新たな出会い

第50話:今後の活動

 スペリーナを拠点にしてから一ヶ月が経過した。

 ジルは本来ならば二級の天職である銀剣騎士シルバーナイトが使う直剣ジルヴァードを使いこなし、メリも一級の天職である賢者ソロモンとして魔力の制御を身に付けている。

 スペリーナでの生活もリザの厚意に甘えて屋敷に泊めてもらい不便なく暮らせているのだが、そろそろ潮時ではないかとジルは考えていた。


「なあ、メリ。俺たち、そろそろスペリーナを離れて次の都市に向かわないか?」


 そんな提案を口にしたのは、アトラの森からの帰り道だった。

 突然の提案にメリは立ち止まりジルを見つめていたのだが、すぐに笑みを浮かべて頷いてくれる。


「私はジルの決定についていくよ。そうなると、リザ姉にも伝えておかないとね。絶対に寂しがると思うんだ」

「確かにそうだな。……でも、いいのか? メリがまだいたいなら、もう少し後からでも──」

「大丈夫だよ、ジル。このパーティのリーダーはジルなんだから」

「……リーダー?」


 メリからリーダーと言われたジルは、ポカンとした表情のまま首を傾げている。


「そうでしょ? ジルが冒険者になるんだって村を出て、私はそんなジルに同行をお願いしたわけだし、どう見てもジルがリーダーでしょ」

「いや、誰がリーダーとか、そんなことは全く考えてなかったんだよな。お互いに相談して、それで決めていけたらいいんじゃないか?」


 パベル村を出てからスペリーナに到着するまで、ジルはメリが定住してくれることを願っていた時期もある。

 そのせいもあり、パーティにおけるお互いの役割を全く決めていなかった。

 二人だけでやっていくならそれもいいだろう。話し合いもすぐにできてお互いに知らない仲ではない。

 だが、今後別の誰かがパーティに入るとなれば、どちらかが決定権を持つ必要が出てくるだろう。


「一番冒険者になりたかったのはジルなんだからジルがリーダーなの、分かった?」

「……まあいっか。でも、今は二人で相談することは変わらないからな」

「うん! ありがとう、ジル」


 話ながらだったからだろう。

 あっという間に門間で到着した二人は顔見知りになったヴィールとは違う別の衛兵に声を掛けてからスペリーナへと入っていった。


 ※※※※


 今回受けていた依頼はアトラの森の調査。

 指定された範囲で異常があるかどうかを報告することと、魔獣がいればそれを討伐することが依頼内容である。


「おかえりなさい、ジル君、メリちゃん」

「戻りました、ピエーリカさん」

「こんにちは、エミリアさん」


 窓口ではエミリアが対応してくれた。

 前までは『ジルベルト様』『メリル様』と呼んでいたエミリアだが、今では愛称で呼んでいる。

 メリも名前で呼ぶようになっており、仲を深めているのがよく分かる。


「アトラの森はどうでしたか?」

「変わりなく平和ですね。途中でブラウドの巣が出来上がりそうになっていたので討伐しています。これが討伐証明ですね」

「ありがとう。それじゃあ換金してくるからちょっとだけ待っててね」


 エミリアが裏に下がり、その戻りを待っていると二人に声を掛けてくる人物がいた。


「おっ! ジル君にメリちゃん、戻ってたんだね」

「こんにちは、ヴィールさん」

「ヴィールさんも戻りですか?」


 入り口の方から歩いてきたのは槍を肩に担いでいるヴィールだった。


「いや、僕は今からだよ。夜の生態が崩れていないかを調査するんだ」

「そっか。昼と夜では活動する魔獣も変わりますもんね」

「うん。二人は夜の森に入ったことは?」


 ヴィールの質問に二人とも首を横に振る。


「そうか。なら、一緒にどうかな? これから冒険者をやっていくにあたり、多くの魔獣について知っておくのは悪いことじゃないからね」


 お互いに顔を見合わせたジルとメリだったが、頷き合うとヴィールの提案を受けることにした。


「よかった。僕は少しだけ体を動かしたらまた戻ってくるから、待ち合わせは夜の9時でいいかな?」

「大丈夫です」

「それじゃあ、そのこともリザ姉に伝えておかなきゃだね」

「あら? ヴィールさんも来ていたんですね」


 今日の予定を考えていると窓口の方へエミリアが戻ってきた。

 報酬を受け取ったジルたちは、その場でヴィールと一緒に夜のアトラの森の調査依頼を手続きする。


「二人とも、疲れてない?」

「これから夜まで休みますから大丈夫ですよ」

「そう? ならいいんだけど、気をつけてね」


 ヴィールは夜の調査とは別に、体を動かすために日中で受けられる別の依頼も受けていた。

 ジルとメリはその場で二人と別れて一度リザの屋敷へと戻ることにした。


「リザ姉、怒るかな?」

「怒ることはないと思うけど、驚くだろうね」


 そんなことを考えながら、冒険者ギルドを後にした。

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