第64話:迷宮③
一階層で遭遇した魔獣は地上から潜り込んできたブラウドやゴブリン、そして元々住み着いていたゴブリンナイトが主であり、一度だけジルとメリが初めて見る魔獣が存在した。
「あれはゴーレム。その中でもアースゴーレムだね」
「で、でかい。一階層であんな魔獣が出てくるんですか?」
体長は三メートルを超えており、見た目からして強固な外皮だと判断したジルはジルヴァードを握り直している。
だが、ヴィールは一人で前に出るとジルに下がるよう指示をした。
「アースゴーレムは見た目は大きくて手強そうに見えるけど、実際にはそうでもないんだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。確かに一撃は重く、外皮も硬くて攻めづらそうだけど、関節や外皮の欠けている部分を狙えれば、中は脆く壊しやすいんだ」
「……でも、それって結構難しくないですか?」
「慣れるまではね。だけど、今のジル君なら問題はないと思うよ。だけど、最初は僕がお手本を見せることにするよ」
「分かりました、お願いします」
ジルが一歩下がったのを確認したヴィールは、シルスライドを両手で握り息を吸い込むと、吐き出すのと同じタイミングで地面を蹴り、一直線に駆け出した。
アースゴーレムの一撃は確かに重いが、動きは遅く注意深く動きを見ていれば回避するのは容易である。
ヴィールも振り下ろされた拳を横っ飛びから回避し、着地と同時に再びアースゴーレムへと迫っていく。
あっという間に懐に潜り込んだヴィールは、胸部に見つけていた外皮の欠け目掛けて渾身の突きを放った。
『――ゴゴガガガッ!』
シルスライドの穂先がアースゴーレムに突き刺さり、体を震わせたかと思えばその場で粉々に砕け落ちてしまった。
「……い、一撃かよ」
「……ヴィールさん、凄い!」
「ほほう、アースゴーレムの素材は固くて丈夫だから、なかなか質の良い武器を作れるわね」
「……リザ姉はなんでそんなことを考えているんだ?」
「ふふふーん! 私は鍛冶師だからねー!」
「うふふ、なんだかリザ姉らしいな」
腰に手を当てて胸を張っているリザにジルはやや呆れ顔だったが、メリは笑顔で納得している。
三人の下に戻ってきたヴィールもリザの様子を見て何を言っていたのか悟ったのか苦笑していた。
「普通なら捨てていくところだけど、時空鞄があれば持って帰れるよ」
「はっ! そうだったわ! ……ジルー、いいわよねー?」
「……はぁ。そうだな、売却したら当面の資金にもなるし、リザ姉が武器を作ったらそれも売れるだろうし」
「やったー! あっ、それならもっと魔獣を倒して素材を手に入れちゃいましょう!」
「目的は素材集めじゃないんだからな!」
「分かってるわよー! それでもさ、鍛冶師としては見逃せないのよねー!」
とても嬉しそうにそう口にしたリザは、粉々になったアースゴーレムの中から大きな形が残っている部分を厳選してくれ、それをジルが時空鞄に入れた。
「いい素材が手に入ったら、また装備を新調してあげるからさ!」
「今はジルヴァードだけで十分だよ」
ジルヴァードは二級の天職である
すでに使いこなしていると言っても過言ではないのだが、ジルがジルヴァードを使い続けているのには理由があった。
「それに、騎士は父さんと同じ天職の武器だからな。まずはこれを完璧に使いこなせるようにして、それで次の天職に挑戦したいんだ」
「……ジルは、まだラインハルトさんに言われたことを気にしてるの?」
心配そうに声を掛けてきたのはメリだ。
ジルが家を追い出されたこと、そしてアッカートを名乗ることができないことを常に心配してくれている。
「気にしてないって言ったら嘘になるけど、いつの日か父さんに認められたら、お互いに騎士として戦ってみたいと思ったんだ」
「ジル君なら騎士の上位であり
「可能性はあると思います。アトラ様が言うには、無限の可能性らしいですから。だけど、父さんとの戦いだけは、天職による実力差なしでやってみたいんです」
「ふっふふー。ジルもやっぱり男の子なんだねー」
「どう言うことだよ?」
「だってー、父親を超えたい! って思ってるんでしょ? 男の子は父親の背中を見てるんだなって思ってね」
リザの言葉は冗談っぽく言っているが、その本心はとても誠実なものだった。
ジルがラインハルトを尊敬しているのは、リザがパペル村にいた頃からだ。
そんな親子の姿を見たことがあるからこそ、リザの言葉には心がこもっている。
「……どうだろう。今はまだ認めてもらうためってだけだからな」
「いつかきっと、認めてもらえる日が来ると思うよ」
「……そうだな。そうなるように、まずはこの迷宮を攻略するか」
「うん!」
メリの励ましの言葉に大きく頷いたジルはそのまま歩みを進めると、早くも二階層へと下りる階段を見つけた。
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