第4話 そして異世界へ……



 皆さんこんにちわ。

 紺野陸、18歳です。

 どこにでもいるような普通の高校生、たいして成績がいいわけでもなく、運動神経も人並み。

 高校三年生なので、進学やら就職やらの進路について少し考えつつも、何とかなると楽観的に考えています。

 ただ漫然と学生生活を過ごし、このまま何事もなく日々が過ぎ去り、適当に過ごして生きていくものだと思っていました。

 しかし、ふと見かけた女の子がトラックに轢かれそうになるのを助けた事で事態は一変しました。

 女の子を助けるのは当然だとか、正義感とかが強い方ではありません。

 ただ目の前で引き起こされる光景に対して、条件反射のように行動を起こしただけの事でした。

 女の子は助けられましたが、助けた事を自慢に思う事もなく、というよりそんな事を考えたりする間もなくよくわからない事になってしまいました。

 トラックから助けた女の子が実は神様だったらしいのです。

 神様は助けた事のお礼として、俺の事も助けてくれました。

 いや~、トラックの前に出た時はどうしようかと思いましたね。

 だって、相手は大型トラック、スピードを落とす事無く突っ込んで来ているのですから。

 轢かれればひとたまりもありません。

 ですが、助けた女の子が神様で、その神様が俺をその場から転移とかいう魔法?で強制的に移動させたのです。

 最初は痛みも感じる事なく死んだのかと思いましたが、実際には不思議な場所に移動しただけで生きていました。

 神の御所と呼ばれるそこに移動させられた俺は、助けた女の子、神様と話をしました。

 何やら、助けたのはいいものの、俺はもう自分がいた世界には戻れなくなってしまったため、別の世界へと移り住む事になるようなのです。

 ラノベや漫画、アニメ等でよく見られる設定って思いませんでしたか?

 うん、俺も思いました。

 俺はそういったものにそこまで詳しくはありませんが、多少はラノベを読んだり、漫画やアニメを見たりもします。

 なので、そういった設定に関しては詳しいとは言えないまでも、知ってはいます。

 でも、さすがに自分がその状況になるとは考えていませんでした。

 そんな驚きはそこそこに、神様と話していて俺は少し別の事を考えていました。

 それは神様が孤独なんだって事。

 神様はその女の子だけではなく他にもいるようなのですが、友達というような事はなく、話はするものの、親しくなるような事はないみたいなのです。

 ちっぽけな人間の俺がそう考えるのは、それはそれで失礼な事なのかもしれませんが、俺は神様がかわいそうだなと思ってしまいました。

 神様は、面白いことが何もなく、たまに別の世界で遊ぶ事くらいしか楽しみがないようでした。

 なので、俺は神様に楽しんでもらえるよう、新しい世界で変化を起こすような事をしようと漠然と考えました。

 まぁ、浅はかな考えで、何をしようとまではまだ考えていませんし、そもそもそんな事が出来るのかどうかすらわかりません。

 ただ、目の前の神様という女の子が楽しむことが出来ればいいなというだけの感情でした。

 そうして意気込んでいるとこで、時間が来たらしく、神様とはお別れになりました。

 友達に憧れるただの女の子、そんな女の子と友達にはなれましたが、すぐに来るお別れ。

 女の子は泣くのを我慢しながらも笑顔で俺を見送ってくれました。

 寂しがりやな女の子を楽しませるように、新しい世界で頑張ろう!

 以前のように何となくや漠然と生きるのではく、新しい世界では何かはわからないけど、とにかく行動を起こして色々やってみようと神様と別れながら意気込んでいました。

 光に覆われた視界が晴れ、閉じていた目を開き、以前に感じていたよりも濃い気がする空気を吸い込みながら…。

 いざ!やってきました!異世界!


………………………………

………………………………………………………………


 異世界へやってきて1か月が過ぎました。

 え?いきなり飛びすぎ?そんな事言われても……。

 異世界へやってきてすぐ、圧倒的な力ですごい事をやれるわけでもなく。

 いきなりすごい出会いがあってそこから始まるサクセスストーリー!なんてのもなく。 

 ただただ、異世界で生きていく事に一生懸命でした。

 ………んーこの喋り方疲れるな……普通に戻すか。

 ただただ、異世界で生きることに必死だったんだ!

 これだな。

 まぁ、こんな説明を飛ばしたら誰かに怒られそうなので、簡単に説明を。 

 この世界にやって来た時最初にいたのは、ヘルサルという街の近くにある草原。

 その草原から西に10分程歩いたらヘルサルの東門につく。

 いやー、意気込んでこの世界に来たけどさ、森の中とか山の中じゃなくて良かった。

 サバイバルなんてした事ないから、多分その時点で何も出来ずに終わってたと思う。

 東門につくと、兵士のような人達(衛兵?門番?)が見張りをしてた。

 ちょっとおっかなびっくり近寄ると、こちらに気づいた兵士さんが、鉄の鎧をガチャガチャ言わせながら近づいてきた。


「旅人か?」


 こちらを窺うような顔で聞いてきたから。


「はい」


 と答えておいた。

 とりあえず言葉が通じるようで安心。

 あとは適当に旅をしに来たと言っておこう。


「こちらから聞いておいてなんだが……その軽装でか?」


 そう言われて自分の恰好を改めて見る。

 あんまり質のよくない布の服に、薄っぺらいマントを身に着けて、辛うじて旅人風に見えなくもないが、他に荷物は何も持っていないため、むしろ外へ散歩に出た村人のようにしか見えなかった。

 制服からいつの間にか変わってるな……。

 この世界の旅人がどんな装備をするかわからないが、ここで躓いてなんていられない。

 というか怪しまれて捕まるなんてのは御免だ。

 なんとかそこは、旅人という事で通し、街の中へ入れてもらった。

 決して、俺が必死な形相で旅人と言い張って、兵士さんが憐れむようにお情けをかけられたわけじゃない。

 街に入った俺は色々と歩き回った。

 完全にお上りさんのようにキョロキョロとしながらだけど、人混みとまでは言えないものの、それなりに人通りはあったから、変な目で見られていないと思う。

 街は木造りや石造りの建物があり、馬に曳かれた馬車が行き交っていた。

 これぞファンタジーの街!って感じのとこだった。

 ここで異世界に来たんだ!という実感がすごく湧いてきた。

 適当に街を見ていたら、多分時間はお昼時で、食べ物屋が大いに賑わっているくらいの時、お腹がクーと鳴った。

 そういえば朝は何も食べずに出たなぁと考えて、何か食べるものを買うために店を探す時に気づいた。

 お金を持っていない事に……。

 そこから1時間程途方に暮れて、でも突っ立ってるだけじゃどうしようもないと大きな通りを歩き始めた。

 しばらく歩いていると昼飯を食べ終わったのか、満足そうな顔をした人達が多く出てくる横道があった。

 特に何も考えず、人の流れに逆らうようにその道に入り、進むと一軒の食べ物屋があった。

 お金もないのにお店に入るわけにはいかず、そのお店を見ていると、入り口の横に立てかけられている板に、文字が彫られているのを見つけた。

 文字って読めるのかな?と近付いて見ると。


 ・急募!

  店員募集!


 という文字が書いてあった。

 良かった文字が読めた、と安心しつつもお金がないという事は働かないといけないという事に気付く。

 幸い?なのか以前飲食店でバイトした経験があったので、こういったお店で働く事には不安はなかった。

 こちらの世界と元の世界での違いはわからないが、何とかなるだろう、というより何とかしないといけないという思いから、その店に入って聞いてみることにした。

 数時間後、その日からお店で働く事で、ご飯(賄い食)を貰ってようやく食べ物にありつけた。

 そうして働き始め、気づいたら1か月たっていたってわけ。

 


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