第52話:アトラとの再開
意識を失ったジルは、聞き覚えのある声とのやり取りを行っていた。
(——アトラ様、なのですか?)
(——その通りです。お久しぶりですね、ジルベルト・アッカート)
アッカートと言う呼び方を久しぶりに耳にして、ジルは少しだけ困惑する。
その困惑を感じ取っただろうアトラだが、意識を呼び出した理由には関係ないことなので気にすることなく話を進めてしまう。
(——ジルベルトは、まだスぺリーナにいたのですね)
(——魔獣がアトラの森に残っている可能性もありますし、調査も途中でしたから)
(——でしたら私が協力してあげましょう)
(——えっ?)
ジルが驚きの声をあげたのと、アトラが森に潜む魔獣の存在を察知するのと、ほぼ同じタイミングだった。
(——……安心なさい。アトラの森に潜む魔獣は生態系を取り戻しています)
(——ですが、俺たちがいた場所には魔獣の存在が少なくなっていましたが?)
(——それは、私がジルベルトに与えた祝福の力がわずかながら残っていたからでしょう。もう少し日にちが経てば、この場所にも魔獣が足を踏み入れるでしょう)
柔らかな声音でそう伝えてくれたアトラだが、ジルは一つ気になる点があった。
(——アトラ様は先ほど、まだスぺリーナにいるのかと仰りましたが、あれはどういうことですか?)
(——言葉通りの意味です。ジルベルトには、早くスぺリーナを出てもらいたいのです)
(——それはどうしてですか?)
(——あなたの可能性は無限に広がっています。スぺリーナに留まるにはあまりに惜しい。そして、私も留まってもらうために祝福を与えたわけではないのですよ)
アトラのおかげでディアドラを倒すことができた。
そのことを十分に理解しているジルにとって、アトラの言葉は心に突き刺さってしまう。
(——すみません)
(——謝る必要はありません。先ほども申し上げましたが、この森に魔獣の異変はありませんから、なるべく早く可能性を広げる旅に出てくれるよう、お願いいたします)
最後の言葉はやや笑みを含んでいるようにジルには聞こえていた。
そして、そのままアトラの存在が遠くに行くのを感じ取ったジルは――
「——ジル!」
「……あれ、メリ?」
「ジル君、大丈夫かい?」
「……ヴィールさんも……あー、そっか、倒れたんだっけ」
身体的な異常は全くないジルは何事もなかったかのようにむくりと起き上がる。
その様子を心配そうに見つめるメリとヴィールだったが、ジルはアトラに呼び出されたようだと話の内容を二人に説明した。
「……アトラ様が、森には異常がないと言ったんだね?」
「はい。この一帯は祝福の影響が少しだけ残っているから、今は魔獣がいないそうです」
「アトラ様の祝福はすごいんだね!」
「それと、これはアトラの森とは関係ないんですけど……」
「どうしたんだい、ジル君?」
言い辛そうにしていたアルだったが、リザには近々スぺリーナを離れることを伝えていたのでそのままヴィールにも説明する。
少しだけ寂しそうな表情を浮かべたヴィールだったが、すぐに笑みを浮かべてジルの決断を褒めてくれた。
「素晴らしいじゃないか。ジル君なら、一級の天職を得ることも可能だろう。もしかしたら
「一二人の、英雄」
「ジルならなれるよ!」
「あはは、ちなみにメリちゃんも
「わ、私は無理ですよ!」
アトラの森に異常がないと分かったからだろう、三人は賑やかに話をしている。
その途中でリザから弁当を貰っていたことを思い出したメリが魔獣がいないこの場所で食べてから戻ろうと提案してくれた。
「そういえば、ヴィールさんとリザ姉はいつ結婚するんですか?」
「ぶふっ! げほっ、ごほっ! ……ジ、ジル君、いきなり何を言い出すんだい?」
「あっ! それは私も気になります! 二人ともお似合いなんだし、早く一緒になってほしいです!」
「メリちゃんまで。……でも、そうだなぁ、もう少ししたらってのは考えているよ」
「そうなんですね! いいなぁ、幸せになってくださいね!」
「ヴィールさん、リザ姉は勝気な性格だから大変だと思うけど頑張ってください!」
「あはは、そうだね。絶対に幸せにするよ」
最後は照れ笑いを浮かべたヴィールを先頭に、三人は来た道を戻って行く。
ディアドラと戦った場所から離れてスぺリーナに近づくと魔獣も出てきたが、生態系通りにゴブリンやブラウドとの遭遇のみで終わった。
スぺリーナに戻ってきた時には遠くの空がやや明るくなり始めており、南門でヴィールとは別れた。
「報告は僕がやっておくよ。付き合ってくれてありがとう、助かったよ」
そう言って冒険者ギルドの方へ歩いて行ったヴィール。
二人はあくびを噛み殺しながらリザの屋敷へと戻ったのだが、居間の窓から明かりが漏れているのに気がついて顔を見合わせる。
中に入ってそっと今を覗き込むと、リザが机に腕枕をして眠っていた。
「……リザ姉」
「……全く、待てるはずないの分かってるだろうに」
ジルは自分の部屋に行くと掛け布団を持ってきてリザの肩に掛ける。
そのまま部屋に戻った二人はそのままベッドに横になり眠りについた。
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