第66話:迷宮⑤
二階層には何かあるというのがジル、メリ、ヴィールの一致した意見だった。
そのため、四人はより警戒を高めて探索を進めていたのだが、その行為が身を結ぶことになる。
「……ねえ、あっちの地面が光ってない?」
最初に異変に気がついたのはリザだった。
パッと見や魔獣と戦いながらでは気づかないほどの微かな光、それもその残滓にも似た小さな光をリザは見つけたのだ。
「……本当だ。リザ姉、すごいな」
「私も全く気づかなかったよ」
「僕も」
「ふっふーん、私を讃えなさい!」
腰に手を当てて胸を張るリザに苦笑しつつ、四人は光の方へと足を向けた。
触れることなく近くで立ち止まると、メリが魔力反応を確認していく。
「……どうやら、光の下の地面には魔法陣が埋まっているようです」
「魔法陣。ということは、これは罠なのかい?」
「そうだと思います」
「どんな罠なのかは分かるか、メリ?」
「ちょっと待ってね……分かった。この魔法陣は、転移魔法陣みたいだね」
対象を別の場所に一瞬で移動させる魔法陣、それが転移魔法陣だ。
通常なら二つの転移魔法陣を用意し、同じ人物の魔力を注ぐことで二箇所を行き来することができるようになる。
一級の天職ならば三つ以上の転移魔法陣を結ぶこともできるのだが、目の前の魔法陣は二箇所だけを結んでおり、それも一方通行のようだった。
「それって、相当ヤバい場所に転移させられる可能性もあるってことか?」
「そうだね。そして、そこから魔法陣を使って戻ることはできない」
「戻るなら自力でってことだね」
「でも、一気に下層に移動することもできるかもしれないってことよね?」
三人が話し合っているところにリザの何気ない意見が飛び込んでくると、顔を見合わせて苦笑い。
その反応を見たリザは少しだけムッとしてしまい突っかかってしまう。
「な、なんで笑うのよ! メリちゃんまで酷いわ!」
「ご、ごめんなさい、リザ姉。でも、やっぱり危険な可能性があるならこの転移魔法陣は使わない方がいいかなって思っただけなの」
「僕もメリちゃんの意見に賛成だな。リザの意見も可能性はあるけど、一気に下層に行ってしまうと魔獣も自ずと強くなるから結局のところ危険なんだ」
「俺も賛成。それなら一階層ずつ確実に下りていく方がいいに決まってる」
「まあ、私はみんなの意見を信じるけどね」
もしかしたら、先行していたパーティは転移魔法陣によって移動させられたのかもしれない。
それならば、一階層の魔獣は討伐されていたが、二階層の魔獣は討伐する前に転移魔法陣に乗ってしまった、という推測を立てることもできる。
そして、ジルたちが遭遇した魔獣の群れも討伐されなかったからと結論付けられた。
「……ねえ、もしそうだとしたら、そのパーティはやっぱり危険な目に遭っているかもしれないんだよね」
「リザ、その話はさっき終わったよね?」
「そ、そうだけど……」
「……はぁ。やっぱり、リザ姉は優しいよな」
「ジ、ジル?」
頭を掻きながら唐突にそんなことを口にしたジルを見て、リザは困惑し、ヴィールはまさかといった表情を浮かべ、メリは仕方がないと言わんばかりに苦笑していた。
「まあ、最終的には最下層まで行くわけだし、これに乗ってもいいんじゃないですか?」
「ジル!」
「ジル君、本気で言っているのかい?」
「リザ姉と一緒で、ジルも優しいもんね」
メリの返事に対してだけ、ジルは苦笑を返す。
「優しいわけじゃないよ。行ったところで無駄かもしれないと思っている自分もいるわけだし。でも、リザ姉の気持ちを蔑ろにする理由にはならないかなって思っただけだよ」
「だけど、それが僕らだけじゃなく、リザをも危険に晒すかもしれないんだぞ?」
「その本人が行こうって言ってるんだからさ、ヴィールは気にしちゃダメだよー?」
「……気にするに決まってるだろ。これでも僕は、リザのフィアンセなんだからな」
「──! ……あ、ありがとう」
照れ臭そうにしている二人を、ジルとメリは微笑ましく見つめている。
「だ、だったら! そんな私をヴィールがしっかりと守ってちょうだいよね!」
「……行くって選択を、変えるつもりはないのかい?」
「ないわ。だって、他人ではあるけど、先に進んでいるパーティが心配なんだもの」
今度は無言で睨み合うリザとヴィールだったが、結局のところ折れるのはヴィールなのだ。
「……分かったよ。全く、リザのことは置いていくべきだったかなぁ」
「今さらそんなことを言っても遅いわよー」
「俺たちもリザ姉のことは守るからさ、ヴィールさん」
「私も、オーシャンズロッドで魔獣を一掃しますからね!」
「……多数決でも勝てる見込みなしか。僕も覚悟を決めようかな」
肩を竦めながらヴィールがそう口にしたところで、全員が装備の確認を始めた。
転移した先で突然襲われる可能性もあるのだ、ここでしっかりと準備を終わらせる必要がある。
「……それじゃあ、全員準備はいいか?」
ジルの言葉に三人は大きく頷く。
「よし。それじゃあ──行くぞ!」
そして、同時に魔法陣へと飛び込んだ。
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