第29話:冒険者ギルドにて
冒険者ギルドに到着した四人はすぐにとある人物に声を掛けた。
「——エミリアさん」
「ヴィールさん! リザさんに……ジ、ジルベルト様にメリル様まで!」
「やっほーエミリアちゃん! 私の同郷がお世話になってるみたいだね!」
「同郷って……えっ! もしかしてお二人がお世話になっている人って、リザさんですか!?」
三人のやり取りを聞いて、ジルとメリは顔見知りなのかと驚いていた。
それと同時に冒険者ギルドの協力者が誰なのかを理解するに至った。
「……皆様がこちらに来たということは?」
「えぇ、計画を実行するわ」
「今しかないからね」
「……分かりました――皆さん!」
突然大声を出したエミリアに驚いたのはジルとメリの二人だけ。
冒険者ギルドの協力者がエミリアだけだと思っていた二人だったが、それは大きな間違いだった。
「え……えっ?」
「ちょっと、もしかして――職員全員が協力者なのかよ!」
「残念ながら全員ではありません。ですが、半数以上が思いを同じくする人たちですよ」
「……ピエーリカさん、すみませんでした」
目の前の状況を受けて、ジルはエミリアへ謝罪を口にした。
「ど、どうしたのですか?」
「俺は、ピエーリカさんのことを疑っていました。それに、冒険者ギルドを」
「それは仕方がないことだと思います」
ジルの独白を聞いても、エミリアは優しい笑みを浮かべてくれた。
「ヨルドとギルドマスターの関係性を聞けば、誰もが冒険者ギルドを疑うでしょう。それは今日まで何も行動を起こせなかった我々の落ち度です」
「だけど、今からは違う」
「そう。冒険者ギルドだけじゃなくて、私たちもよ」
エミリアの言葉に続いてヴィールとリザが続けて口にする。
冒険者ギルドにはすでに冒険者はおらず四人と職員のみ。
「お、お前たち、なんのつもりだ!」
「ギルドマスターに――ぐわっ!」
一部の協力者ではない職員がギルドマスターのところへ行こうとしたが、協力者の職員に取り押さえられる。
「焦らなくてもギルドマスターに用事があるんだからこっちから行くわよ」
「みんな、無理を言ってしまい申し訳ない。そして、ありがとう」
リザが強気に発言し、ヴィールは協力者に謝罪と感謝を伝える。
「何を言ってるんだよ! 最初にヨルドの犠牲になったのはヴィールじゃないか!」
「俺たちはお前の味方だ! 後は任せたぞ!」
「リザさんもエミリアも私たちのことは気にしないでください! みんなが味方なんだからね!」
多くの職員から歓声が上がり、三人は顔を見合わせて大きく頷くとギルドマスターがいる部屋へ歩き出す。
ジルとメリもその背中を追い掛けるが、一つの疑問が浮かび上がっていた。
――これだけ騒いでいるにもかかわらず、なぜギルドマスターは出てこないのか。
すでに裏口から逃げているのだろうか。
しかし、裏口があるとしてもリザとヴィールが冒険者ギルドに姿を現した時点で協力者が裏口を押さえていてもおかしくはない。
「……もしかして、計画がバレていた?」
「まさか、バレる要素なんてなかったはずだぞ」
「ですが、全く出てこないのは確かにおかしいですね」
前を歩く三人も同じ不安を感じていたようだ。
だが、ここで引くという選択肢はあり得ない。ギルドマスターの部屋につながる扉の前に到着した五人。
先頭を歩いていたリザが扉をノックする。
『——開いているぞ』
中から聞こえてきたのは重低音な男性の声。
「……失礼します」
リザが返事をしてから扉をゆっくりと開ける。
部屋の中は華美に彩られた――ということはなく、豪華な装飾は何一つなく、質実剛健といった感じで実用的な机が奥にあり、そのさらに奥でギルドマスターが大きな椅子に鎮座していた。
「外が騒がしいようだが、君たちの仕業だね」
「……はい、その通りです」
「魔獣の群れが迫っているこの時に動いた理由を教えてくれるかな?」
鋭い眼光を真正面から受け止めているリザだったが、庇うようにしてヴィールが前に進み出る。
「ギルドマスターの長子であるヨルド・ボーヴィリオン。彼の悪行をお知らせしに参りました。このタイミングで動いたのは、ヨルド本人に邪魔をされないためにです」
「そうか。君は確かヴィール・フォルダーだったな」
「……私を覚えていらっしゃったんですね」
「当然だろう。なぜなら――愚息が摘み取ってしまった優秀な元冒険者なのだからな」
ギルドマスターの口からヨルドのことが愚息と呼ばれたことに全員が驚愕する。
そして、そのことに怒りを露にしたのはヴィールだった。
「……あ、あなたは! ヨルドが愚行を犯していることを知りながら知らないふりをしていたということですか!」
「……」
「僕は、ヨルドのせいで、あなたの愚息のせいで――冒険者を追放されたんですよ!」
ヴィールの口から放たれた言葉は、ジルには無視できない驚きの内容だった。
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