第16話:一二人の英雄
──ミリア・マルリード。
ここ最近になって
そして、一二人の英雄に限らず実力者には自然と異名が付けられることもあるが、ミリアにも当然異名が付けられている。
ミリアに付けられた異名、それは──闇の申し子。
「闇の、申し子……」
「そ、それに暗黒騎士って、一級の天職……」
「一級だけど、一級の中でも上位にあたる天職よ」
一二人の英雄は全員が一級の天職を授かっている。
しかし、一級の天職の中でもさらに細分化されており暗黒騎士はその最上位に位置していた。
「一級の天職を持つ人は結構いるわ。でも、その中でも最上位の天職を持つ人は少ない。そんな数少ない人たちが一二人の英雄なのよ」
ミリアがまさかそのような人物だとは知らなかったジルもメリも固まってしまう。
「……まあ、だからこそ本当に運が良かったわね」
「……そう、ですね」
「二人もだけど、ギルドもね」
「ギルドも?」
詰まりながら頷いたジルだったが、リザの発言にはメリが首を傾げた。
「二人がもし……もし! 死んでいたら、ギルドは大失態を犯して国からペナルティを与えられた上に信用を失うことになる。それ以上に私が暴走していただろうし……あー、待って、なんだか思い出したらものすごく怒りが込み上げてきたわ!」
「ちょっと、変なスイッチを入れないでくださいよ!」
「リザ姉落ち着いて!」
突然立ち上がったリザを二人が慌てて宥め始めた。
「……ご、ごめん」
なんとか落ち着きを取り戻したリザがカウンターの椅子に腰掛けると、二人は大きく息を吐き出した。
「心配してくれるのは嬉しいけど、程々にしてくれな」
「でも嬉しいです。リザ姉ありがとう」
話が逸れてしまったこともあり、メリがお茶を入れてくると鍛冶屋から屋敷の中へ向かった。
残されたジルは苦笑しながらリザに話しかけた。
「それにしても、リザ姉は昔から変わらないな」
「そうかしら? これでも成長してるのよ?」
「いや、そういうことじゃなくて」
リザは自分の胸に触れながら成長していると口にしたので、ジルは頬を淡く染め視線を逸らせながら否定する。
「冗談よ、じょーだん!」
「……こんなところも変わらないな」
「まあ、二人とは長い付き合いだもんね。変わりたくても、本当の自分が出ちゃうわよ」
「でも、リザ姉が変わってなくてよかったかも」
「そう?」
「もし変わってたら、俺たちもこうやって頼れなかったかもしれないし」
昔と何ら変わらないリザだったからこそ、ジルもメリも気兼ねなく頼ることができている。
「ふふふ、お互い様ってことかしらね」
「そうかもな」
「何々、なんの話?」
そこにお茶を入れて戻ってきたメリが会話に加わり、今日の予定について話し合うことになった。
「また依頼を受けるの?」
「うーん、今日はそんな気分になれないからゆっくりしようかなって思ってるよ」
「だったら屋敷には自由に出入りしていいからね」
「私はスぺリーナを見て回ろうかなって思ってます」
「あっ! それいいじゃないの。どうせだからジルも見て回って来なさいよ!」
メリの提案にリザが楽しそうに声を上げたのだが、ジルは乗り気ではなかった。
「俺はいいよ。ゆっくり休んで明日に備えようと思う」
「ダーメ! だったら三人で見て回りましょう!」
「えっ? でもリザ姉、お店は大丈夫なの?」
心配の声を掛けたのはメリである。
自分の提案のせいでリザが仕事を休んでしまうのが不安に感じてしまったのだ。
「大丈夫よ! この時間にお店に来る客なんてそうそういないからね。さっきの人もどちらかといえば世間話をしに来た人だったし」
「でも、さすがにお店は休めないだろ?」
「このお店は私のお店なのよ? 私が休むと言えば休む! お店を閉めるも開けるも私の自由なのよ!」
両手を腰に当てて胸を張っているリザなのだが、威張れることでもないので二人は苦笑気味だ。
ただ、スぺリーナを見て回るなら都市のことを知っている人がいた方が良いことも事実なので、メリはリザの提案を受けることにした。
「ジルはどうする? 本当に休んでおくの?」
「ジールー? 女の子の頼みを断る男はモテないわよ?」
「そ、それとこれとは関係ないだろ! 分かった、行くよ!」
「よし! それでこそ男だ!」
立ち上がったリザはすぐにドアに下げてあった札をひっくり返して『閉店』に変えると、準備をするために屋敷へと戻っていった。
「……ジル、ごめんね?」
「いや、気分転換もしたかったしちょうどよかったよ。よく考えたら、こんな時間から休んでたら夜に眠れなくなるかもしれないしな」
申し訳なさそうに聞いてきたメリに、ジルは何でもないように答えた。
しばらくして戻ってきたリザを加えた三人は鍛冶屋のドアから外に出て戸締りを済ませると、スぺリーナの散策を始めた。
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