第30話:ギルドマスター

 ヴィールがヨルドのせいで冒険者を追放された。

 冒険者と冒険者、いざこざはどの都市でも起こり得ることだろうが、それが原因で冒険者を追放されるということがあるのだろうか。


「……君には本当に悪いことをしたと思っている」

「今さらそのようなことを言われても遅いんです! 俺は、冒険者を追放されて衛兵をしています。それは、どの都市に行っても俺は冒険者を続けられないからなんですよ!」

「そのことについては私にも考えが――」

「いえ、今は僕の話よりもヨルドの話です。あなたはヨルドのことを確かに愚息と言いました。本当に、彼の愚行を知っていたんですね?」

「……あぁ、知っていた。だが、そのことを知ったのは一年ほど前のことだ」


 ヴィールの問い掛けに、ギルドマスターははっきりと答えた。嘘をついているようには見えず、三人もそう感じたのか追及を続けた。


「一年ほど前ということですが、その間にも様々な愚行がありました。そのことはご存知ですか?」

「あぁ。おそらく君たちも調べているのだろう。二級の天職を持つ冒険者志望や自分の言うことを聞かなかった冒険者を追い出したり、他の冒険者の手柄を奪い取ったり、最近では原石げんせき等級の冒険者を襲っていたと聞いている」

「……最近の、原石等級ですって?」


 最近の騒動で原石等級といえば、当然ジルとメリのことだろうと気づいたリザが拳を握りしめてプルプルと震え出す。

 慌ててジルがリザの右腕を掴み宥めると、すぐにヴィールの横に立って口を開いた。


「その原石等級の冒険者は、おそらく俺です」

「君が? ……そうか、君のような少年にもあいつは手を出しているんだな」


 そう言葉を溢したギルドマスターはゆっくりと椅子から立ち上がると、突然頭を下げて謝罪を口にした。


「愚息のせいで怪我をしたと聞いている、本当に申し訳なかった」

「あの、俺は謝ってほしくてここにきたんじゃありません。三人の言葉をしっかりと聞いてほしいと思って、証言するためにここに来たんです」

「……そうだったな。信じられないかもしれないが、私も愚息の愚行に気がついた一年前から情報を集めていた。だが、一年以上前の情報に関してはなかなか手に入れることができず、今の今になってしまったんだ。秘匿していたのは君たちなんだろう?」

「当然です。僕たちの計画に気づかれるわけにはいかなかったんです」


 ヴィールはギルドマスターの言葉を信じてはいなかった。だからこそ即答で答えている。


「だから、私は君たちが動いてくれるのを待っていたんだ。その時には君たちの情報を信じて、愚息を罰しようとね」

「その言葉に、嘘偽りはありませんか?」

「もちろんだ」

「……ギルドマスター。私は同郷をヨルドに傷つけられました。もし、あなたの言葉に嘘偽りがあったとしたら、私はあなたを絶対に許さない。どのようなことをしても、誰の手を借りてでもあなたを失脚させますよ」

「当然だろう。むしろ、今の騒動が沈静化されれば私はギルドマスターの地位を降りようと考えているくらいだからな」

「職員はそのようなことを望んではおりません。ただ、ヨルドを罰し、正しいギルドのあり方を示していただきたいと思っているんです」

「……それについては検討しよう。誰かが全てを背負わなければならない。でなければ、ヴィールのように未来を断たれた者への示しがつかないからな」


 三人とギルドマスター。両者の思惑が合致したことから情報交換が行われる――はずだった。


「ほ、報告です!」


 突然、部屋の中に傷ついた冒険者が一人飛び込んできた。


「何事だ!」

「ま、魔獣の群れがアトラの森を出てスぺリーナに迫ってきました! 今は衛兵と残っていた原石等級で対応していますが、数が多過ぎて突破される可能性があります!」

「なんだと! アトラの森の調査に出た冒険者の中にはヨルドもいただろう!」

「それが、一人で奥に行ってしまい、それから姿が見えません!」

「あの野郎、こんな非常事態でも好き放題やりやがって!」


 怒りに体が震え出すヴィール。

 ギルドマスターは顔を上に向けて目を閉じ何やら考えているようだ。


「……ヴィール。こんな私の頼みを聞いてくれとは言わない。ただ、今は衛兵としてスぺリーナに暮らす人々を守ってほしい」

「当り前です! あなたに言われなくてもそうしますよ」

「それとな、冒険者を追放された件について私なりに調べてみた。あれも当然ながらヨルドによる情報操作がされていたことも確認できている。……改めてこちらに来てもらえれば、ギルドカードを再発行しよう」


 ギルドマスターからのまさかの発言に、ヴィールは一瞬だが動きが止まった。

 だが、すぐに扉の方へ歩き出すと廊下に出てから一度だけ振り返る。


「……そのことは一度考えさせてください。俺は今、スぺリーナの衛兵なので」

「……もちろんだ。任せたぞ、翡翠ヒスイ等級の実力者よ」

「お、俺たちも行きます!」

「私も!」

「あぁ、一緒にここを守ってくれ!」

「二人とも、気をつけてね!」


 駆け出したジルたちの背中にリザの声が掛けられる。


「……私も準備を始めるか」

「……ギルドマスター?」


 そして、ギルドマスターは椅子の後ろに置かれていた二メートル近い棚へ歩き出すと、その中からとあるものを取り出した。

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