第24話:疑心暗鬼

 依頼を受けるたびに騒動に巻き込まれてしまう二人は、翌日になって引きこもるか依頼を受けるかで悩んでいた。

 常時依頼の薬草採取に出掛けても襲われる可能性があるのだからどうしようもないのだが、やはり引きこもってばかりでは何も解決しないと考えて出掛けることにした。


「えっ、出掛けるの? 大丈夫?」


 心配の声を掛けてきたのはリザだ。

 二人は食事をしながら大丈夫だと何度も伝えてきたが、リザの心配は止まらない。


「ヨルドはスぺリーナの中で襲うことはしないと思うから、都市の中を散策するのもありだと思うけど?」

「それだとピエーリカさんに心配を掛けちゃうかもしれないし、ギルドからも変な目を向けられるかもしれないからね」

「何々、ジルは大人の女性が好きなのかなー?」

「また茶化すようなことを言って、もうその話には付き合わないからな」

「なーんだ、つまんなーい」


 冗談を交えながらも、リザの表情は本気で笑っているようには見えない。


「リザ姉、私たちは本当に大丈夫だから」

「これでも冒険者なんだぜ? まだ原石等級だけど、リザ姉が驚く速さで駆け上がってみせるよ」

「そんなこと言って、無理だけはしないでよね」


 最後は無理やり笑みを浮かべながら二人の頭をくしゃくしゃと撫でるリザ。

 そして、出掛けるならと弁当を作り手渡したリザは二人を見送った。


 ※※※※


 騒動ばかり起こしている二人をギルドはどう思っているのだろうか。

 いや、ゴブリンの事件はギルドの不始末で終わっているが、ヨルドのことに関してはギルドが直接的に関わっていることではなく、エミリアにしか伝わっていないはず。


「ジ、ジルベルト様! メリル様! あぁ、よかった」

「どうしたんですか?」


 エミリアが安堵の声を漏らしているので何事だろうと首を傾げる。


「いえ、一昨日の騒動に続いて昨日のことがありましたから、さすがにもういらっしゃらないかと思いまして……」

「あー、来たらマズかったですか?」

「そんな! 私はとても嬉しく思っています!」

「……そうですか」


 ジルはなぜだかエミリアがヨルドやギルドマスター側の人間ではないのかと思い始めてしまった。

 今の言い回しも、なんで来たんだ? と言われているのではないかと勘ぐってしまう。


「私たちは大丈夫ですよ」

「メリル様も、ありがとうございます!」


 一方のメリは全く疑うようなことはなく、エミリアと今まで通り会話をしている。

 自分が気にし過ぎているのだろうか、そう思おうとしても心の奥ではどうしても気になってしまい、ジルは疑心暗鬼にとらわれてしまう。


「今日はどうなさいますか?」

「……あの、薬草採取に行くので、背負いかごを借りてもいいですか?」

「もちろんです」


 エミリアも普段通りの受け答えで背負いかごを手渡してくれた。


「……あの」

「どうしましたか?」

「……いえ、なんでもありません、いってきます」

「……はい、いってらっしゃい」


 ぎこちないジルを不思議そうに見つめていたエミリアだったが、最後は笑顔で見送ってくれた。

 その瞳は二人の姿が見えなくなるまで離れることはなかった。


 ※※※※


 南門に着くと、そこではヴィールがいつものように検問をしていた。


「おはようございます、ヴィールさん」

「おっ! 二人ともおはよう。今日も薬草採取かい?」


 背負いかごを見ながらヴィールが口にすると、ジルは苦笑しながら頷いた。


「そうか。あまり遠くに行くんじゃないぞ。昨日の今日だからすぐに何かあるとは考えにくいが、近くで異常があればすぐに駆け付けられるからな」

「はい、ありがとうございます」

「メリルちゃんも気をつけてね」

「いってきます、ヴィールさん」


 ヴィールはそのまま仕事に戻ったのだが、その瞳は離れていく二人のことを何度も見ていた。


 ※※※※


 ヴィールの言う通りに近い森の側で薬草採取をしていたのだが、近場だと他の冒険者も採取をしているのかなかなか目的の薬草が見つからない。

 必要な量を確保できないかもしれないと思っていると、奥の方からガサガサと音が聞こえてきた。


「な、何? まさか、また?」


 昨日の恐怖が蘇ってきたのか、メリは杖を構えながら後退りしていく。


「いや、あれはブラウドだ!」

『ガウアアアアァァッ!』


 誰が敵で誰が味方か考えるあまり気持ちが入っていなかったのか、ジルは気配察知でブラウドに気づくのが遅れてしまった。

 それでも体が反応して剣を抜くとブラウドの口へ刃を滑らせてそのまま斬り捨てる。

 これで終わった、と思っていると奥の方からさらにブラウドの群れが姿を現した。


「な、なんで、ここは都市から近い森の端だよ!」

「この数は異常だろ!」


 二人は迫ってくるブラウドの群れを掃討するべく前に出た。

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