第2話 一躍時のキラキラボシ

 みてみてお箸様

 間違えた

 みてみてお星様


 夕焼けの窓の外を眺める。懐かしい景色だ。通っていた中学校や海やいろんな思い出が蘇るけど。あまり浸りすぎるのはやめよう。


 実家の最寄駅に近づくにつれて、電車の中はガラガラになる。なんとなく少しだけ寂しい。ここで降りる人は他にいなかった。


 何かをしようとしてはあきらめて。いろんな理由をつけては、やめた。しかたない、できない、嫌だ、無理だ。そのひとつに箸の持ち方。今は持てるよ、子どものころの話。父から怒られた持ち方。正しい持ち方を教えてくれたのは母だった。うまくつかめなくて、でも母は根気強く教えてくれた。


 僕はなんとなく駅から歩くことにした。実家までは最寄りの駅だけど1時間はかかる。まあでも夏の夜は長いし、9連休だし明日用事はない。暑いけど風が吹いているだけまだましだ。親に連絡したら男の子だから別にいいかと言われた。


「道中熱中症で倒れないでよ」


「大丈夫、こっちの方がけっこう涼しいよ」


「でも向こうはエアコンあるでしょ。帰ってきてもうちにはエアコンないからね」


 コンビニに寄って涼みながら来いと。田舎にできたコンビニはそれは大ニュースだった。今ではいいように使われている。


 そこら中虫だらけ、まあ無視されるよりまだましだ。一躍時の人になった誰かもその瞬間が過ぎれば、みんな記憶から薄れていく。


 あんなにキラキラと輝いて

 眩しかったのに

 こんなにもあっという間に

 忘れるもんなんだな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る