第48話:ヴィールの答え
すでに心の内は決まっている。
ヴィールの答えは――
「僕は、冒険者になります」
「……そうか。リーザ君もいいのかな?」
ギルドマスターはヴィールのパートナーであるリザに視線を向けた。
「私はヴィールの意見を尊重します。それに、私も冒険者をしていたヴィールに惚れたわけで、衛兵のヴィールもよかったですけど、やりたいことをやっている時の表情が好きですから」
「……ヴィールは、素晴らしい相手を見つけたのだな」
「その素晴らしい人間を怒らせようとしたんだから、ギルドマスターもしっかりと働いてくださいね」
「ちょっと、リザ!」
「……肝に銘じよう」
苦笑するギルドマスターだったが、ヴィールは慌てふためいている。
これからお世話になる冒険者ギルドのギルドマスターに対する態度ではないだろう、ということだった。
「いや、リーザ君の言う通りだ。ヨルドはもういないが、同じようなことが起こらないとも限らないのだ」
「ギルドマスター……その、ヨルドのことは」
「いいんだよ、ヴィール。あいつも結局は、スぺリーナのために戦って死んでいった冒険者なのだよ」
そう口にしながら視線を向けた先は机の後ろにある棚の中。
ガラス越しに見えたのは、ヴィールが持ち帰ったヨルドが愛用していたハンマーの破片。
死体を運ぶことはできなかったが、ハンマーの破片だけは遺品として持ち帰っていたのだ。
「……すまんね。それでは、ヴィール・フォルダーのギルドカードを再発行。そして、等級は
「は、はい!」
すでに準備していたのか、ギルドマスターは机の引き出しからヴィールのギルドカードを取り出し、その場で手渡した。
「おぉ、真珠等級のギルドカードは黄色なんだ」
「うわー、綺麗なギルドカードですね!」
「やったじゃないの、ヴィール!」
「あ、ありがとう、みんな」
嬉しそうにしているヴィールに向けて、ギルドマスターからも声が掛けられる。
「二級の天職になったのだ、真珠等級よりもさらに上を目指してくれるよう、期待しているよ」
三級の
「ど、努力します」
「それと、ジルベルト君とメリル君にも渡す物がある」
「俺たちに?」
「なんだろう?」
お互いに顔を見合わせてからギルドマスターの方へ向き直る。
すると、ヴィールのギルドカードとも違う素材で作り直された二枚のギルドカードがジルとメリに手渡された。
「これは、二人が
「「……えっ!」」
「凄いじゃないか、二人とも! スぺリーナでは過去最速の珊瑚等級じゃないかな!」
「これは、私も気合を入れて二人に武器を作らないといけないわね!」
「ヴィールにもそうだが、私はジルベルト君とメリル君にも期待しているんだよ」
笑みを浮かべているリザにヴィール、そしてギルドマスターだが、ジルとメリは驚き過ぎて口を開けたまま固まってしまった。
「……俺たちが、珊瑚等級?」
「……いいの、かな?」
「いいに決まっているじゃないか! 二人がいなかったらスぺリーナは滅んでいたんだ、珊瑚でも足りないくらいだよ!」
「そうよ、そうよ! もっと一気に等級を上げられないんですか?」
「ちょっと、リザ姉!」
リザの発言に慌てて止めに入ったのはジルだったが、ギルドマスターもそのことは考えていたようだ。
だが、そうできない理由があった。
「飛び級で翡翠や真珠等級に上げることは、物理的に言えば可能だ」
「だったら――」
「だが、目立ち過ぎるのだよ」
「……それは、他の冒険者からの嫉妬があるかもしれない、ということですか?」
「その通りだ」
ギルドマスターの懸念をジルはしっかりと理解していた。
「最速での珊瑚等級、これだけでもスぺリーナでは相当目立ってしまうだろう。そのうえで飛び級となれば、良い顔をする者は少ないだろうな」
「うーん、それなら仕方ないのかぁ」
「リ、リザ姉? マジで止めてくれよ?」
「そ、そうだよ。珊瑚等級でも驚いているんだからね?」
「……そうかしら?」
「「そうだよ!」」
声を揃えての講義に、二人以外が笑い声をあげていた。
リザも笑いながら頷き、そして二人を抱きしめた。
「ちょっとリザ姉。最近、情緒不安定なんじゃないか?」
「そうだよ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。大丈夫だから、もう少しだけこうさせてよ」
「……リザ姉?」
最近までは周囲の喧騒に感情が高まっていたのだが、今は違う。
これからのことを決めるためにギルドマスターの部屋を訪れ、ヴィールが冒険者になると決め、そしてジルとメリが等級を上げた。
その姿を見ていて本当に生きているのだと改めて実感してしまったリザは、二人を抱きしめながら泣いていた。
そのことに気がついた二人は、顔を見合わせてからリザの背中に手を回した。
「……ごめんね、二人とも」
「……ううん、ありがとう、リザ姉」
「……リザ姉、大好きだよ」
リザが落ち着いたのを見計らって、四人はギルドマスターの部屋を後にした。
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