第23話:味方は誰だ?

 冒険者ギルドに到着した二人は事情を説明して薬草採取は上手くいかなかったことを伝えた。

 ペナルティがあると思っていた二人だったが、エミリアからは無事を喜ぶ声が掛けられた。


「……あの、ペナルティは?」

「常時依頼に関してはありません。それよりも無事でよかったです。いったい何があったんですか?」


 二人が説明したのは突然襲われてしまったということだけで、ヨルドに襲われたとは伝えていない。

 ギルドマスターの息子に襲われたと言えば、それこそ何かしらの力が働いてペナルティを課せられるかもしれないと考えた。


「……いきなり見知らぬ冒険者に襲われたんです」

「相手は何か言ってなかったの?」

「突然のことで、覚えていないんです」

「そっか……そうよね。ううん、ごめんなさい。本当に二人が無事でよかったです」


 借りていた背負いかごを返した二人は残っていた討伐証明だけを提出して冒険者ギルドを後にした。


「これは、急がないといけないかしら……」


 エミリアは二人が襲われたことで、以前より考えていたことを早める必要があるかもしれないと考え始めていた。


 ※※※※


 スペリーナにいる間は何が起こる分からない。

 そんなことを考えてしまうと外にいたら襲われるのではないかと考えてしまい、二人はすぐに屋敷へと戻った。

 今回のことをリザにも伝える必要があると思ったのだ。

 当然ながらまだ仕事の最中──と思っていたのだが、何故か鍛冶屋の入口には閉店の札が下げられている。

 顔を見合わせた二人は仕方なく屋敷の方へと回り裏口から鍛冶屋へ入ることにした。


「──あんた、二人に手を出したんじゃないでしょうね!」

「──俺がそんなことすると思うのか? 酷いなぁ。それじゃあ行くよ、返事を楽しみにしているからね」


 鍛冶屋から聞こえてきたのはリザの声と、先ほどまで対峙していたヨルドの声。

 ヨルドは外に出ていったのだが、二人はどうしてヨルドがここに現れたのかを考えてしまう。


「二人とも帰っていたのね! 怪我は大丈夫なの?」


 そうしているとリザに見つかってしまい、包帯だらけのジルを見て血相を変えて近づいてきた。


「あ、あぁ、大丈夫だよ。衛兵のヴィールさんに手当てしてもらったんだ」

「ヴィールに? ……そっか、あいつが」

「リザ姉、知ってるの?」


 何やら安堵したように呟いたリザを見て、メリが質問を口にする。


「えぇ。ヴィールは衛兵をしてるけど、昔は冒険者で翡翠ヒスイ等級までいった実力者なの」

「そうだったんですね。でも、今はどうして衛兵に?」

「まあ、色々あったのよ。機会があれば本人に直接聞きなさい。それよりもよ……ジルのその怪我はヨルドがやったんでしょう?」

「そ、それは……」


 パペル村でもお世話になったリザを疑っているわけではない。

 ただ、ヨルドが来ていたということは本当のことを言ってしまうと巻き込んでしまうのではないかと心配しているのだ。


「……ヴィールは二人にどんな話をしていたの?」

「……? どんな話って?」


 突然変わった質問にジルは聞き返してしまう。


「言った通りよ。ヴィールは二人にどんな話をしていたの? 襲われた相手の話? 怪我の手当てについて? それとも──とある計画の話?」

「リ、リザ姉、どうしてそれを?」


 ジルの返事を聞いたリザは大きく息を吐き出した。


「ふぅ、そうなのね。それじゃあ、やっぱり二人を襲ったのはヨルドで、ギルドマスターのことも聞いているのね」

「……はい」

「……リザ姉、私たちはスペリーナを離れた方がいいのかな?」


 メリの泣きそうな声に、リザは優しく頭を撫でながら口を開く。


「そんなことない。スペリーナの問題は、ここで暮らす私たちが解決するわ」

「危ないことをするつもりじゃないよな?」

「うふふ、大丈夫だから。二人とも心配性だねー」


 今度は二人をまとめて抱き締めたリザ。

 二人から見えないその表情は一つの決意に満ちていた。


「……今日はもう休みなさい。特にジル、あなたわね」

「……分かった」

「なんだったら添い寝してあげようか?」

「……こんな時にふざけられるなんて、さすがリザ姉だな」

「褒め言葉として受け取っておきましょう」


 笑顔を浮かべながら二人を屋敷へ見送ったリザ。


「……ヴィールとあの子に連絡を取らなきゃね」


 意味深な呟きを残したリザは、閉店の札を下げたままにして鍛冶屋を後にした。

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