第44話:生存報告
ギルドマスターの部屋では心配そうな表情を浮かべていたリザとエミリアが、三人の顔を見るや否や駆け寄ってきた。
「みんな!」
「あぁ、よかった、本当によかったです!」
ジルとメリを抱きしめるリザに、安堵から涙を流しているエミリア。
「ちょっと、リザ姉、恥ずかしいってば!」
「今日くらいは大目に見なさいよ! 本当に、心配したんだからね!」
「……うん、ありがとう、リザ姉」
ジルは恥ずかしそうに頭を掻き、メリはリザを抱きしめ返している。
「ヴィールさんも、本当によかったです」
「ありがとう、エミリアさん」
「うふふ、今日くらいは二人にリザさんを譲ってあげてくださいね」
「あー、まあ、そうだな」
苦笑するヴィールだったが、リザはジルとメリに付き合っていることを明かしていなかったので慌てふためいてしまう。
「ちょっと、ヴィール! な、何を言っているのよ!」
「えっと、リザ姉? 俺たち、もう知ってるよ?」
「……へっ?」
「アトラの森に行った時に聞いたんです」
「……ヴィール!」
「あはは、ごめんよ。でも、あの時は生きて帰れるかも分からなかったんだ。これくらいは許してくれよ」
ヴィールの言葉に、笑顔を取り戻していた二人の表情が一気に真剣なものへ変わってしまう。
スぺリーナが守られた、そして三人が戻ってきた。
二人にはそれだけの情報しか分かっていないのだ。
「あの、ヴィールさん。いったい何があったんですか? それに、アトラの森に行っていたとメリル様が言っていましたが?」
「……あぁ、色々とあったんだよ」
そこからはジルが説明を引き継ぎ、ギルドマスターにしたのと同じ内容を伝えていく。
当然ながら二人とも半信半疑だったが、ギルドマスターにディアドラの首を手渡していることと、ギルドマスターが信じたのであれば疑う余地はない。
「二人とも、あれだけ恨んでたのにギルドマスターを信じるんだな」
「まあ、なんだかんだでギルドマスターは凄い人だからね」
「最初にも言いましたが、私たちはヨルドの愚行を止めてほしかっただけでギルドマスターの失脚を狙ったわけじゃないですから」
「信頼されているんですね」
「息子には甘かったみたいだけどねー」
「ちょっと、リザさん!」
最後には笑いに変えるところがリザらしいと、ジルとメリは苦笑している。
そんな中、ヴィールだけはずっと真剣な表情のままリザを見つめていた。
「……そのことでリザ、相談があるんだ」
「相談? ……あぁ、ギルドカードの再発行のこと?」
「……うん。実は、迷っているんだ」
「迷う? なんでよ」
「なんでって、お前なぁ」
ヴィールは生活面の安定や自分が都市を離れることも多くなるかもしれないと力説しているのだが、リザはというと溜息交じりにはっきりと口にする。
「生活面の安定は私の鍛冶屋があるんだから問題ないわよ。それとも、私よりも衛兵で稼げると思っているのかしら?」
「ぐぬっ! ……そ、それは」
「本当に生活面の安定を考えるなら、衛兵も止めて私の仕事を手伝ってもらった方がいいんだけど、どうする?」
「それは勘弁! 天職以外のことなんてできないよ!」
「だったらさっさと冒険者に戻って好きなように生きなさい! ……私は、そんなヴィールに惚れたんだからね」
最後の方はぼそぼそと口にしていたが、ヴィールにはしっかりと聞こえていた。
その表情は赤く染まり、耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている。
「……リザ姉も、恥ずかしいなら二人の時に言えよな」
「ジ、ジル、生意気よ!」
「いや、そんな顔で言われてもよなぁ」
「リザさんも顏、真っ赤ですよ?」
「エ、エミリアまで!」
頬を押さえながら天井を見上げているリザの姿に、全員が笑い声をあげた。
最初はヨルドの愚行を訴えるために集まっただけだったが、それがこのような大事になるとは思いもしなかった。
そして、魔獣の群れが現れてからは今のように笑顔で笑い合えるのか不安になっていた。
リザとエミリアに至っては話を聞いてからはギルドマスターと同じように頭の中を整理するのに時間が掛かっている。
それでも、三人は戻ってきた。そのことだけが何より嬉しかった。
全体で見れば被害は甚大だろう。
ヨルドの死も実際には目にしていないが、ディアドラの恐ろしさを考えると生きてはいないだろうと三人は思っている。
「……あっ、そういえば」
「何、どうしたの?」
「俺、天職を失ったんだ」
「「……はあ?」」
アトラの森の出来事、そしてディアドラとのことを説明していたジルだったが、天職についての話をするのをすっかり忘れていた。
「たぶん、二人の天職は変わってる、かも」
「「…………はああああああああ?」」
この後、大事なことはちゃんと報告するようにリザからきつく言われてしまったジルなのだった。
※※※※
──翌日、ヴィールを中心にした調査隊が組まれてアトラの森へと入っていった。
普段よりも魔獣は多いものの、昨日のように大発生しているということはなく、結果として原因究明とまではいかなかった。
しかし、一つだけ確認できたことがある。
「……ヨルド」
魔獣に食い荒らされたのか、原型を留めていない死体の横にはヨルドが愛用していたハンマーの成れの果てが散乱していた。
目の前の死体がヨルドなのかは分からない。
それでも、ヴィールは手を合わせて黙祷を捧げると、その場を後にする。
死体を持ち帰るにはあまりにも損傷が激し過ぎたのだ。
「……ありがとう、ヨルド。お前の足止めのおかげで、スペリーナは助かったんだ」
そう口にすることしかヴィールにはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます