第41話:決着
胸部には確かに十字の傷が確認できた。
左腕にもひびが広がっている。
そこはディアドラも認識しており、明確に狙おうとすれば意識して防御されてしまう。
実際に胸部の十字傷はディアドラが固く守っていた。
左腕も狙おうと思えば狙えただろうが、ディアドラの目がある中では胸部と同じく難しかったはず。
ならばとジルが狙ったのはディアドラの左踵――ヴィールが穂先を粉砕されたのと引き換えに左腕と同様のひびを与えていた。
ディアドラも戦いの中で余裕があれば気づけていただろう。だが、ジルが畳み掛けてきたことと、狙いが胸部だと思い込んでいたことで、左踵のダメージに気づくことができなかった。
さらに自らが発生させた漆黒の魔力によって視界が悪くなっている。
様々な要因が絡んだ結果だろう。これがジルの実力だとは本人も思ってはいない。
だが――今この場においては結果が全てなのだ。
『ぐ、がああああああああああああっ!』
外皮が砕け、両断されたのはディアドラの左脚。
双剣の片方を砕かれながらも、もう一方の剣がその役割を果たしてくれた。
バランスを崩して倒れ込んだディアドラと、ジルは真正面から見下ろしている。
『かは、かははははっ! 面白い、面白いぞ、貴様は! 我の足を砕き、斬り落とし、ここまで追い詰めるとは!』
「追い詰めるだけじゃない、このまま終わりにするんだ!」
『……もう少し楽しみたかったが、仕方ないか。次は、我よりも強い魔族を召喚するぞ?』
「……黒幕は、誰だ?」
『それを我が答えるとでも?』
「……」
『……』
無言の時間が数秒続くと、ジルは諦めと同時に大きく息を吸い込み、吐き出しながら剣を振り抜いた。
『面白かったぞ、人間!』
ジルの剣は硬かったはずの外皮を斬り裂いてディアドラの首を落とした。
ドサッと落ちた首の表情は、今までで一番の笑みを刻んでいる。
「……こっちは死にかけたっての」
そんな呟きを溢したのと同時に漆黒の魔力が徐々に消失していく。
ディアドラが死んだことで留まっておくことができなくなったのだ。
視界が明るくなり、ずっと見たかった幼馴染の泣き顔が視界に広がった。
「ジル!」
「勝ったよ、メリ」
胸の前で組んでいた両手を解くと大きく振りながら駆け出した。
ジルも両手を広げてメリを受け止め、しっかりと抱きしめる。
「あぁ、よかった、本当によかったよ、ジル!」
「奇跡、だな。アトラ様……だったのかは分からないけど、あの祝福がなければ俺たちは今頃……」
「奇跡だけど、私たちは生きてるわ。それだけは変わらないよ」
「……そうだな。終わったことを気にしていても仕方がない」
「そういうことだね、痛たた」
メリの後ろからは右手で左頬をさすりながらヴィールが近づいてきた。
「ヴィールさん! ……あれ、その腕って?」
ヴィールの無事も確認できたことでようやく安堵することができたジルだったが、折れたはずの腕を普段と変わらず動かしていることにジルは驚いていた。
「あー、これか。いや、僕も驚いたんだけど……」
「……えっ、まさか、これもメリがやったのか?」
ヴィールの視線の先にはジルに胸の中で泣いていたメリがいる。
「あの、えっと……うん」
「
「違うの。高魔導師でも私が今日使った魔法は全部使えないはずなんだ」
「どういうことだ? 実際に使えているじゃないか」
「いや、メリちゃんの疑問は僕も分かるよ」
「ヴィールさんも?」
そういえばと、ジルはディアドラとの戦闘中にヴィールが突然強くなったことを思い出していた。
「……アトラ様の思し召しって、そういうことか」
「何か思い当たることでもあるのかい?」
「あの光なのかな?」
「たぶん、そうだろうな。……でも、まずはスぺリーナに戻ろうか」
ジルの提案に二人も頷いた。
ディアドラを倒したとはいっても、ここはまだアトラの森の中である。
魔獣の群れがこの近くにいないとも限らないのと、スぺリーナの現状が気になって仕方がなかった。
もちろん、アトラの森を探索したい気持ちもあった。
ディアドラが言ったように黒幕がいるのであればこの先かもしれないし、黒幕を倒さなければ解決とは言えないかもしれない。
だが、ジルの剣は折れ曲がり双剣も一本が砕かれており、ヴィールの槍も破壊されている。メリも魔法を使い過ぎており魔力の限界が近づいていた。
これでは何かあった時に対処のしようがない。
アトラの森の奥に一度だけ視線を向けたジルだったが、二人の視線に気づくと意識をスぺリーナへと切り替えて駆け出した。
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