第31話:スペリーナ防衛戦
南門から外に出たジルたちが見たのは、ブラウドやゴブリンの群れと戦う衛兵や原石等級の冒険者たちの姿だった。
魔獣は目の前まで迫っておりジルとヴィールはすぐに飛び出し、メリは魔法を放ち始める。
衛兵や冒険者からするとメリの参戦が一番気持ちを持ち直すきっかけになった。
「や、やった、魔法師だ!」
「これで数を削れるぞ!」
「私たちだって、まだまだやれるわよ!」
一匹ずつ倒すには無理がある群れの数に気持ちが折れそうになっていたのだが、複数を一気に倒すことのできる魔法師の登場は最高に嬉しかったのだ。
「ふっ!」
「はあっ!」
前線でもジルとヴィールが積極的に前へ出ることで他の面々を休ませている。
特にヴィールが冒険者でいう
「休める内に休んでおくんだ! きっとまだまだ来るぞ!」
「ヴィール! ヨルドの奴はどうなるんだ!」
「ギルドマスターとは話がついた! 後はこの場を生き残るだけだぞ!」
「おぉ!」
協力者の一人である衛兵の質問に大声で答えると、周囲からは歓喜の声が上がる。
「こ、こんなに協力者がいたんですね!」
「みんなが、スペリーナを変えたかったんだ! ジル君も、協力してくれたからね!」
「俺は、リザ姉を助けたかっただけです!」
「それでいいんだよ! 誰かを助けたい、成し遂げたい、理由はなんだっていいんだ! やり遂げることが大事なんだよ!」
三匹のブラウド斬り捨てながら口にされたヴィールの言葉にジルはハッとした。
ヴィールは応援してくれているのだ、ジルの挑戦を、神への挑戦を。
天職を裏切り努力で自分の道を切り開こうとしていることを。
「今はまだ助けられてばかりだろう、迷惑を掛けることの方が多いはずだ。だけど、諦めるなよ!」
「……は、はい!」
「僕がサポートする、このままでいいのか? この場を
「……違います!」
ヴィールの鼓舞を受けて、ジルは剣を鞘に戻して腰の後ろに回すと双剣を手にする。
「頼れる人がいるなら頼るんだ! そして、自分の糧にしろ!」
「はい!」
「周りにいる冒険者からも色々なことを学び、盗んでいけよ! ジル君はまだ原石等級なんだからな!」
「はい!」
冒険者の元先輩として、ジルに冒険者としての心得を教えていく。
ジルには失敗してほしくない、自分のようになってほしくないと思いながら。
──ドンッ! ドンドンッ!
目の前の魔獣を斬り捨てていると、メリの魔法が炸裂してアトラの森から出てこようとしていた魔獣が一気に吹き飛んだ。
「そして、メリちゃんに全幅の信頼を置くんだぞ! パーティを信じられなかったら生き残れないからな!」
「もちろんです!」
魔獣の数が見た目にも少なくなってきたその時──ジルは不思議な感覚になっていた。
今までで一番長く双剣士として戦っているのかもしれない。
そんな時に感じたこの感覚に、ジルは不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
(なんだろう、体が動くぞ?)
まだまだぎこちなさがあった動きから、徐々に鋭さが増していく。
剣士ほどではないにしても一昨日や昨日と比べると雲泥の差になっていた。
(──)
「……えっ?」
ジルは誰かに声を掛けられた気がした。
周囲に魔獣がいなくなったことを確認して立ち止まり、首を左右に振る。
「……誰も、いない?」
(──て)
「……いや、誰かいるのか?」
声のした方に視線を向けると、そこは魔獣が溢れてくるアトラの森の方向だった。
戦闘音や魔獣の咆哮、冒険者や衛兵の声だって入り交じってる。
そんな中で聞こえてきた謎の声は何を言っているのか判別できないものの、なぜだかジルのことを呼んでいるという確信を持っていた。
(──助けて!)
「……!」
そして、ジルははっきりと聞いた。直接頭の中に響いてきた女性の声を。
明らかにおかしな現象である。もしかしたら魔獣の幻惑かもしれない。
それでも、切羽詰まったように聞こえた女性の声を無視することなどジルにはできなかった。
「メリ!」
「どうしたのジル、休憩?」
すぐに駆け出したい気持ちを抑え、ジルはまずメリに謎の声について説明した。
「女性の声? うーん、こんな騒がしい中で聞こえたとしたら、他の人にも聞こえているはずだけどなぁ」
「そうなんだが、頭に直接流れ込んできた感じがしたんだ」
「それが、アトラの森からってこと?」
「……あ、あぁ」
おかしなことを言っている自覚はある。
頭の中に聞こえてきたなら、なぜアトラの森から発せられたものだと分かったのかと聞かれても説明のしようがない。
やはりここは防衛に集中するべきか、そう思っていたのだが──
「分かった。ヴィールさんに相談してから森に入ろう」
「……い、いいのか?」
メリからは意外にあっさりと許可が出たので問い掛けたジルが驚いてしまった。
「私はジルを信じる。それにアトラの森は神聖な場所だってヴィールさんも言っていたし、何か悪いことが起きているかもしれないしね」
「……ありがとう、メリ」
そして二人はヴィールのところまで駆けていった。
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