第6話 モニカさんとのお買い物
給料をもらったから、初めてのお遣いならぬ、初めてのお買い物。
この世界の通貨は硬貨。
日本みたいに円だとか紙幣じゃない。
金貨、銀貨、銅貨の硬貨で取引されるみたいだ。
さすがにこことは違う世界から来たってのは獅子亭の皆には言ってないから、通貨に関して聞く事はしなかったが、1か月も店で働いてるとさすがにある程度は分かってくる。
金貨1枚=銀貨100枚=銅貨1000枚、銀貨1枚=銅貨10枚となって。
銅貨1枚が日本円にすると100円くらいのようだ、多分。
自信を持って言えるわけじゃないが、獅子亭での会計、仕入れの時の支払いとかを見ていると大体そんな感じ。
つまり。
銅貨1枚=100円
銀貨1枚=1000円
金貨1枚=100000円
という事になる。
頭の中で通貨について考えながら、買い物に行く前に給料を確認する。
2階の部屋で、窓際にある机の上に麻袋を逆さにして、とりあえず中身を全部出す。
「1……2……3……」
えーと、銀貨120枚と銅貨100枚か。
金貨は大きい買い物ならいいけど、細かい買い物をするときお釣りだなんだで困ることが多いって聞いたから、配慮して銀貨と銅貨にしてくれたんだろうな、マリーさん、ありがとう。
「とりあえず、このくらい持って行けばいいかな」
数え終わった硬貨の中から、銀貨10枚と銅貨を20枚程分けてそれを持ち、部屋を出る。
「お待たせ、モニカさん」
「案内は任せてね、リクさん」
モニカさんと二人で、マックスさんとマリーさんに挨拶をして、店を出る。
「じゃあまず大通りに出ましょうか」
店を出てモニカさんを先導に真っ直ぐ行くと、1か月前に俺が途方に暮れて歩いていた大きな通りに出る。
「ここはこの街で一番大きな通りで、街の中心地ね」
「人が多いね」
「ええ、ここに店が集まってるからね。それだけ人も来るし物も来るって事」
「へー」
空を覆う天井とかはないけど、アーケード街が近いだろうか。
人や馬車が行き交う大通りの両端には色んな店が並んでいて、店のない空白地には露天商や屋台もある。
「まずは何を買うのがいいかしら」
大通りに出てすぐの所で立ち止まり、こちらを振り返りながらこちらに聞いてくる。
「んー、まずは服とかかな、さすがにずっと借りっぱなしってわけにもいかないから」
「そうね、サイズが合った服がいいものね、ふふ、ちょっとぶかぶかな服を着てるリクさん、子供みたい」
そう言ってモニカさんは笑うが、こちらは恥ずかしいばかりだ。
「マックスさん、体が大きいからね」
俺の身長は175㎝くらいだったか、さすがに190㎝くらいあるマックスさんとは体の大きさが違いすぎる。
多少着方でごまかしても、ぶかぶかなのは完全に隠せない。
子供が背伸びして大人の服を着ているようにでも見えるんだろうか、モニカさんは初めて借りた服を見た時から、こちらを見てよく笑っていた。
「服屋は……こっちね、ついて来て」
「わかった」
大通りをしばらく進み、一軒の店の前に到着。
「ここなら値段もお手頃だし、私もよく来てるからね」
「モニカさんのオススメなら大丈夫だね」
「ふふ」
笑いながら、モニカさんが店のドアを開け、中に声をかける。
「おばさーん、いるー?」
「はいはい、いらっしゃいませー。ってモニカちゃんじゃない」
「こんにちわ、今日はリクさんの服を買おうと思って」
「あらそう、ふーん」
店の奥から出てきたおばさんはモニカさんと親しそうに話しながら、こちらを見る。
あれ?何やら楽しそうな顔に……
「モニカちゃんも成長したのね、彼氏を連れてくるようになったなんて……」
「おばさん!違うから!そんなんじゃないから!」
「ハハハ」
おばさんにからかわれて、顔を赤くしながら否定するモニカさんを見て、笑うしかできない。
その後もしばらくモニカさんはからかわれていたが、さすがにこれ以上時間を取られてもいられないので、俺が割って入る。
「俺は獅子亭で働かせてもらってるだけですよ」
「そうなの?モニカちゃんももうお年頃だからって思っちゃったわ」
「もう、おばさん!」
「えーっと、どんな服がありますか?」
「そうね、まずはこっちで採寸しましょうか」
「じゃあリクさん、私は店の中の物を見せてもらいながら待ってるわね」
そう言いつつ、楽しそうに店内にある服やアクセサリーなんかを楽しそうに見始めるモニカさんを置いて、おばさんと一緒に店の奥へ。
「うん、こんなもんかな」
採寸が終わった後、サイズの合った服を見せてもらい、そのうちの手頃な価格の物を買わせてもらった。
日本と違って服の種類は多くないので、マックスさんに借りた服のサイズ違いとか、無難な物を数着買って済ませた。
お会計銀貨3枚。
「モニカさん、こっち終わったよ」
「あ、リクさん」
モニカさんはアクセサリーが置いてある棚の前にいた。
こちらに返事をするものの、気になるのか、チラチラと棚の方を見ている。
「何か気になる物があった?」
「ええ、一目見て気に入ったんだけど、私に似合うかどうか……」
そう言って見ているのは、小さい花が蝶の形をした白い髪飾りだった。
「ふーん、これね。似合うと思うよ?」
「そうかしら……」
中々決心の付かないモニカさんを見て、逆に俺の決心がついた。
まぁ、決心なんて大げさな事でもないけど。
「おばさん、これも買います」
「え!?」
「はい、まいどありー」
お会計に銀貨1枚を払い、アクセサリーを手に取り、モニカさんがポニーテールにするために髪を結んでいるところに付けてあげた。
「…………」
モニカさんは何やら顔を真っ赤にしながら驚いている。
「うん、やっぱモニカさんに似合ってるね、かわいい」
「……!」
「あらあら」
何やらモニカさんは驚いた顔をしているが、店のおばさんはこちらを見て笑ってる。
「モニカさんにはこの1か月お世話になったからね、そのお返しだよ」
そう言っておいた。
ちょっと気恥ずかしかったのもあるけど、実際あの店に助けられてそこの人達にはお世話になってるからな、うん。
あ、そうだ。
「マックスさんやマリーさんにも何か買わないとな」
初給料で親への贈り物、ではないが、この世界に来て一番にお世話になって、今も助けてもらっている人達だ、ちゃんとお礼がしたい。
「はあ……」
モニカさんが何やら溜め息を吐いていたけど、俺は暢気にアクセサリーを見始めた。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
日も沈み始めたころ、俺とモニカさんは獅子亭に帰り着く。
「お帰りなさい」
「おう、お帰り」
マックスさんとマリーさんは店の一角に座り、休憩していたようだ。
今お客さんはいないか、じゃあちょうどいいな。
「マックスさん、マリーさん、これお土産というか、お世話になってるお礼に」
そう言いながら葉包みを取り出し二人の前に置く。
「まあまあ、ありがとね」
「なんでえ、こっちも助かってんだ、気にしなくても良かったんだがよ」
葉包みを開け、嬉しそうに笑う二人。
「ちょうど、前に話してた屋台が大通りにあったから、その話を思い出して買ってみたんです」
「ほお、あの香辛料とかいうのを使って肉を焼いてるのが美味いって評判の屋台か」
「はい、味の研究に興味があるって話してたので。でもやっぱ評判がいいのか人は多かったけど、何とか買えました」
まぁね、最初はアクセサリーにしようとしたんだけどね、流れ的に。
でも、俺に選ぶセンスはないから、無難な食べ物にしたんだ。
適当にモニカさんと雑貨を見て回って、生活に必要な物を買い揃えたりしながら、街を見てたらちょうど屋台を見つけて、これだ!っとすぐに並んで買ったよ。
そうして、お礼も渡せて笑い合って満足な日だった。
あとは、晩飯時の戦を乗り越えるだけだ!
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