第42話:スペリーナ帰還
アトラの森を抜けた三人が見た光景は──魔獣の群れの死骸と、歓喜に沸く冒険者や衛兵の姿だった。
「……ま、守り抜けたのか!」
「まあ、あのギルドマスターがいれば当然といえば当然か」
「あの雷、すごかったもんね!」
「いや、そうでもないんだよ」
ジルとメリがギルドマスターの実力に触れている中、ヴィールだけが心底安堵したと言った感じを出している。
「ギルドマスターの放った雷は、おそらく数発が限度だったはずだよ」
「えっ! そ、そうだったんですか!?」
「あぁ。元
ヴィールの推測は正しかった。
ギルドマスターは合計五発までしか雷撃を発動することができなかった。元翠玉等級とはいえ、数の暴力と年齢には勝てなかったのだ。
「それを考えての演説だったんですね」
「数に対抗するには、一人の英雄よりも多くの兵士だからね。まあ、あまりに規格外の英雄だったら違うかもしれないけどね」
最後には冗談を言えるくらいに余裕ができた三人は冒険者や衛兵とすれ違いざまに声を掛け合いながら、ギルドマスターがいる外壁上に向かった。
※※※※
ギルドマスターは外壁の上から歓喜に沸く冒険者と衛兵を眺めていた。
その額には大粒の汗が浮かんでおり、限界に近かったのだと誰の目から見ても明らかだった。
「ギルドマスター、戻りました」
「そうか。お前たちが戻ってきたということは、問題は解決されたと思っていいのか?」
「……分かりません。ですが、脅威になり得る存在の討伐には成功いたしました」
「脅威、だと?」
「はい。ジル君」
「こ、これが、その魔獣……いえ、魔族の肉体の一部です」
「――なっ! ま、魔族だと!」
驚愕とともに振り返ったギルドマスターが見たものは、ディアドラの首だった。
「こいつは、自分のことを魔族ディアドラと言っていました」
「……ディアドラ」
「それと、この一件には黒幕がいるようです」
「だろうな。魔族が何もなしに地上へ召還されるはずはない」
「ディアドラは、人間によって召還されたと、それにあいつらと言っていたので、関与しているのは複数いるかと思われます」
「……そうか」
ジルとヴィールの報告を受けて、ギルドマスターは腕を組みながら空を見上げた。
ディアドラの一件への報告は以上だが、三人には他にも伝えなければならないことがある。
「それと、ギルドマスター」
「なんだ?」
「……ヨルドについて、お伝えすべきことがございます」
「……あいつは、死んだのか?」
「……はい。これは確実ではありませんが、ディアドラの発言を推測するに、おそらく」
「……そうか」
空を見上げたまま目を閉じたギルドマスター。
その表情から感情を読み取ることはできなかったが、目を開いた時にはすでに次に向けてのことを口にしていた。
「この一件に関しては全ギルドに情報を共有することとする。アトラの森の調査に関しても継続して行い、魔獣の大量発生の原因が何なのかをはっきりさせようと思う」
「お、俺もできることがあれば手伝います!」
「私もです!」
「ありがとう、若い冒険者たちよ。それとな、ヴィール」
「……はい」
ここまでの話の流れから、ヴィールは次の言葉を察しており、自分がどう答えるべきか悩んでいた。
「ギルドカードの再発行、受けてみないか? もちろん、等級は
「……俺が、真珠等級?」
「す、すごいですよ、ヴィールさん!」
「あ、あぁ、そうだな……」
「ヴィールさん、どうしたんですか?」
驚きの声をあげたジルへの反応が今ひとつだったことで、メリが心配の声を掛けてきた。
「……実際のところ、迷っているんだ」
「えっ! ど、どうしてですか?」
「冒険者を追放された時はたしかにイラつきもしたし、人生に絶望もした。だけど、今は違うんだ」
「違う、ですか?」
「あぁ。衛兵として仕事をこなしていくうちに、スペリーナをこうして守っているのもいいなって思えてきたんだ」
「それは、リザ姉がいるからですか?」
「それもあるかもね。冒険者は、依頼によっては拠点にしている都市を空けることも少なくないし、収入だって保証されているわけじゃない。将来的なことを考えると、今の生活の方が性に合っているかもしれないんだ」
冒険者に対して未練はある。だが、それは過去の自分が感じている未練であり、今の自分は過去とは色々と変わってきている。
そのことが、ヴィールの選択を迷わせていた。
「ヴィールよ、今すぐに決めなくてもよい。儂が言えることではないが、一生に関わることだからな。パートナーがいるならなおのことだ。しっかりと相談をして、結論を教えてくれればよい」
「……分かりました」
ギルドマスターの部屋では怒鳴っていた時とは打って変わり、静かに返事をするヴィール。
そして、ギルドマスターの視線はジルとメリに向けられた。
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