第53話:依頼を終えて
ジルが目を覚ましたのは昼を過ぎてからだった。
すでにリザは鍛冶屋を開けており、メリはその手伝いをしている。
居間に出てくるとテーブルに果物と置き手紙があり、そこには『お昼ご飯!』と書かれていた。
「……仕事の邪魔をするのも悪いか」
そう言ってアルは二人に声を掛けることなく食事を始めた。
「……次は、どこに行こうかな」
そして、食事をしながら次に向かう都市について考えていた。
スぺリーナを目指した理由は単純にパペル村から一番近く、なおかつ冒険者ギルドがある都市ということだった。
たまたまリザがいたから今は拠点にしていたが、アトラが言った通りに可能性を広げるなら早い段階で旅立つ必要がある。
だが、闇雲に旅立っても成果を得られるかは分からない。
「スぺリーナから一番近くて、冒険者ギルドが設置されているのはセルジュ。少し距離はあるけどスぺリーナより大きな都市はバレルシーアか」
セルジュへは徒歩で二日ほどの距離だが、スぺリーナよりも都市の規模としては小さい。
バレルシーアは徒歩で五日ほどと時間は掛かるが、スぺリーナよりも二倍も三倍も大きい規模の都市になっている。
可能性を広げるという意味ではバレルシーアを目指すべきだが、安全を期すならセルジュに向かうべきだろう。
「……まあ、この辺りはメリとの相談かな」
ジルとメリはパーティである。行き先に関しては一人で決めるわけにはいかない。
ある程度の選択肢を準備し、そのうえでメリに意見を仰ぐべきだろう。
メリからも意見があれば、そちらと合わせて考慮すればいいだけの話だ。
「戻ってきたら、聞いてみるか」
そこまで考えて、アルは黙々と果物を口に運んでいった。
食事を終えてゆっくりしていると、メリが手伝いを終えて居間に戻ってきた。
「ジル、起きていたのね」
「あぁ、食事も終わったよ。メリにだけ手伝わせて悪かったな」
「ううん、私が手伝いたかっただけだもの。ちょっと待ってて、お茶を入れるから」
メリはそう言って台所に移動した。
お茶を入れて戻ってくるとジルと自分の前に置いてから席に着く。
「……メリ、食事をしている時、次に向かう都市について考えていたんだ」
「アトラ様も言っていたものね。それで、どこか決めたの?」
「いや、ある程度の案は考えた。メリの意見を聞きたいんだ」
そしてジルは先ほど考えていた向かう先の案について話し始めた。
聞き終えたメリは少しだけ考えているようだったが、その答えはすぐに出てきた。
「……バレルシーアでいいと思うわよ」
「いいのか? 距離もあるから危険だし、野営だってすることになるぞ?」
「冒険者なんだもの、それくらい気にしないわよ」
笑顔のメリにジルも笑い返すと、あっさりと次に向かう都市が決まった。
「セルジュがバレルシーアに向かう途中にあったらよかっただけどなぁ」
「まあ、北と東じゃあ仕方ないよね」
目的地になったバレルシーアは東、セルジュは北に位置している。
向かうとしたらどうしても一ヶ所にしか迎えなかった。
「バレルシーアでは何が待っているかなぁ」
「こことそこまで変わらないんじゃないか? 冒険者ギルドに行って依頼を受けて、それをこなす。時には魔獣を狩って安全を確保する」
「そうだけど、ジルは夢がないなぁ」
頬を膨らませながら怒ったふりをする。
その反応に肩を竦めながらジルは言葉を続ける。
「俺はアトラ様が言ったみたいに可能性を探している最中だ。夢を持つにはまだまだ早いと思っているよ」
「そうかもしれないけど、ジルヴァードだって使いこなせているんだから実力は
「そうだけど、これくらいではまだまだだよ」
「ジルが昔から言っていた冒険譚を作り出すって話?」
メリは言いながら笑みを浮かべている。
一方のジルは恥ずかしそうにしているが間違っているわけではないので何も言い返せない。
「べ、別にいいだろう? それが俺の夢なんだから」
「うん、いいことだと思うよ。もちろん、その冒険譚には私の名前も入っているんだよね」
「というか、今の段階だと
「私だけじゃ無理だよ。ジルがいないと私は何もできないから」
「そんなことはないだろう?」
「そうなの」
最後には苦笑を浮かべてこの話は終わり、話題はバレルシーアに戻っていく。
「バレルシーアにはスぺリーナよりも違った色んな内容の依頼があるんだろうね」
「……そうだな。魔獣も変わってくるだろうし、気を引き締め直さないといけないな」
目下の目的地は決定した。
そして、次はいつ出発するかである。
「早い方がいいよな?」
「そうだね、その方がきっといいよ」
そう口々に意見を出し合うと、最後には全く同じ意見で決定される。
「「……明日には出発しよう!」」
スぺリーナを発つのは明日。
今日は出発に合わせて準備を整えよう。
二人のやり取りを廊下の先から聞いていたリザは小さな笑みを浮かべ、そのまま鍛冶屋へと戻って行った。
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