第51話:リザへの説明
屋敷に戻った二人はその晩、リザにスぺリーナを出ることを決めたのだと口にした。
「……ねえ、それはいつになるの?」
「そこはまだ決めてない。でも、ヴィールさんとの依頼が終わったらすぐにでもって考えてるよ」
「……そっか」
「……リザ姉」
下を向いているリザに対してメリが心配そうな声を掛ける。
だが、顏を上げたリザの表情は晴れやかだった。
「そっかー! いやー、いつかはそうなるとは思ってたけど、まさかこんな早くに出て行くことになるとはねー!」
「……ごめん、リザ姉」
「謝る必要なんてないのよー。だって、二人は冒険者だもんね! よーし、それじゃあ今日は食べるよ! 食べちゃうよー!」
自ら作った料理にがっつき始めたリザ。
ジルとメリは顔を見合わせると苦笑する。
そう、これがリザなのだ。悲しくともそれを表に出そうとはしない。むしろ明るく振る舞い元気よく送り出してくれるだろう。
だからこそ、二人はスぺリーナを出る時にリザへの恩返しをしようと心に決めた。
この日の食事は、いつもよりも美味しく感じられた
※※※※
食事が終わり外出の準備を進めていると、リザがお弁当を持ってきてくれた。
「遅くなるのか分からないからさ。もし途中でお腹が空いたら食べちゃってよ」
「ありがとう、リザ姉」
「ヴィールさんも喜ぶと思うよ」
「何か危ないことがあったらすぐに逃げるのよ? なんだったらヴィールを盾にしたっていいんだからね」
「いや、リザ姉。それはダメじゃないか?」
「そうだよ! 将来の旦那様にそんなことを」
「だ、だだだ、旦那様だなんて! ちょっと止めてよ!」
とても強がりなリザだが、乙女心を突かれるとすぐに慌てふためいてしまう。
その姿に二人は笑い、リザは顔を赤くして頬を膨らませていた。
「も、もう! 年上をからかうだなんて、帰ってきたら覚えておきなさいよね!」
「あはは! 行ってきます、リザ姉!」
「すぐに帰ってくるね!」
リザの屋敷を出発した二人の背中を見送ったリザは、部屋に戻って寝床にはいっていった。
※※※※
スぺリーナの南門へ移動した二人は、そこでヴィールと合流した。
向かう先はもちろんアトラの森なのだが、三人が向かうならばとヴィールが依頼された場所は――ディアドラが倒された場所。
アトラの祝福があった場所でもあり、調査が進んだ今でも謎が多いとされている場所だ。
すでに多くの冒険者が立ち入っているのだが何も見つけられていない。だが、何もないことが不思議だった。
そう、何もない――森の中を跋扈しているはずの魔獣すらもこの一帯にはいないのだ。
「うーん、こっちにはいないな」
「こちらもいません」
「こっちにもいないぞ」
ヴィール、メリ、ジルと三方に向かって探索を行っていたのだが一匹の魔獣も見つけられない。
「残るは……あっちだね」
そしてヴィールが示した先は三人がまだ向かっていない場所。そして三人が戦ったよりも先の場所でもある。
日中ではヴィールが何度か足を運んでいるのだが、そこでも何も見つけることはできなかった。
夜ならばと思ってやって来たのだが、果たしてどうだろうか。
「……行きますか?」
「……そうだね、行こう。みんな、気をつけるようにね」
「は、はい!」
さらに奥へと進んだ三人。
探索済みの三方と同様に魔獣の姿はないのだが、不思議と雰囲気が違うように感じられた。
三方に関しては禍々しい雰囲気によって弱い魔獣が近寄ってこないのだと思っていた三人だが、奥の方に関しては禍々しさは一切なくなり優しさに包まれているような感覚に襲われている。
「……ヴィールさん、お昼に来た時にはこのような雰囲気はありましたか?」
「……いや、なかったね。夜には何かが変わるってことだね」
「……これも、アトラ様ですかね?」
「……どうだろう。だからといって、注意をおろそかにする理由にはならないから気をつけよう」
「「……はい」」
声を押し殺しながらの返事を行い進もうとした――その時。
(——上手くいったようですね)
「……アトラ?」
「えっ?」
「ジル君、何か聞こえたのかい?」
「……俺だけ?」
ジルの頭の中に直接女性の声が聞こえてきた。
だが、それはジルだけだったようでメリとヴィールには聞こえていない様子。
「なんで、俺にだけ――うわあっ!」
「ジル君!」
「ジル!」
ジルの目の前に白い光が弾け飛ぶと――意識が突如として吹き飛んでしまった。
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