第40話:攻防
ジルが横薙ぎから回転して逆の剣で逆袈裟。
ディアドラは右腕で受け流しつつ、上体を後ろに反らせて回避。
ヴィールが柄をしならせながら上段斬りを放ち、そこからさらに斬り上げる。
半身になり回避するものの、斬り上げには反応が遅れてしまいディアドラの左腕が跳ね上がった。
チャンスと見るやジルが間合いを一気に詰めて連撃を放つ。
『来たな!』
「誘われた!?」
「させるか!」
左腕が跳ね上げられた勢いを活かして体を回転させるとそのまま回し蹴りを放つ。
ジルのこめかみに左踵がめり込む直前に穂先が左踵を捉えた。
轟音が耳の側で鳴り響き耳を塞ぎたくなるような思いだったジルだが、両手は柄をさらに強く握りしめていた。
「うおおおおおおおおおっ!」
『ぬ、ぬああああああああああっ!』
ジルの双剣がディアドラの胸部を斬り裂いた。
ディアドラの回し蹴りがヴィールの槍の穂先を砕いた。
ヴィールの体は自然とディアドラの回し蹴りを受け止めるために動いていた。
「ぐおおおおああああああああっ!」
「ヴィールさん!」
『ちいっ! 仕留めそこなったか!』
両腕を交差させて受け止めたのだが、ディアドラの回し蹴りはヴィールの両腕をへし折りながらその体を吹き飛ばしてしまう。
漆黒の魔力を突き破り姿を消してしまったヴィール。
これでジルとディアドラは一対一になってしまった――が、ジルはここが最後のチャンスだと見て一気に畳みかけた。
「はああああああああぁぁっ!」
『なおも来るか!』
ジルは前に出た。双剣が砕けようとも構わないと全力で振り抜きながら。
狙うべきは胸部に刻んだ十字傷。
しかし、ディアドラが刻んだ笑みは消えない。狙ってくる場所が分かっていれば守るのも容易いものだ。
それでも前に出る――が、届かない。今度は届かない。ジルの双剣は、胸部には届かない。
『終わりか! ならばこちらから行くぞ!』
ディアドラが前に出た。胸部を守りながらでもジルを圧倒できると踏んで。
主な攻撃は蹴撃。腕は胸部を守るために片腕での攻撃となっている。
それでも手数で言えばディアドラの方が圧倒的。自らの体を武器としているのだから回転数が違い過ぎた。
『さっきまでの勢いはどうした! これでは押し切ってしまうぞ!』
「まだ、まだまだ、まだまだまだああああああっ!」
優勢は明らかにディアドラだ。そのことはジルも理解している。
それでも前に出るしかない。そうすることでしか狙うべき場所に攻撃することができない。
だから双剣を振るう。今は届かなくても、必ず届く時が来ると信じて。
「うおおおおおおおおおっ!」
『……いや、もういい。つまらなくなってきた』
しかし、ディアドラの注意を引きつけておくことができなくなってきていた。
いつまでも同じことの繰り返しで、これ以上は何もないのだと悟られてしまった。
そうなると、いつまでもこの場に留まっておいてくれるわけもない。
『貴様にはもう飽きた。貴様を殺して、先ほどの男と魔導師の女と楽しもう。そっちでも楽しめなければ……先に行こうか』
「行かせるかよ!」
それでも変わらずに攻撃を繰り返すジル。
もちろん胸部を守りながら受け、反撃をしているディアドラだったが、その瞳には興味の光はすでになかった。
『もういい――死ね』
ディアドラは前に出た。それも全力で前に、ジルを殺すために。
中段蹴りから上段蹴り、前身の勢いをそのままに裏拳からさらに上段蹴り。
堅実なことにディアドラは殺しに来ている今のタイミングでも胸部の防御を解こうとはしない。万が一の可能性すらも消し去るために。
「この! くそっ、まだかよ!」
『何を待っている! この状況では貴様を助けに来る者などいないぞ!』
ディアドラの漆黒の魔力には様々効果が備わっている。
それはディアドラの思いのままなのだが、現時点では身体阻害効果に加えて外敵排除の効果が発動されている。漆黒の魔力の外側から中に入ってくることができないのだ。
「それは、お前も誰の助けも、呼べないってことだろ!」
『強がりは終わりか? いい加減、死ねえ!』
速度が桁違いに速くなる。
左拳が右耳を削る。
右上段蹴りが風を斬り裂きながら迫る。
身体を反らして回避するが鼻頭の薄皮一枚が弾け飛ぶ。
体を捻りながら左裏拳が脇腹を狙う。
双剣を交差させて受け止めるが地面を削りながら後方へ吹き飛ばされる。
『うおおおおおおおおおっ!』
ジルが体勢を整える前に、ディアドラは次の一撃で全てを終わらせるため地面を蹴りつけて体に捻りを加えた。
回避ができない速度で、さらに双剣で受けても叩き折り殺せるような渾身の一撃。
超低空飛行で迫ったディアドラの一撃は――速度と全体重を乗せた回し蹴り。
「——これを狙ってたんだよ!」
『——!』
体勢を整える? 関係ない。
回避ができない? 関係ない。
双剣ごと叩き折る? 関係ない。
ジルはがむしゃらに、回避など考えることなく、逆にこちらから双剣を叩きつけるように――ディアドラの左踵めがけて双剣を振り抜いた。
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