第56話:時空鞄と錫杖
錫杖の先端にはジルの拳大の大きさを誇る蒼い宝玉が嵌められており、宝玉を中心にしてその周囲に小さな同じ色の宝玉が六つ。
長さはメリよりも少し小さいくらいだろうか、その錫杖をゼルドがメリの前に差し出した。
「そして、これはメリル君に」
「わ、私、ですか?」
「その通りだ。今使っている装備では、魔法を使うのに難儀をしているのではないか?」
「ど、どうしてそれが分かるんですか?」
「
「だから、メリの魔法は安定しなかったのか」
「パペル村からずっと同じ杖を使ってたからね」
元の天職が
「この錫杖、オーシャンズロッドに嵌っている宝玉には水属性の魔法効果をアップさせる効果があるから、迷宮に潜る前に一度試してみてもいいかもしれないな」
「そんな貴重な錫杖を、本当に頂いてもいいんですか?」
「俺も
「私はもう使う機会がほとんどないからな。これらも使ってもらえた方が嬉しいだろう」
「オーシャンズロッドもゼルドさんが使っていたんですか?」
ゼルドの天職を知らない二人は槍を手にした姿しか見ていなかったので、槍を扱う一級の天職だろうと思っていた。
「いや、オーシャンズロッドはあの神父がメリル君にどうしても渡してほしいと押し付けてきたのだよ」
「あの神父って、天職の再確認をしてくれたあの方ですか?」
「そうだ。良い人なんだが、どうにも信心深くてな。特にアトラ様の知識に関しては誰にも負けないと自負しているくらいに学びもしている。そんな彼だからこそ、現役の頃に愛用していたオーシャンズロッドを譲りたかったんだと思うよ」
メリはオーシャンズロッドをジッと見つめながら、しばらくして強く握りしめた。
「……ありがとうございます。私がとても感謝していたと、神父様にもお伝えください」
「了解した。彼もとても喜ぶだろう」
「メリ、オーシャンズロッドは手に持っておくか? それとも時空鞄に入れておくか?」
「そうだなぁ……入れておいてもらってもいいかな。持ち歩くには大き過ぎるから。外に出てから一度試してみようかな」
そう言って時空鞄にオーシャンズロッドを入れてみると、見た目とは裏原に難なく入っていったので二人は不思議な気分になっていた。
「取り出したいときは、そのものを念じて手を入れれば勝手に現れてくれるよ」
「な、何を入れたか忘れないようにしないといけないな」
「そうだね。食べ物とかを入れたら腐ったりしそうかも」
「あぁ、その点は安心してくれ。中に入れたものを確認したい時には、そのように念じれば鞄の上に炎を伴って表示されるからね。それに、その中は時間が経過しないから食べ物も腐るようなことはないよ」
「そうなんですか? ……これ、手に入れようとしたら相当高いですよね?」
「その通りだが……値段は聞かない方がいいと思うよ」
「「分かりました、聞きません!」」
二人の反応に満足したのか、ゼルドは微笑みながら他に聞きたいことがないかと口にした。
「とりあえずは大丈夫だと思います」
「そうか。では、先ほどの松明なども入れておきなさい」
「これも頂いてしまっていいんですか?」
「そのために用意したからな」
「……あの、ゼルド様」
そこで恐る恐るメリから口を開いたので何事だろうとゼルドが頷いて話を促す。
「この、迷宮についての話はエミリアさんにも黙っていた方がいいですか?」
「エミリアに? ……そうか、彼女にも相談をしていたんだったな。いや、誰にも言わないと約束してくれるのであれば報告しても構わないよ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。私もエミリアのことは信頼しているからな。リーザ君にも話してくれて構わない。というか、ヴィールに話をするならば自ずと彼女にも話が行くはずだからな」
「ありがとうございます!」
二人は改めてお礼を口にして時空鞄に松明や寝袋などの道具を入れると、ギルドマスターの部屋を後にした。
※※※※
受付まで戻ってきた二人を見つけたエミリアは心配そうな表情で声を掛けてきた。
「二人とも、大丈夫でしたか?」
「はい。ギルドマスターにも次に向かう先の相談に乗ってもらったんです」
「そうだったのね。突然ギルドマスターに連れて行かれたから驚いてしまいましたよ」
「すみません。……それで、ピエーリカさん。ちょっと報告があるんですが、少しだけ時間ありますか?」
「報告? ……うん、大丈夫だよ」
エミリアも何かを感じ取ったのか、代わりの職員に声を掛けて人の少ない壁際に移動してくれた。
そこでゼルドからの提案、そして未攻略の迷宮に潜ることになったと説明した。
「……えっと、話が変わりすぎて驚いているんだけど」
「ですよね。俺たちも正直驚いています。でも、せっかくのお話なので行ってみようかなって」
「そっか……でも、それでこそ冒険者なのかもしれないわね。うん、無理をしない程度に頑張ってね! このことはギルドマスターからの許可がない限りは私も一切口外しないからさ」
「ありがとうございます、ピエーリカさん」
「必ずまた顔を出しますね」
「ジル君もメリちゃんも、お待ちしていますね」
二人はエミリアと固い握手を交わして冒険者ギルドを後にした。
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