第49話:ジルとメリ
──そして、数日が経過した。
「ジル!」
「分かってる!」
右から迫ってきたブラウドめがけてジルが振り抜いたのは、刃長70センチ程の直剣。
リザがジルのためにオーダーメイドで打ち上げた一振りは、ブラウドの頭部から胴体へと斬り裂き左右に胴体を吹き飛ばしていく。
逆側からも二匹が迫っていたのだが、驚くほどの剣速で振り向きざまの横薙ぎが同時に首を斬り落とした。
「メリ!」
「うん!」
アトラの森の奥からはゴブリンが三匹、近づいてきている。
メリはそんなゴブリンめがけて、
一定空間に風の刃が縦横無尽に斬りつけるトルネドルームは、三匹のゴブリンを一瞬で細かな肉片へと変えてしまう。
「お、おい、やり過ぎだって! あれじゃあ討伐証明を持って帰れないだろう!」
「ご、ごめん!」
ジルは天職がないので色々な武器を試そうと思っていたのだが、しばらくはリザが打ってくれた直剣──ジルヴァードをメインに使うことを決めている。
何度も素振りを繰り返すことで徐々に使い慣れてきたのだが、メリはなかなか威力の調整ができないでいた。
「うぅぅ、高魔導師の時の癖が抜けないよう」
「二級と一級じゃあ、やっぱり大きく違うのか?」
「全然違うよ! 慣れるまでは、ここで練習するしかないかなぁ」
ジルの足を引っ張ていると思っていたメリは下を向いて落ち込んでしまう。
そんなメリの肩を叩きながら、ジルはにかっと笑い声を掛けた。
「一緒に頑張ろうぜ! まあ、メリはもう
「ヤダよ! 私はジルと一緒に冒険者を続けるんだから! もう、何度も言わせないでよね!」
「分かった、分かったから、そこまで怒るなよ。冗談だから」
「……本当に?」
「本当だよ。ここまできたら、メリが生産職として都市の中で働いている姿を想像もできないからな」
当初はメリを高魔導師として都市で働くことを進めていたジルだったが、死線を共にしたことでメリにも何かしらの固い意志があるのだろうと考えている。
それがジルと一緒に冒険者を続けることなのであれば、何を言っても聞かないだろうと。そして、ジルもメリと離れるのが寂しく感じていることも理由の一つだった。
「それじゃあ、もう少しだけ魔獣狩りをしたら戻るか」
「うん!」
それから一時間ほど魔獣狩りを続けた二人は、スぺリーナの冒険者ギルドへと足を運んだ。
※※※※
早い時間だったからだろう、冒険者ギルドはがらんとしており、そのおかげで二人は目的の人物に声を掛けることができた。
「ピエーリカさん!」
「あっ! お帰りなさい、ジルベルト様にメリル様」
「もう、ピエーリカさん! 私たちのことは呼び捨てでもいいって言ってるのに!」
「そうでしたね。でも、仕事上はせめてさん付けで許してください、メリルさん」
エミリアは笑いながら窓口に立ってくれ、討伐証明の受理と報酬を持ってきてくれた。
「そうそう、ヴィールさんは冒険者として派手に活躍しているみたいですよ」
「そうなんですか?」
「リザ姉からはそんなこと一言もなかったよ?」
「自分の口から彼氏のことを話すのが恥ずかしいんですよ」
「リザ姉ならそうかもしれないね」
「男っぽいくせに、妙なところだけ繊細なんだよな、リザ姉は」
「──だーれが男っぽいですってー?」
ジルの発言を聞いた誰かが後ろから肩に腕を回しながら耳元でそう呟いた。
「リ、リザ姉! 何でここにいるんだよ?」
「私はエミリアに用があって来たのよー。エミリアから聞いてないのかしらー?」
「ピ、ピエーリカさん!」
「うふふ、ジルベルトさんが乙女心を分かっていないからですよ?」
「とりあえず、リザ姉はその用事を終わらせろよ!」
慌てて腕を振り払ったジルは冒険者ギルドのロビーにある椅子に向かって歩き出した。
メリは苦笑しながらジルを追い掛けて、リザとエミリアは苦笑しながら話し合いを始めた。
「……なんかいいね、こういうのも」
「……そうか?」
「うん。リザ姉がいて、ピエーリカさんがいて、ヴィールさんがいる」
「スぺリーナでリザ姉がいたことが、本当に幸運だったよな」
楽しそうに話をしているリザの横顔を二人は見つめている。
「……でも、俺たちは冒険者だ」
「……うん」
「しばらくしたら、俺はスぺリーナを離れてもっといろいろなところを見て回りたい」
「そうだね。私もそうだよ」
冒険者として都市から都市へ飛んで行き、様々な依頼をこなし、見て回る。
その中で語り継がれるような冒険譚を作り出すことが、ジルが冒険者になった一番の理由だ。
「ジルならできるよ」
「……そうかな?」
「うん、できる。だって、スぺリーナを救ったんだよ? これだけでも語り継がれてもいい冒険譚じゃないの」
「いや、スぺリーナはみんなで救ったんだよ。俺一人の力じゃない」
「だったら、まだまだ楽しみは残っているんだね」
「楽しみ……そうか、そうだよな。冒険譚を作り出すこと、それは俺の楽しみなんだよな」
椅子に腰掛けながら大きく伸びをしたジルの表情は、とても晴れやかなものになっていた。
「ついて行くよ、ジル」
「ありがとう、メリ」
天職を持たない少年と、伝説の天職を得た少女。
二人の冒険は、まだまだ始まったばかりだ。
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