第55話:迷宮とは
とは言ったものの、ジルもメリも迷宮に関しては全く知らない。
「ギルドマスター、迷宮について教えてもらっても――」
「ゼルド、だ」
「……えっ?」
「私の名前だよ。ゼルド・ボーヴィリオン。いつまでもギルドマスターでは呼びにくいだろうと思ってな」
元
ベテラン冒険者の間では伝説とされている人物であり、一番最近の冒険譚で言えば翠玉等級が二桁以上集まってようやく倒せるとされている魔獣を単独討伐したというものだ。
多くの冒険者は一二人の英雄のことを異次元の人間だと思っているが、ゼルドやもう一人の冒険者に関しては一二人の英雄よりも英雄視している。
それは二人が小さな依頼でも嫌な顔を一つせずに受け続けている姿を目にしていたから。
もちろん、他の一二人の英雄が全員依頼を受けていなかったわけではないが、それでも生きていた時間は見られている時間に当てはまる。
一二人の英雄の一人であるガジェットだけは六〇代でゼルドと近い年齢だが、他の面々は三〇代が一番上で、下だと一〇代までいるのだから驚きだ。
「……ありがとうございます。でしたら、ゼルドさん。俺たちは迷宮について知らないので、教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ。そのために君たちへ声を掛けたんだからね」
迷宮とは、自然が作り出したものなのか、誰かが手を加えたものなのか、いまだに解明されていない謎の洞窟とされている。
その中には不思議と魔獣が集まり、下へ下へと潜って行く。
そして、最深部には多くの宝が眠っていると言われているのだ。
未攻略の迷宮となれば本来多くの冒険者が殺到し、我先にと冒険者同士での争いすら起こってしまうとされている。
「セルジュのギルドマスターとは旧知の仲でな。一度迷宮の調査に出向いたのだが、そこに力のない冒険者を向かわせるのは危険だと判断したのだ」
「だから情報統制を敷いていたんですね」
「で、でも、そんな迷宮を私たちだけで攻略できるのかな?」
心配そうな声を漏らすメリだったが、肩にジルの手が乗せられると振り向きホッとした表情を浮かべた。
「確かに危険だと思う。だけど、俺たちはアトラ様の想いに答えないといけない気がするんだ」
「それは……私も、そう思う。なんでだろう、不思議とそんな感じがするんだよね」
「そうか。もしかしたら、それはヴィールも感じていることかもしれないな」
「ヴィールさんも?」
ヴィールは冒険者に戻ったことで様々な依頼を受けている。
それは冒険者を追放されていた日々が長かったからだとジルは思っていたが、ゼルドの考えは違うようだ。
「ヴィールは、依頼を必死にこなしてくれている。だが、こなし過ぎていると言っていいのかもしれない」
「こなし過ぎている、ですか?」
「うむ。まるで何かを探しているような、探すために様々な依頼をこなしているような気がしているのだよ」
「そうなんですね」
「……なあ、ジルベルト君。これは私が決めることではないが、ヴィールにも迷宮攻略に関して声を掛けてみてくれないか?」
そして、ゼルドは子供のためを想う親のような優しい声音でそう口にした。
「でも、ヴィールさんはスぺリーナで暮らしていくんじゃないですか? リザ姉とも結婚するだろうし」
「そうだよね。でもさ、ジル。話をしてみるくらいはいいんじゃないかな? 決めるのはヴィールさんとリザ姉なわけだし」
「うーん……まあ、それもそうか。そうなると、明日出発となれば今日には話をしておかないといけないな」
「ヴィールなら魔獣狩りで外に出ている。戻ってきたらリーザ君の鍛冶屋に行くように伝言をしておこう」
「ありがとうございます」
「それでは、迷宮に潜るということであれば必要なものをいくつか教えておこうか」
ゼルドは椅子から立ち上がり棚の中からいくつかの道具を取り出した。
それを机に並べていき、一つずつ説明していく。
松明に寝袋に非常食、それらを入れる鞄。この辺りは野営にも必要なものなのでジルも見たことはあったが、一つだけ全く分からない道具が並んでいた。
「ゼルドさん、これはなんですか?」
「これは迷宮攻略に必須となる帰還玉だ。迷宮にも色々とあるが、ほとんどが五階層よりも深くなっていることが多い。最深部まで行き宝を手に入れたとしても、そこから戻ってこられなければ意味がないのだ」
「戻ってくるのに必要なのが、帰還玉なんですか?」
「その通りだ。こいつは爆発させると煙が発生するが、その中にいれば任意で設定した場所に戻ってくることができる」
「そ、そんなことができるんですか?」
「できる。ただし、迷宮の深さにもよるが五階層よりも深いと一つの帰還玉では範囲外になってしまうから、複数持っておくことをおすすめしているよ」
便利な道具だが範囲には限界がある。
万能な道具というのはなかなかないということだ。
「だけど、そうなると荷物が増えすぎて俺たちにはどうにも持ち運べない気がしますが」
「そうだよね。ヴィールさんが来てくれるとしても、そこまで多いと動きずらくなりそうだよね」
「ふふふ、そのためにこの鞄だよ」
「「……鞄?」」
ジルとメリが同時に鞄を見つめる。
見た目には単なる鞄で、その大きさもどちらかといえば小さい方だろうか。
「この鞄は
そして、ゼルドは鞄の見た目以上に長い錫杖を中から取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます