第22話:衛兵の話
駆けつけた衛兵は助けを呼んだのが顔見知りだったことで驚きの声を上げた。
「き、君たち! 大丈夫かい!」
「……あっ、衛兵の、お兄さん」
「うん、君は大丈夫そうだね。そっちの子は……怪我をしているみたいだね」
「こ、これくらい大丈夫、です」
「あぁ! 無理をするんじゃない! 肩を貸すからゆっくりと立ち上がるんだ」
スぺリーナにやって来た時に優しく声を掛けてくれた衛兵の男性はジルの腕を優しく肩に回させて立ち上がる。
「す、すみません」
「気にするんじゃないよ。……それよりもこれ、いったい何があったんだい?」
本当のことを告げるべきなのだろう。
だが、ヨルドが最後に言っていた言葉を思い出すと口を噤んでしまう。
「……いや、今は怪我の手当てを優先するべきだね」
「……本当にすみません。あの、名前は?」
「僕はヴィール・フォルダーだよ」
「ありがとうございます、フォルダーさん」
「ふふ、ヴィールでいいよ」
二人も自己紹介を終わらせると、その足でスぺリーナまで戻って行った。
門の前では他の衛兵も集まっており、通りすがりの冒険者も何事だと視線を向けている。
そのまま休憩所に案内された二人は、ヴィールから手当てを受けていた。
「……それで、何があったんだい?」
「……」
改めて質問してきたヴィールに対して、二人は口を噤んだまま。
「まあ、あの現場を見ちゃうとなんとなく分かってしまうんだけどね」
「……えっ?」
しかし、次の発言を受けてジルが驚きの声を上げた。
「地面の陥没、そしてジルベルト君の怪我を見たら……ほぼ確実にヨルドだろうな」
「ど、どうして、分かったんですか?」
「あの人は、誰も私たちの言葉なんて信じないって言っていたのに」
二人が口にするまでもなく、ヴィールはヨルドの仕業だと言い当ててしまった。
「まあ、俺たちはあいつの騒動を何度も目にしているからね。それでも
「でも! ……ジルは、殺されそうになったんですよ?」
「……その件については、スぺリーナの住民として本当に申し訳ないと思うよ」
「ヴィ、ヴィールさんが謝る必要はありませんよ。悪いのはヨルドの奴ですから」
頭を下げてくれたヴィールに、ジルが慌てて声を掛ける。
「いや、本来なら衛兵である僕たちがヨルドを止めなければならないんだ。それができていないんだから、やはり僕が謝らないといけないんだよ」
「……ヨルドは、どうしてあれだけ自由にできるんですか?」
ジルの質問に、ヴィールは顔を曇らせながら答えてくれた。
「ヨルドは、冒険者ギルドのギルドマスターの息子なんだ」
まさかの答えに、二人はどうしようもない絶望感を覚えていた。
冒険者ギルドがヨルドを庇っているのであれば、何をしようともヨルドが処罰の対象になることはあり得ない。むしろ告発した冒険者が資格を剥奪される可能性だって考えられる。
スぺリーナから離れる以外、二人に未来はないのかもしれない。
「だが、僕たちもただ黙って見ているわけじゃないんだ」
「……どういうことですか?」
「……これは、一部の人間しか知らないことだから誰にも言わないでほしいんだ」
声を潜めたヴィールにごくりと唾を飲み込んだ二人は無言のまま頷いた。
「……ギルドマスターの失脚を狙っているんだ」
「……そ、そんなこと、できるんですか?」
「……これをやらなければ、スぺリーナは荒れる一方だ。できるかできないかじゃない、やらなければならないんだ」
決意のこもった声は、小声であっても二人の耳にはっきりと聞こえてきた。
「お、俺たちで力になれることがあったら言ってください!」
「私たちも協力しますから!」
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
手当ても終わり立ち上がったヴィールは笑顔を浮かべてそう口にした。
「君たちは何が理由かは分からないけどヨルドに目を付けられている。本来ならこの計画も伝えるべきではなかったんだ」
「だったら、どうして教えてくれたんですか?」
ヨルドに殺されそうになれば二人が口を割ってしまうかもしれない。もしくは助かる為に情報を自ら暴露してしまう可能性も考えられるだろう。
それでも教えてくれたということは、何かしら理由があるはずだとジルは考えていた。
「……うーん、なんでだろう。ヨルドが君たちを殺そうとしていた、そこからくる負い目なのかもしれないな」
「でも、こんな大事な計画の話ですよ?」
「だから、絶対に誰にも言わないでほしいんだよ」
苦笑するヴィールはジルの肩を叩きながら休憩室の入口に向かう。
「今日はもう帰った方がいいだろうね。もし冒険者ギルドに寄るなら付き合うけど?」
「……いえ、ヴィールさんに付き合ってもらうと怪しまれるかもしれませんから」
「……そっか、それもそうだね。気をつけるんだよ」
そのまま休憩所を出た二人はヴィールに見送られて冒険者ギルドへと向かった。
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