第17話 夢で見た場所での出会い
夢で見た場所。
野盗に襲われてからは方向を気にせず、闇雲に逃げて来た。
でも、無意識に目的の場所へ向かう感覚を頼りにしていたのかもしれない。
夢で見た時は上空から見るような映像だったが、見間違えない。
他に木々がなぎ倒されてるような場所はなかった。
「ここにいるはず……」
襲われた事は頭の隅に追いやり、目的を果たすべきとフラフラその場所へと近付いていく。
木々が倒された事で出来た、森にぽっかり開いた広場。
その中央にいるはずのモフモフへと。
木が途切れ、広場へ入る直前、薄い膜のようなものを抜けたような違和感があったけど、それも些細な事。
俺は熱に浮かされたように広場の真ん中へ向かう。
「グルル……グルゥ」
真ん中には夢で見たように、獣が横たわっていた。
苦しそうに息を吐き、こちらを警戒しているのか呻き声をあげている。
獣は夢で見たよりも汚れていた。
夢の映像と現実の違いなのか、映像をみてから時間が経っているせいかはわからない。
「怪我をしてるのか?」
「グルゥ……グルルル……」
こちらを見てさらに呻っているが、俺は構わず近づいて行く。
「思ったより小さいな……大丈夫か?」
獣は両手で一抱え出来る程の大きさの犬だった。
「中型犬?それにしちゃ小さいか……でも小型犬よりも大きいような……」
近所の家で飼っていたビションフリーゼって犬種を思い出したが、見る限りあれより大きそうだ。
「モフモフがこんなに汚れて……」
「グル……グルル……」
俺が近づいて体に手を伸ばすと、牙を見せるように呻ったが、動く力がないのかそれ以上の事はしてこなかった。
「大丈夫。襲ったりしないよ」
そう言って伸ばした手で体を優しく撫でる。
座り込んで窺うように見てみたが、何処にも怪我をしていないように見える。
「怪我じゃないのか?」
「グルゥ……」
撫でられたことで諦めたのか、牙を見せてくる事は無くなった。
「動けないのか」
怪我はしてないが動けない。
警戒して鳴りを潜めているがやっぱり苦しそうに息を吐いている。
「どうしたものか……」
この大きさなら持ち上げて歩く事も出来るだろうけど、その状態で森の外に出られるのか……そもそもまた野盗に会ったら……。
そう考えている間も手は犬を撫で続けている。
だってそこにモフモフがあるんだから!
汚れてしまって、モフモフ感は半減しているけど、しばらくぶりのモフモフ、堪能できるなら今すぐ堪能せねば!と考えている。
「グルゥ?グルルルル」
モフモフに対する欲求が強すぎたのか、少し警戒されるが、相手は今だ動けない犬。
今のうちにと警戒されている事を気にせず撫で続ける。
「良い毛並みだなあ。汚れを落としたらもっと良いモフモフになるのかなあ?」
毛はかなり汚れており、所々ダマになっているため、手が引っかかったりする。
だがそれでも撫でる感触は素晴らしいモフモフ感であり、元の世界ではこれ程のモフモフは中々なかったと思わせる物だ。
「グルゥ……」
撫で続けていたら、犬が俺を見て溜め息を吐かれた気がしたが、そんな事は気にしないでおく。
「グル?……グルゥ」
俺を見ていた犬が少し鼻を引くつかせた後、俺の鞄に目線を変える。
「ん?」
何か興味を引くものがあったのかと思い、鞄の中を開ける。
「グル!グルルゥグル!」
鞄の中を見た犬の反応が激しい。
「んー、これか?」
「グル!グルゥ」
トマトを出してみせた。
違うっぽい。
「じゃあこれか?」
「グ!グルゥ!グルゥ!」
キューを出して見せたら激しい反応。
これなのか……もしかして腹減ってるのかな?
「食べるか?」
そう言って鼻先にキューを近づけてやると、口を大きく開けたので、その中にキューの先を入れてやる。
「ギュム!ギュム!グルゥ!」
勢いよく食べた。
喜んでるようだ。
「もっといるか?」
「グルゥ!」
鞄に残っているキューを全部出して、犬に食べさせる。
俺も1本食べた。
ちなみにこの間も左手はずっとモフモフを撫で続けている。
キュウリが好きな犬か……いないわけではないけど、元の世界でも少し珍しい。
鞄に入っている他の食糧を出し、色々と与えてみるが、興味を示したのはキューだけだった。
他の物も食べない事はなかったけどね。
食べて満足したのか、少しの間落ち着いていた犬が、よろよろと起き出す。
実は腹が減って動けなかったんじゃないよな?と少しだけ疑問に思ったが、まだ満足に体を動かせないようで、よろよろと立ち上がったものの、俺の膝の上あたりに座った。
「さて、少し元気が出たようだけど、これからどうしようか?」
「グルゥ?」
キューをあげたせいか、なんだか懐かれたようで、膝の上でお座りをしていておとなしい。
素晴らしいモフモフがあって、大変よろしいのだが、問題はこれから。
空を見れば日が少しだけ傾き始めている。
ここは広場になっているから、野宿するのにはちょうどいいかもしれないが、野盗のいる森なんかじゃ落ち着いて寝られない。
かといって、ここまででかなり疲れている俺がこの犬を連れて外まで歩いても、日暮れまでに街道に出られるかどうか……。
そもそも、無計画に森を歩いてまた野盗に見つかったりしたらどうなるかはわかりきってる。
どうするか……と色々考えながらブツブツ言っていると、こちらを見上げている犬と目が合った。
「グルゥ?」
「ん……これからどうしようかと思ってな」
「グル、グルゥ?」
「んー多分このままじゃ無事に森から出られそうにないんだ。森には野盗がいて、いつ襲われるかわからないし」
「グル?」
犬がこれは?という感じで剣を見る。
「念のために剣を持ってるだけで、あまりうまく使えないんだ。多分、野盗に襲われたら何も出来ないと思う」
「グルゥ」
それは困った……といった感じの犬だが、はて?なんで犬と話してるんだろう俺?
まあ、普通の犬と違って感情表現みたいなものが豊富だから、何となく話せてるように感じるだけかもな。
「グルゥ……グル……グル……グゥルゥ」
何か犬も悩み始めたな……。
「グルゥ!」
決意を込めた目で俺を見上げてるな、どうした?
「何だ?どうかしたか?」
「グルゥ……グル!グルゥ!」
一度俺の鞄に鼻先を付け、俺を見上げてから、口を開けモシャモシャと何かを食べるように動かす。
その後また鞄に鼻を付けて、俺を見上げる。
「キューが欲しいのか?ごめんな、もうキューは残ってないんだ」
「……グルゥ」
「街に帰れば、いっぱいキューを上げられるんだけどな……」
「グル!グルゥ!」
「ん?街に一緒に行きたいか?」
「グルゥ!」
「それは良いんだが、まずはこの森を出ないとな……」
「グル!」
「あ、おい!」
犬は一度俺から離れ、こちらに向き直って俺の目を睨むように見てくる。
「一体どうしたんだ?」
「……グルゥ!」
「!!」
勢い込むように一度吠えると、犬は俺に向かって飛び掛かって来た!
避けられるような速度じゃない。
噛みつかれるのか?と思いながらも、そんな事はこいつはしないな、とも理解していた。
犬はそのまま俺の顔に向かってジャンプし、犬自身の口や鼻ではなく、何故かおでこを俺のおでこにぶつけた。
「!?」
勢いよくぶつけたはずのおでこからは音も衝撃もなかった。
それどころか、俺の体も犬の体も時が止まったように、ぶつけ合った状態で止まっていた。
その時、お互いのおでこの間から眩い光が溢れて、俺や犬だけでなく、木が倒されている広場の外までもその光に包まれて行った。
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