第8話 冒険者というものの説明を聞く



 ガタゴトと馬車に揺られて3時間程、そろそろお尻が痛くなってきた。

 やっぱバスや電車と比べると揺れるなぁ、道のせいか?それとも馬車?……両方か。

 気を紛らわせるために外の景色を見ていたが、真っ直ぐ進む街道以外は草原ばかりで、遠目に森が見えるくらいなため、さすがに飽きてきた。

 誰か知り合いがいたら話し相手にも出来るけど、この世界に来たばかりで知り合いなんて獅子亭の人達くらい。

 人見知りというわけではないが、一緒に乗っている人達にこちらから話しかける気にもなれない。

 ならばと、失礼にならないように少しだけ他の人達を観察しようかな。

 護衛と思われる鎧を着た二人は一緒に話をしている。

 商人風の男は旅人風の男に話しかけているがあまり話は弾んではいなさそうだ。

 商談をしようとして断られてる感じかな?

 旅人風の女は一人で外を見ているだけだ。

 残った親子と思われる二人を見ると、女の子がニコニコとしながらこちらを見ていた。


「お兄ちゃん、こんにちは」


 女の子と目が合うと、それに気づいた女の子が声を掛けてきた。

 ニコニコとしていてとても嬉しそうだ。


「こんにちは」


 嬉しそうに挨拶をされたらこちらも悪い気はしない。

 笑顔で挨拶を返して、母親の方にも軽く会釈をしておいた。


「私ロジーナ、お兄ちゃんは?」

「俺はリクって言うんだ、よろしくロジーナ」

「うん!よろしく!リクお兄ちゃんは剣を持ってるけど、剣が使えるの?」

「これかい?これはね、もしものために持ってるだけで、実はあんまり使えるわけじゃないんだ」


 俺が剣を持っていたのが好奇心を刺激したらしい。


「なーんだ、使えないのかー、つまんない」

「これ!ロジーナ!……すいません、失礼な事を言って。あ、私はレッタといいます。ロジーナの母です」

「いえいえ、気にしていませんよ」


 母親の方が謝ってくるが、別に気にしていないから大丈夫だ。


「この子は少々お転婆でして、剣を振るう事に憧れてるみたいなんです。剣を持ってる人を見かけたら剣を使うところを見せてとねだったりして……」

「へー、そうなんですね」


 俺も剣には憧れとか持ってたから気持ちはわかるが、女の子でそれは珍しい……のかな?


「じゃあロジーナは将来剣士とか兵士を目指してるのかい?」

「ううん、違うの。目指してるのは冒険者!」

「冒険者?」

「そう!冒険者になって剣を使って魔物を倒したいの!」

「まったくこの子は、そんな事ばかり」


 冒険者ね……俺が元の世界でよく読んでたラノベとかで見たことはある。

 要は色んな場所で討伐依頼を受けたりして魔物を倒してお金を稼ぐ職業だったはず。

 財宝を探し当てたりとかの話もあったかな。

 ちょっとロマンがあって、憧れなくもないが、俺はまだこの世界の知識も少ないし剣だって使えない。

 今すぐなれるものじゃなさそうだけど、色々聞いておくのも悪くないかな、暇つぶしにもなるし。


「冒険者ってどんな事するの?」

「リクお兄ちゃん知らないの?じゃあ私が教えてあげる!」

「うん、お願いな」

「えっとね、街にはね、冒険者ギルドってのがあって、そこで魔物を倒す依頼を受けて、剣を使って魔物を倒してお金をもらう仕事だよ!」

「これロジーナ、それだけじゃないでしょ?」

「えー?冒険者って魔物を倒す仕事でしょ?」


 ロジーナは魔物を倒す、剣を使うって事に興味が強くてそれ以外はあまり気にしていないようだ。


「ほっほっほ、冒険者について聞きたいのですかな?」


 ふいに商人風の男が話しかけてきた。

 さっきまで旅人風の男と話していたが、商談はどうやらすげなく断られたようだ。


「ええ、冒険者ってどういうものなのかなーって思って」

「そうですねぇ、あ、申し遅れました、私センテで商売をしておりますハンスと申します」

「リクです」

「ロジーナだよ!」

「それで、冒険者についてでしたな。冒険者はまず街にある冒険者ギルドという所に行って冒険者登録をしなくてはいけません」

「ふむふむ」


 ロジーナと二人、講義を受けるような姿勢で話を聞いている。


「冒険者登録は15歳からですので、お嬢ちゃんはまだ出来ませんな。登録をしたら冒険者を証明するカードが渡されます。そのカードには冒険者ランクや様々な持ち主の情報が入れられます」

「ランク?」

「ランクとは、A、B、C、D、E、Fの6段階に加え、最高ランクのSランクがあり、合計で7段階になります。登録してすぐは最低ランクのFランクになり、そこから依頼を成功させたりする事でランクが上がっていくようですな」


 ランクかー、冒険者としての実力とか依頼成功率とかの指標って事かな。


「Dランクになれば一人前と認められ、その稼ぎで何とか暮らしていけるくらいだそうです。あと犯罪等を犯した場合には登録抹消やランクが下げられる事もありますね」


 まあ犯罪とかするような人間を、ギルドとしては冒険者として認められないって事か。


「この国には今Sランクの冒険者はいないようですが、Aランクが数人滞在しているようです。センテやヘルサルにはいませんが。AランクやSランクとなると一人で軍隊を相手に出来る強さの人もいるとの噂です。私は見た事がありませんので、本当かどうかはわかりませんがね」

「一人でグンタイー!すごーい!」


 一人で軍隊相手にとか、それもう人なのかどうかすら怪しい強さじゃないかな。


「冒険者は基本的にギルドからの依頼を受けて行動するのですが、その依頼は雑用から魔物討伐まで何でも、犯罪に繋がるような事以外はあるようです。それこそ街の掃除なんかもあれば、大型の魔物を大人数で討伐する依頼もあるようですよ」

「冒険者だからって戦うって事ばかりでもないんですね」

「そうですね。あとはこういった都市間を移動する馬車や、商隊の護衛もするようです」

「ああ、じゃああそこにいる人達も?」

「そうですね、彼等も冒険者で、この馬車の護衛依頼を受けているようです」

「なるほど」


 チラリと鎧を着ている二人を見てみるが、二人は話し込んでいてこちらの話には気づいていない。


「私が知る限りでは冒険者とはこんなものですかな。もっと詳しく知りたい場合は一度冒険者ギルドに行ってみるといいでしょう」

「そうですね、ありがとうございます。いずれ行ってみたいと思います」

「私も行くー!」

「ロジーナ、君は何歳だい?まだ15歳じゃないだろ?」

「うん……8歳」

「じゃあまだ駄目だ、15歳から冒険者登録が出来るって事だから、それまで我慢しないと」

「そうよロジーナ、ちゃんと色々勉強して、大きくなってまだ冒険者になりたいのならなりなさい」

「……はい」


 ちょっと落ち込んじゃったか……仕方ない。


「ロジーナ、いいかい?」

「うん?」

「もし俺が冒険者になって強くなったら、いつかロジーナに剣を使う所を見せてあげる、だから元気出しなさい」

「ほんと!?リクお兄ちゃん冒険者になるの?」

「必ずではないけどね、冒険者になるのも悪くないと思ってる」

「じゃあ私、リクお兄ちゃんとパーティ組んで一緒に剣を使う!」

「あ、そう考えるかー。でも、うん、そうだね。じゃあその時は一緒にパーティを組もう」

「うん!」


 子供を元気付かせるための口から出まかせみたいなものだが、まあこれでいいだろう、多分実際15歳になったら忘れてると思うし、うん、忘れてるよね?

 それに俺自身これからどうするか全然決めてないから、選択肢の一つとして冒険者はありかもしれない。

 魔物と戦えるかはわからないけど、この世界を知っていくのに便利かもしれない。


「リクさん、冒険者になった時は是非うちの店にいらして下さい。冒険者用の武具を各種取り揃えてますから」

「……ははは、考えておきます」


 さすが商人、営業活動に抜け目がないな。


「お客様方失礼します、一度ここらで休憩を致します」


 御者から馬車内の人達へと声を掛けられ、いつの間にか近くなった森の端の木陰へと馬車は止まった。



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