紺野風五郎2と緑川鳴海2
「お前のそれは意図的に出したものか。すぐに答えろ」
「わわ、分かりません。お、おじさんだって虹が生えてますよ」
頭を抱えて崩れ落ちる鳴海の頭上に、2つのキラキラが舞い落ちてきた。
「僕はナサニエル。ナルミを守る者」
「私はジョアンナ。私もまたナルミを守」
皆まで言わせず風五郎は引き金を弾く。同時に、軍上層部に極秘で伝わっている噂を思い出した。曰く「突然現れるキラキラした発光体に、一般人の銃や打撃は効かない」。パァンと乾いた音を立てて発射された銃弾が、ジョアンナと名乗ったキラキラに吸い込まれる。
「私たちに銃などまっだぐ効果はあびばでん。無意味げふ」
ジョアンナは鳴海の背中にぽたりと落ちた。
「効いてるじゃねえか。噂はあてにならんな」
「待ってください。選ばれし者。フウゴロウよ。私達は敵ではありません」
風五郎がナサニエルに向かって引き金を引こうとすると、その前に鳴海が立ちはだかった。目を見張るスピードである。何よりも、あの勇気のない鳴海が銃口の前に立っていることが信じられなかった。
「おじさん、やめてください」
「大佐だ。緑川一等兵、どけ。それとキラキラのかたわれをどこへやった」
「ここに」
鳴海は自分の心臓あたりを拳で示した。風五郎はわずかに顔をしかめ、小さい声で話し出す。
「不快感はあるか。乗っ取られた感は」
「あ、ありません。ただ、力が湧いてくるのを感じます。今なら銃弾も避けられる気がします」
「だろうな」
ジョアンナを撃つ直前、脳内に直接話しかけてきた存在があった。エミリーとフランクリンと名乗ったそれは、風五郎の体に入り、間違いなく何がしかの力を与えた。そうでなければジョアンナにダメージを与えることはできなかっただろう。
「そうだろうな。今なら必ず一発で仕留めることができる」
「僕はそれを避けられます」
「張り合わんでいい。何にせよ、このことは内密にしておけ。もしかしたら既に盗聴されているかもしれないが、その時はその時だ。おれが何とかする」
鳴海は目をしばたいた。
「けどその力があれば、軍も」
「お前、いきなり力を得たことで、増長している自覚はあるか」
「いえ、そんなことは」
「なければおれがどうにかしなきゃならん。世の中の為に」
風五郎の声色が変わった。
「あ、あ、た、確かにあります。軍を辞めることも、軍を乗っ取ることも可能だって思い上がってました」
ゆっくりと風五郎は鳴海に近づく。その歩みは石よりも重たい。
「お前、とりあえず軍を辞めろ。お前の親父の顔に泥を塗ることにはなるが、仕方ない。今日辞めろ。2ヶ月位は生活の保証はしてやる」
「わかりました。辞めます。多分どうとでもなります。おじさんは辞めないんですか?」
呼び方を注意をしようとした風五郎は、もうその必要がないことに気づいた。
「軍人が軍を辞めたら、誰が戦うんだ。誰が敵から国民を守るんだ」
「別におじさんが戦わなくても、他の誰かが戦えば……」
「それは誰だ。自分の手を汚さなければ、それでいいのか。自分の目の届かない範囲であれば、何が起きてもいいのか」
鳴海は反論しようとするが、言葉が出てこない。
「今時、こんな言葉は意味がないことは知っている。だがそれがおれの守るべき正義だ」
更に一歩近づき、風五郎は問うた。
「お前の正義はどこにある。それを見失うなよ」
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