第65話:迷宮④
二階層に下りると、一階層とは打って変わり魔獣の数が尋常ではない程に多くなった。
先行しているだろう冒険者がこの大群を潜り抜けてさらに下の階層へ進んだとしたなら、三人の推測と実力が一致しない。
「だけど、まずはこの魔獣を、どうにかしないとな!」
「でも、これならちょうどいいかもしれないね!」
「な、何がですか、ヴィールさん!」
ジルとヴィールは魔獣を倒しながら会話をしている。
数は多いが、その実力は一階層にいたアースゴーレムほどではなく、有象無象の魔獣ばかり。
しかし、今の二人なら捌きながらの会話も成り立っている。
それでも押し返すまではいかずに一進一退の攻防が続いていた。
「メリちゃん!」
「は、はい!」
メリも魔法で援護はしてくれているが、元々使っていた
そして、ヴィールが思いついた作戦というのが――
「ここで、オーシャンズロッドを使って、魔法で魔獣を一掃してくれないか!」
「「「ええええぇぇっ!」」」
ヴィールの作戦にはメリだけでなく、ジルやリザも驚きの声をあげていた。
オーシャンズロッドを使って放たれた
対峙している魔獣程度なら間違いなく一掃できるだろうが、ジルには一つの懸念が浮かび上がっていた。
「この迷宮、崩れませんか?」
あまりの威力に迷宮が崩壊する可能性を懸念していたのだ。
しかし、そのようなことは起きないとヴィールは断言した。
「迷宮には、一定の破壊活動が確認されると自動修復する不思議な機能が備わっているみたいなんだ。だから、強烈な魔法を使ったとしても、僕たちが生き埋めになるようなことは起きないよ!」
目の前に迫ったゴブリンナイトの頭部を吹き飛ばしながらジルへ合図を送る。
それならばとジルも一旦後ろに下がり、時空鞄からオーシャンズロッドを取り出した。
「メリ、頼めるか?」
「ほ、本当に大丈夫かな?」
「ヴィールさんが言うなら間違いないさ。それに、自動修復するならどれだけやっても問題ないってことだし、たまには暴れてもいいんじゃないか?」
「あ、暴れるって……でも、分かった。私、やってみるよ!」
オーシャンズロッドをぎゅっと握り、メリは魔獣の大群を見据える。
ジルは取って返しヴィールと一緒になって魔獣をわずかながら押し返した直後、二人してメリの隣まで後退した。
「メリ、頼む!」
「分かった、いくよ――ウォーターメテオ!」
上位の水属性魔法であるウォーターメテオは、こぶし大の水の玉を顕現させて対処へ撃ち出す魔法なのだが、接触するのと同時に水の玉が刃へと変わり周囲を斬り裂いていく。
水の玉だけでも殺傷能力は十分なのだが、刃に変わることで斬り裂き確実な死を対象にもたらしてくれる。
本来なら一つ、二つを顕現させるのが限度と言われているウォーターメテオだが、メリが顕現させた数は二桁を優に超えていた。
「……これ、マジでヤバくない?」
「……ちょっと、ヴィール! 本当に大丈夫なんでしょうね!」
「……だ、大丈夫だよ……たぶん」
「いっけええええええぇぇっ!」
三人の会話が打ち消すほどの声を響かせて、メリはウォーターメテオを解き放った。
本来なら接触するだけで刃へと変わるはずなのだが、いくつかの水の玉は魔獣を貫きながら後方へと突き進み、より密集している場所で爆発を伴い刃へと変わり斬り裂いていく。
魔獣の断末魔が聞こえてきてもおかしくはないのだが、ウォーターメテオの爆発音によってそれらも打ち消されてしまう。
結果として――魔獣の一掃と死屍累々の状況が出来上がってしまった。
「やった、やったよ、ジル!」
「……お、おぉ、やったな、メリ」
「……どうすんのよ、ヴィール!」
「……さ、さすがメリちゃん! これなら迷宮攻略も現実味を帯びてきたね!」
「「おいっ!」」
「えへへー、ありがとう、ヴィールさん!」
メリがやる気になってくれたのならそれでいいのかもしれないが、迷宮内とはいえども使いどころは選ばないといけない。
というのも、魔獣が粉みじんになり過ぎて足の踏み場に困るのと同時に、素材を手に入れることができないのだ。
「ま、まあ、今回は素材集めが目的じゃないから、いいのかな」
「よーし、進もーう!」
「「「……お、おぉー」」」
元気に腕を振り上げたメリとは対照的に、ためらいがち返事をする三人なのだった。
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