第57話:リザの屋敷にて

 リザの屋敷に戻った二人は早速報告しようと思ったのだが、好都合なのか屋敷にはヴィールの姿もあった。


「あれ、ヴィールさん、どうしたんですか?」

「やあ、こんにちは、二人とも」

「今日は二人に話があるんだってよ」

「ちょうどよかったです。俺たちもヴィールさんに話があったので」

「そうなのかい? それなら二人からで構わないよ」


 リザが二人に椅子を勧めるのと同時に立ち上がると台所へと向かう。

 戻ってくると机にお茶を並べてくれ、ジルが口を開いた。


「先ほど冒険者ギルドに行っていたんですが、そこでギルドマスターのゼルドさんから未攻略の迷宮についての話を聞いたんです」

「み、未攻略の迷宮だと?」

「そんなすごい情報、なんで広まってないのかしら?」


 二人の疑問にゼルドとセルジュのギルドマスターが情報規制を強いていることを説明した。


「……なるほど、二人のギルドマスターが危険だと判断したなら仕方ないかもしれないね」

「だけど、ジル。どうしてそのことを私とヴィールに教えてくれたの?」

「ゼルドさんが、俺とメリと一緒にヴィールさんも潜ってくれないかと話があったんです」

「……僕もかい?」


 突然の提案にヴィールは驚いていた。

 ジルとメリも最初は驚いていたので気持ちは分かる。

 ゼルドがそのような提案をした理由について説明すると、ヴィールは腕組みをしながら横目でリザを見た。


「……僕って、そんな風に見えていたかなあ?」

「言わなかったけど、そうね」

「そうか……でも、僕なんかが力になれるかな?」

「もちろんです! 俺たちには経験が足りません。ヴィールさんの経験を、知識を教えてほしいです」

「私もジルだけじゃあ、まだ不安だなー」

「おい、それはちょっとひどくないか? っていうか、関係なくないか?」

「ヴィールさんがいてくれたら、私も安心して魔法を使えるってことだよ」

「……いや、その理由で納得しろって方が無理だからな?」


 なぜか言い合いを始めてしまった二人を見て、ヴィールとリザは揃って苦笑する。

 そして、ヴィールは心を決めた。


「……リザ、僕も行っていいかな? ギルドマスターに見透かされていたように、僕は冒険に飢えているのかもしれない」

「まあ、いつかはそうなるだろうなーって思ってたから構わないわよ。ジルやメリちゃんと一緒なら、一人で無茶をするよりも安心だしね」

「さ、さすがに一人で無茶はしないよ」

「どうかしらねー。ヴィールは昔から正義感だけは強かったからねー」


 ふふん、とドヤ顔を見せているリザに笑みを溢すヴィールは、改めてジルに同行を願い出た。


「それじゃあ、僕も一緒に潜らせてもらうよ」

「ありがとうございます! あの、出発は明日を予定しているんですが大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。僕も一応の準備はしていたからね」

「準備、ですか?」

「そういえば、最初にヴィールさんからも話があるって言ってましたけど、それと関係があるんですか?」


 ジルが首を傾げ、メリが疑問を口にすると、ヴィールとリザがお互いに顔を見合わせて一つ頷いた。


「そうなんだ。というか、まさか二人から一緒に行こうっていう提案があるとは思っていなかったよ」

「これじゃあ、私たちが相談していた意味がなかったわね」

「……えっ? それってもしかして」

「本当ですか、リザ姉、ヴィールさん?」

「あぁ、本当だよ。僕も最初から、二人から許可を得られたらついて行こうと思っていたんだ」


 笑みを浮かべてはっきりとそう口にしてくれたヴィールの思いに二人は嬉しく思ったものの、一つの懸念も持っている。


「でも、そうしたらリザ姉は……」

「迷宮攻略の間だけでもいいんですよ?」

「ん? 二人とも何を言っているのか?」

「「……えっ?」」

「やっぱり勘違いしているね」

「ヴィールだけじゃないわよ。私も一緒に行くの」

「「……ええええええぇぇっ!?」」


 ヴィールの同行は可能性の中に入っていたが、リザの同行は全くの予想外。

 というか、生産職であるリザが同行する理由が全く分からなかった。


「リ、リザ姉、それは冗談だよな?」

「本気に決まっているじゃない」

「で、でも、迷宮は危険だってゼルド様が」

「だからって私がついて行けない理由にはならないわよー」

「ヴィールさんと離れるのが嫌だっているなら、俺たちは二人だけで迷宮攻略に向かうから」

「おいおい、それは僕が寂しいんだけどな」

「ヴィールさんはリザ姉が迷宮に行くのに納得なんですか?」


 メリの質問に対してヴィールは表情を崩すことなく大きく頷いた。


「さすがに迷宮と聞いた時は驚いたけど、リザとも話し合って決めたことなんだ。僕たちで、ジル君とメリちゃんを助けることができたらいいなってね」

「そういうことよ。それに、私がいたら常に武器の手入れができるし、行った都市で施設を借りられれば手に入った素材で新しい武器を打つこともできる。私たちは、二人を助けたいのよ」


 二人の覚悟を聞いたメリは涙目になり、ジルは嬉しさを隠すように下を向いている。

 いつもならそんなジルをイジろうとするリザも、今日だけは優しく頭を撫でてきた。


「これでも二人の姉気分なんだからね?」

「……ありがとう、リザ姉、ヴィールさん」


 こうして明日の出発、迷宮攻略には四人で向かうことが決定した。

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