第15話:報告

 スペリーナの冒険者ギルドに立ち寄り報告を済ませた二人は、エミリアからものすごく謝られてしまった。


「本当に申し訳ありませんでした!」

「あの、ピエーリカさんのせいではないので」

「いえ、今回の失態はギルドとしてあってはならないものでした。お二人が無事だったからよかったものの、もしかしたらを考えると……本当に申し訳ありません!」

「あの、本当にその辺で……」


 平身低頭のエミリアさんを見て、他の冒険者から何事だという視線が集中していた。


「でも、どうして今回のようなことが起きたんですか?」

「……言い訳になるかもしれませんが、本来ゴブリンナイトはスペリーナ周辺に生息していないのです」


 ジルの質問にエミリアが答えると、メリは驚きの表情で聞き返す。


「そうなんですか?」

「私がここで働き始めて五年が経ちますが、その間には聞いたこともありませんでした」

「魔獣の生息域が変わるなんてことは?」

「……すみません、聞いたことないです」

「そう、ですか」


 ジルの懸念は、また同様のことが起きてしまうのではないかというところだ。

 せめて原因が分かれば安心できたのだが、ギルドでもなぜゴブリンナイトがいたのか分からないということであれば、討伐依頼を受ける時には慎重にならざるを得ない。


「ギルドでも調査を続けます。ジルベルト様、メリル様、本当にご無事でよかったです」


 最後にもう一度だけ頭を下げたエミリアは裏に下がって行った。

 残された二人はどうしようかと考えたのだが、これから別の依頼を受ける気にもなれずにリザの屋敷に戻ることにした。


 ※※※※


 屋敷にある鍛冶屋から中に入ると、ちょうどリザが接客をしている最中だった。

 二人に気づいたリザに対してジルが両手を軽く上げて気にしないでと合図を送ると店内を見て回る。

 作品の良し悪しを見極めることはできないまでも、ジルにはなんとなくこれは良い作品ではないか、という感覚が存在していた。

 ただ、それは剣士ソードマン用の作品に限りであり他の作品に対しては全く分からなかった。


「二人ともおまたせ! こんな早くにどうしたの?」


 二人の帰りが遅くなるだろうと思っていたリザは、お昼を少し回った時間に戻ってきたことに疑問を感じていた。

 そこでゴブリンナイトのことを説明すると――


「何よそれ! ちょっとギルドに文句を言ってくるわ!」


 二人に命の危険があったことを知ったリザは激昂してそのまま飛び出していこうとする。


「や、やめてください!」

「ギルドの皆さんも謝ってくれましたから!」


 そんなリザを二人が慌てて止めに入る。


「謝って済む問題じゃないわよ! 二人が死んでたらどうするつもりだったのかしら!」

「完全なイレギュラーだったんですから仕方ないですよ。それに俺もメリも生きてますから落ち着いてください」

「そうだよリザ姉。通りすがりの冒険者に助けてもらえたからね」

「……まあ、二人がそう言うなら許してやらなくもないけど? 本当なら今すぐに突っ込んで行きたいところを抑えてあげるけど?」

「抑えてください、マジで」


 二人の必死の説得に渋々納得したリザは、話に出てきた助けてくれた冒険者について聞くことにした。


「それで、その命の恩人様は誰なのかしら? もしスペリーナを拠点にしている冒険者だったら私が知っている人かもしれないしね」

「えっと、名前はミリア・マルリードさんって言ってました」

「……えっ? ごめん、もう一回」


 普段と変わらない声で話していたのだが、何故だか聞き返されてしまった。


「だから、ミリア・マルリードさんです」

「…………本当にその冒険者はミリア・マルリードって言ってたの?」

「はい。私も聞いてましたけど、たしかに言ってました」

「もしかしてリザ姉の知り合いですか?」


 リザの反応を見て質問を口にしたジルだったが、リザは固まったまま動こうとしない。

 ジルとメリは顔を見合わせて首を傾げる。


「……いや、本当に、二人は運が良かったわね」

「と言うと?」

「二人を助けてくれたミリアって冒険者はとても……とっても有名な冒険者よ?」

「だったらリザ姉が打った作品を使ってるんですね!」

「いえ、彼女は私なんかの作品は使ってないわよ」

「それじゃあ、スペリーナを拠点にしているわけじゃない?」

「彼女に拠点はないわ。それと、有名って言ったけど全国的によ」

「「……えっ?」」

「そのミリアって冒険者は――一二人の英雄トゥエルブヒーローの一人よ」

「「……ええええええぇぇっ!」」


 ジルが目指す一二人の英雄に出会っていたとは知る由もなかった二人は驚きのあまり悲鳴にも似た声を上げていた。

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