第25話:ヴィールの実力

 飛び出してきた二匹のブラウドの頭と胴体を斬り捨てると、次に脇から飛び込んできた一匹の噛み付きを避けながら体勢を整える。

 メリは草原を背にしながら魔法を放ち続け、遠くにいるブラウドを討伐していく。

 すでに上空にはファイアボールは放っている。さらに音の大きい魔法を使っているのは、衛兵が早く見つけてくれるかもしれないという思いがあってのことだ。

 魔法によりもうもうと砂煙が舞っている中、正面から三匹のブラウドが迫ってくる。

 気配察知が十分に機能を取り戻したジルは、砂煙から出てきたブラウドにも対応して出会い頭に一匹、さらに素早く剣を振り抜いてその後ろから迫ってきた二匹も倒してしまった。


 二人合わせて二桁は確実に倒しているだろう。都市の近くならこれ以上は絶対に現れない。

 しかし、森の奥からはブラウドの唸り声が止むことはなく、むしろどんどんと増えていく。


「——何があった!」


 そこに聞こえてきたのはヴィールの切迫した声だった。


「ヴィールさん!」

「ブラウドの群れが、都市の近くに!」

「何っ! こんなところに魔獣の群れだと!」


 ヴィールは手にしていた槍を即座に構えてジルの隣に並び立つ。


「こ、これだけの数をジル君とメリちゃんの二人で倒したのかい?」

「ギリギリ、ですけど」


 呼吸が荒れてきたジルを見て、相当無理をして戦っていたのだとヴィールは判断。

 すぐに一歩前に出るとジルに下がるよう指示を出した。


「少し休んでいたらいいよ」

「でも、まだ相当な数がいます」

「数は多いけど、ブラウドなら僕一人でも問題ないよ」

「……そういえば、リザ姉がヴィールさんは元冒険者で翡翠ヒスイ等級までいったって」

「リザ姉? ……もしかして、リーザの知り合いなのか?」


 驚きを口にしたヴィールだったが、今は話し込んでいる場合ではない。


「……まあ、話はここを始末してからだね!」


 槍をぎゅっと握りしめたのと同時に駆け出したヴィールは、正面とやや斜め方向から同時に迫ってきた三匹を一振りで仕留めてしまう。

 一匹は穂先で首を刎ねられ、柄の部分がしなりものすごい勢いで命中すると頭蓋を砕き二匹まとめて吹き飛ばしてしまった。


「はあっ!」


 掛け声と共に槍を地面に向けて振り抜くと、石礫がブラウドの群れに襲い掛かる。

 牽制だろうとジルは思っていたのだが、石礫は予想以上の速度でブラウドへと殺到すると前方にいた二匹の眼球と口内から後頭部へ貫通して絶命した。

 残りも死にはしないまでも多くが負傷して満足に動くことができなくなっていた。


「……つ、強い」

「……これが、翡翠等級の実力なの?」


 ジルとメリはヴィールの戦いを眺めながら唖然としていた。

 だが、じっくりと休みことができたジルの体力は回復し呼吸も整っている。

 ヴィールがいるからこそ、ジルはあえて双剣に持ち替えてこの窮地を双剣士ツインソードとして経験しておくべきだと判断した。


「ジル、いいの?」

「構わない。なんとなくだけど、ヴィールさんなら俺が双剣士の真似事をしていても笑わない気がするんだ」


 根拠などない。笑われる可能性の方が高いだろう。

 だが、ジルはヴィールに自分に似た何かを感じ取っていた。


「メリ、援護を頼む!」

「うん、任せて!」


 駆け出したジルはヴィールの横から前に飛び出すと負傷したブラウドから倒し始めた。


「ジル君、大丈夫なのかい……って、双剣!?」

「話は後で!」

「……分かった、気をつけるんだよ! 負傷しているとはいえ魔獣だ!」

「分かっています!」


 今の自分ではブラウドの群れを双剣士で倒すことは危険過ぎる。

 そこを理解したうえで、ジルはヴィールとメリがいる今だからこそ少しばかりの無茶を試みていた。

 襲ってくるのは負傷したブラウドだけではないが、そこはメリが援護してくれる。

 ヴィールも積極的に前に出て動き回るブラウドを倒していく。


 どれだけの数のブラウドを倒しただろうか。

 しばらくして、ようやく他の衛兵たちが駆けつけてくれてジルとメリはお役御免となった。

 衛兵たちはヴィール同様に高い実力を見せつけてくれて、さらに卓越した連携で一気にブラウドの数を減らしていく。


「これなら安心して見ていられるね」

「だけど、どうしてこんな都市の近くに魔獣の群れが現れたんだ?」

「確かにおかしいね」

「……これも、俺たちのせいとかじゃないよな」

「まさか! そんな変なこと言わないでよ!」

「……そうだよな」


 騒動に巻き込まれてばかりのジルはそんなことを考えてしまう。

 それともパペル村でしか暮らしてこなかった自分が非常識で、今の状況が常識なのだろうか。

 だがヴィールも魔獣の群れに驚いていたのでそんなことはないだろうと思い直す。


「……何も起こらないよな?」


 ジルは一抹の不安を抱えながら、ブラウドの群れを掃討していくヴィールたちを見守るのだった。

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