルサのモフモフにしがみついておく。
そのまま翼をはためかせ、一旦垂直に浮かび上がった後。
「行くのだわ!」
20メートルくらいの上空に達した瞬間、エルサの声と共に真っ直ぐヘルサルへと向けて前進。
「景色がすごい速さで流れてるなー」
これ何km出てるんだろう?多分高速を走る車よりは確実に早い。
そんな速さで飛んでるはずなのに、全然風圧とかが無く、むしろゆったりとした乗り心地だ。
「体を結界で包んで飛んでるのだわー」
空を飛ぶのが気持ちいいのか、歌うようにしゃべるエルサ。
結界か、昨日森の中で寝る時も結界を張って野盗に見つからないようにしてたけど、便利だな。
魔法、使えるように頑張ろう。
飛び立って10分くらいだろうか、ゆったりとした遊覧飛行(ただし景色はすごい速さで流れる)の気分でモフモフに包まれていたら、馬車ではあれだけ時間がかかったのに、もうヘルサルの街が目の前にあった。
「じゃあ、降りるのだわ」
そのままの速度でヘルサルの東門の前へ突撃。
「あぶ……」
危ない、ぶつかる!と言おうとしたら、東門の手前で急停止、そのまま地面に真っ直ぐ降り立つ。
「……」
ぶつかると思ったからか、心臓の鼓動が少し早い。
それを何とか落ち着かせるように、地面に降りたエルサの背中からゆっくりと降りる。
いくら遊覧気分の飛行といはいえ、やっぱり地面はいいなーなんて考えたけど、結局モフモフにしがみつくためにまた今度乗せてもらおうとも考える。
「着いたのだわ」
「……お疲れさん」
今度はもう少し安全飛行をしてもらうようお願いしよう。
東門に向かう前に、エルサに小さくなってもらい、頭へとドッキング。
「飛ぶのもいいけど、やっぱりここは落ち着くのだわー」
頭の上から聞こえるエルサの声に適当に答えつつ、東門へと向かう。
「…………」
「あ、どうもお疲れ様です」
東門を見張っている兵士に軽く挨拶をしつつ、そのまま通過。
何か、すごい驚いた顔をしてたけど、何だったんだろう?声を掛けたらビクッとして怯えた雰囲気になってたけど。
まあいいか。
まずは獅子亭に帰ってマックスさん達に謝らないとな、センテ出発から数えて4日。
帰る予定より1日遅れてるから。
日はまだ傾いていないが、もう昼過ぎ。
さすがに腹減ったなーと思いながらヘルサルの街を歩く。
獅子亭は昼の戦という混雑が過ぎてひと段落過ぎた頃だろうから、何か食べさせてもらおうかなとお気楽に考えている。
「キューは食べないのだわ?」
「まずは俺がお世話になってるとこに帰って、謝ってからだな。それからご飯だ」
「早くキューが食べたいのだわー」
「お前ほんとにキューが気に入ったんだな」
「あの瑞々しさと噛んだ時のポリポリ感は忘れられないのだわ!」
「ははは」
そんな話しをしながら歩いて、ようやく着いた獅子亭。
久しぶりのような気もするが、実際は4日、まあその間に色々あったしな、エルサとかエルサとかモフモフとか。
と思いながら入り口に近づいたとこで気付いた。
いつもは店員募集の文字が彫られて入り口横に立てかけてある板が、今は無く、代わりに臨時休業と彫られた板が置いてあった。
「何かあったのかな?」
マックスさんやマリーさんが店を休むだなんてよっぽどの事じゃないかと思いつつ、事情を知るためにドアを開ける。
「すみません、本日は休業でし……て……?」
「ただいま帰りました、モニカさん。すみません、遅くなってしまって」
ドアを開けた事に気付いたモニカさんが休業を伝えようとする途中に俺だと気づいて言葉を止める。
「マックスさん、マリーさんも、ただいま帰りました。遅くなってしまって申し訳ありません。あと、休業の看板が出てましたが、何かあったんですか?」
「…………」
三人共、店の一角にあるテーブルに集まってこちらをみて固まっている。
どうしたんだろう?
「リク!」
「無事だったのか!」
「本当にリクさんなの!?」
マリーさん、マックスさん、モニカさんがそれぞれ声を上げる。
鬼気迫るというか、何か必死な感じでこちらに詰め寄って来る。
「え、えっと。はい。無事仕事を終えて帰ってきました。」
若干気圧されながらも返事をするが、三人はまだ落ち着かないようだ。
「良かった、無事だったんだね……」
「馬鹿野郎……ちゃんと予定通りに帰ってきやがれ……」
「無事でよかったわ……リク……おかえり」
なんだろうこれ、もしかして……かなり心配させちゃったのかな……。
「えっと、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも……まったく……」
「心配したのよ?」
「昨日帰って来るはずのリクさんが帰って来ないから……」
「……すみません」
「まあ、無事だったからいいんだ。まったく今度からはちゃんと予定通りに行動しろよ!」
「ちょっと父さん。ごめんねリクさん、これでも父さんもすごい心配してたのよ?」
「おい、モニカ!」
「いえ、いいんだ。予定通りに帰って来なかった俺が悪いんだから」
「アナタ、もうちょっと素直に喜びなさい」
「あのね、リク。父さん昨日はリクが帰って来ないから何かあったのかもって馬車組合に行ってリクの事を聞きに行ったり、今日だって、店を開けずに街の人に聞きに行ったり、そろそろセンテからの馬車が着くはずだから聞きに行こうとしてたのよ」
「やめねえか!」
「そうだったんですか……すごい心配をおかけしてたんですね。マックスさん、すみませんでした。迷惑をかけてしまって。マリーさんもモニカさんも、すみませんでした。」
「まあ、無事に帰って来たなら構わねえよ。今度からしっかりしてくれたらな」
「はい、ありがとうございます」
色々良くしてもらってお世話になっている人達ではあるけど、こんなに心配されるとは思ってなかった。
出会って1か月程度の俺をこんなに親身になって心配してくれるなんて……俺はマックスさんに深くお辞儀をしていた。
「まあ私も心配してたわよ?もちろんモニカも。というかモニカが一番心配してたんじゃないかしらねえ?」
「ちょっと母さん!」
マリーさんが、場の雰囲気を変えようとしているのか、少し冗談のようなからかうような視線をモニカさんへと向ける。
「もう1日中そわそわしっぱなしで落ち着かないし、ドアが開くたびにリクが帰って来たんじゃないかと飛んで出るし……」
「……うぅ」
モニカさんが恥ずかしそうに俯いている。
何か俺もからかわれた感じで少し恥ずかしいけど、嫌な気分じゃない。
「モニカさんも、マリーさんも、ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
「無事でなによりね」
「心配したのよ……でも無事で、良かった」
これからは心配させないように気を付けなくちゃな。
「……ところで、その頭の上の生き物は?」
皆が落ち着いたところで、モニカさんが頭にくっついているエルサを興味半分、怯え半分の目で見ていた。
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