第27話:誰を信じるか

 スペリーナに戻った二人はどうするべきか悩んだ結果──リザの屋敷に戻ることにした。

 冒険者ギルドに向かうことも考えたが、エミリアのことを疑っているジルが断ったのだ。


「ねえ、ジル? 本当にピエーリカさんを疑っているの?」

「……あぁ。というか、今の冒険者ギルドは誰も信じられないかな」

「でも、とっても良くしてくれているじゃないの」

「まあ、そうなんだけどな」


 ジルの中にも信じたい気持ちはある。むしろその気持ちの方が大きい。

 それでも今はヴィールから聞いた計画の妨げにならないようちょっとしたことでも警戒しておくに越したことはないと判断した。


「リザ姉は知ってるみたいだったし、先に話を通しておこうと思ってさ」

「……分かった。でも、後から冒険者ギルドにも寄るんだよね?」

「背負いかごを返さないといけないからな」


 苦笑しながらそう答えたジルを心配そうに見つめるメリ。

 そんな状況のまま鍛冶屋に到着した二人が中に入ると、リザは驚いていたもののすぐに接客を終わらせて声を掛けてくれた。


「二人とも、どうしたの?」

「えっと、リザ姉に報告でもと」

「報告って……まさか、またヨルドに襲われたの!?」

「違うよ! それとはまた別なの!」

「別って……そっちの方が怖いんだけど、どれだけ巻き込まれ体質なの?」

「あはは、それは俺も思うよ」


 苦笑しながらもジルはブラウドの群れが都市の近くに現れたことをリザに説明した。

 最初は驚きを露にしていたものの、途中からは呆れ顔になり、最終的にはジルを睨み付けていた。


「……あの、リザ姉?」

「ジルは無茶をし過ぎなのよ! ブラウドとはいえ魔獣の群れなのよ! さっさと逃げてヴィールに報告すれば終わる話じゃないのよ!」

「いや、そうすると魔獣がもっと都市に近づいちゃうし、メリも魔法で知らせてくれていたし……」

「だからといって無茶をしていいわけじゃないのよ! まだ怪我だって完治していないんだからね!」

「……ご、ごめんなさい」

「分かればいいのよ、分かれば! メリも無事でよかった。支えるのも大事だけど、無茶を止めるのも大事だからね?」

「気をつけます」


 説教が終わると、リザの表情は一変して普段と変わらない快活な笑みを浮かべる。


「とりあえず、お昼にしようか。二人にお願いもあったからね」

「俺たちにお願い?」

「なんの話ですか?」

「まあまあ、それは食事をしながらにしましょう」


 なんのことだか分からない二人は顔を見合わせながら屋敷に戻り、リビングの椅子に腰掛けるとリザが料理を運んでくるのを待っている。

 リザが戻ってきたところで食事が始まったのだが本題が語られることはなくしばらくの間は無言が続いてしまう。

 そして、食事が終わるとリザからお願いが口にされた。


「都市の近くに魔獣が現れた。そして、多くの冒険者が調査に乗り出しているとなれば、おそらくヨルドも駆り出されているはず」

「俺たちは見てないけど……もしかしたらヴィールさんなら分かるかもしれないな」

「そう。それじゃあ、ヴィールに確認を取ってヨルドがアスラの森に入っているのなら、私たちはギルドマスターにヨルドの悪行の証拠を突きつけて処分を下してもらうよう願い出るつもりなの」

「えっ! そんなことを考えていたのか?」

「でも、それだと急過ぎるんじゃないですか?」


 ジルが驚きの声をあげ、メリが心配を口にする。

 しかしリザの考えは変わらなかった。


「最初からヨルドが長時間スペリーナを出る時に行動を起こそうと話し合っていたのよ。証拠はすでに集まっているし、後はヨルドの行動を監視するだけだった。もしかしたらそろそろヴィールがこっちに来てくれるかも――」

「リザ! いるか、リザ!」

「ほら、噂をすればよ」


 鍛冶屋が閉まっていたことで屋敷の方に回ってきたヴィールの声が聞こえると、リザは立ち上がり扉を開けた。


「リザ! ヨルドが……っと、二人もいたのか」

「そりゃ当然よ。二人ともここに泊まっているんだもの」

「俺はてっきりギルドに行っていると思っていたんだが……」


 二人がいることが予想外だったのだろう。ヴィールは言葉を途切れさせて要件を告げるべきかどうか悩んでいた。


「ヴィールさん。俺たちも話はリザ姉から聞きました。協力できることがあったら力を貸すので、そのまま話をしてくれて構いませんよ」

「リザ、お前……」

「最初に計画の話を二人にしたのはヴィールでしょう? 全く、私の可愛い弟分と妹分を巻き込まないでよね」

「あー、そうだったな。すまなかった、二人とも」

「私たちは気にしていません。それで、リザ姉に話があったんですよね?」


 メリが話を促すと、ヴィールも意を決したのか要件をすぐに口にした。


「魔獣の件は二人から聞いていると思うが、ヨルドもアスラの森の調査に向かったぞ」

「やっぱりね」

「調査には時間が掛かるはずだ。おそらく、チャンスは今しかないだろう」


 ヴィールの言葉を受けて、リザは改めてジルとメリを見つめながら口を開いた。


「二人にお願いがあるって言ったわよね? そのお願いなんだけど――二人にもギルドマスターへの証人になってほしいのよ」


 リザのお願い、それは昨日の出来事をギルドマスターに証言することだった。

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