第28話:計画実行

 二人としては断る理由がないのでその場で承諾した。


「でも、俺たちの証言に信憑性はあるのか?」

「冒険者になったばかりの原石等級ですし、話をしても信じてもらえないんじゃ?」


 心配事としては証言をしても聞き入れてもらえなかった場合のことだったが、そこはヴィールが考えてくれていた。


「昨日の戦闘跡を記録しているんだ。ギルドマスターもヨルドの天職や好んで使う武器を知っているから、二人の証言が正しいと理解してくれるはずさ」

「ヴィールさん、いつの間に?」

「この計画のために、貯金を叩いて高価な魔法具マジックアイテムを購入したからな」

「魔法具、ですか?」

「後で見せるよ」


 ニヤリと笑ったヴィールさんだが、貯金を叩いたと聞いたリザは苦笑気味だ。


「私もお金を出すって言ったのに、頑として聞かないんだから」

「これは俺が決めたことだからな。リザにもあいつにも負担はさせられないよ」

「あいつって、他にも協力者がいるんですか?」


 ヴィールの発言を聞いて、メリが質問を口にする。


「ギルドマスターを説得しようとしているからね。さすがに僕たちだけでは話にならないよ」

「それって、冒険者ギルドの中に協力者が?」

「そういうこと。その子とも後で顔を合わせられると思うから、その時に紹介するよ」


 冒険者ギルドに協力者がいる。それはギルドが全面的にヨルドの味方ではないということ。

 ジルはエミリアのことを疑ってしまったことに後悔を感じていた。


「……みんなが、今の状況を変えようとしているんですね」

「ヨルドの行いは目に余る。特に自分のライバルになりそうな冒険者や気に入らない相手に対する行いがね」

「私たちは、リザ姉のことを聞かれて答えなかったから襲われたのかな?」

「それと、俺の天職が双剣士ツインソードだと勘違いした可能性もあるな」


 気に食わなかった、そしてライバルになり得る二級の天職。その二つがヨルドの蛮行につながった。

 あまりにも身勝手な理由に、リザとヴィールは憤りを覚えていた。


「これからすぐに向かうつもりだけど、二人は大丈夫かしら?」

「俺は大丈夫です。背負いかごも返さないといけないので行く予定でしたから」

「わ、私も大丈夫です」

「そうか。それじゃあ向かおう」


 最後はヴィールの合図を受けて、四人は屋敷を後にして冒険者ギルドへと向かった。


 ※※※※


 ――アトラの森は魔獣で溢れかえっていた。

 冒険者のほとんどが単独で調査を進めていたのだが、群れと遭遇した時点から近くの冒険者に声を掛けて臨時パーティを組んでいる。

 死者は出ていないものの不意を突かれた珊瑚コーラル等級の冒険者がすでに戦線を離脱し始めていた。


「開いた穴を埋めろ!」

「こっちも手一杯だよ!」

「向けた魔獣は行かせろ! 衛兵だっているんだから、背後から攻撃されないように気をつけろよ!」


 本来なら冒険者だけで押し止めるつもりだったが、予想外の数に方針を変えていた。

 自分の命が一番の冒険者としては当然の判断なのだが、その方針に従えない人物が一人いた。


「雑魚は下がってろよおおおおぉぉっ!」

「ヨ、ヨルド! てめえ、何勝手に突っ込んでやがる!」

「あーはははははっ! 魔獣から逃げるとか、てめえら雑魚にはお似合いだな! 今回の報酬は俺が全部頂くから、お前たちは逃げていいぜえええぇぇっ!」

「ふざけるな! 穴が開いた分、後ろに流れちまうだろうが! 挟み撃ちもあり得るんだぞ!」

「雑魚の相手は雑魚がやってろ!」


 そう吐き捨てるとヨルドは魔獣がやってくるアトラの森を奥へと一人で進んで行く。


「くそったれが! 誰か、スぺリーナに知らせろ! 魔獣の数が予想以上に多いと! 原石げんせき等級にも門の防衛をさせろってな!」


 指示を飛ばした翡翠ヒスイ等級の冒険者は、その場に踏み止まり続けて魔獣を斬り捨てていく。


 ※※※※


 謎の三人組はアトラの森の奥にいた。

 魔獣が嫌がる臭いを放つ臭い玉を大量に設置し、逃げ道がスぺリーナに向かうよう仕向けている。

 強い魔獣には効かないこともある臭い玉だが、三人組が使っているものは臭いの強烈な改良型だった。


「がーははは! これでスぺリーナもようやく壊滅だな!」

「ゴブリンやブラウドの弱い魔獣で冒険者を疲弊させ、その後にゴブリンナイトやトレントといった上位の魔獣を送り込む」

「うふふ、どれだけの血が流れるかしら、楽しみだわ。それに――」


 ノラは言葉の途中で口を閉ざし、無言でとある魔獣に視線を向ける。

 トレインとブロスも同様の魔獣を見つめた。


「……スぺリーナに、こいつを倒せる奴はいないだろうな!」

「ヨルドならあるいは……だが、あいつが弱い魔獣を相手にしているはずがないか」

「一人で突っ込んできて、一人で死んでいく。とてもいい結末じゃないかしら」


 魔獣の群れは三人組によって引き起こされていた。

 そして、魔獣の群れだけではなく冒険者の動きも全てが三人組の手の平の上で転がされている。


「スぺリーナの崩壊。ここからが、我らの野望への第一歩だ」


 トレインの言葉を受けてかは分からない。

 しかし、直後には三人が見つめていた魔獣がゆっくりと動き出した。

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