第12話:ゴブリンの巣

 南門には昨日の衛兵の姿はなく、ジルたちは交代の衛兵にギルドカードを提示して外へ出る。

 エミリアからは詳しいゴブリンの巣の場所を聞いていたのでアトラの森に足を踏み入れてからも迷うことなく進んでいく。

 しばらくしてブラウドと遭遇したものの、突然の遭遇だったこともありジルは剣士ソードマンとして一瞬で討伐してしまう。


「……先に双剣を装備しておくか」


 腰に差した剣を後ろへと回し、左右の腰にリザから貰った双剣を差し直す。

 ジルも双剣でゴブリンの巣を殲滅できるのか不安に思いながら、それでも今はこうするしかないと言い聞かせる。

 左胸に左手を当てて、右手では後ろに回した剣の柄に触れる。


「……大丈夫、いつでも抜ける」


 ピンチになった時にいつでも剣を抜けるように、双剣士としてではなく剣士として戦えるようにしっかりと確かめる。


「……ごめん、メリ。行こうか」

「大丈夫だよ、行こう!」


 メリもジルがピンチになればすぐに助けられるよう気をつけているが、それでも間に合わないことがあるかもしれない。

 ジルが意識して剣士としても戦う覚悟があるのだと確かめることができただけでも、メリとしては嬉しいことだった。

 時折魔獣と遭遇したものの、今回は双剣士として討伐することもできている。

 これはリザから貰った双剣が効果を発揮していた。


「……マジか、めっちゃ使いやすいんだけど!」


 ジルは剣士用の剣と短剣を無理やり双剣として使っていた。短剣なら片手で扱うのも問題なかったが、剣はそうもいかなかった。

 一方の双剣は片手で扱えるように重さはもちろん、長さも左右の剣が邪魔にならないよう調整されているので使いやすいのは当然といえる。

 遭遇した魔獣の中には昨日は苦戦したゴブリンも含まれていたので、メリとしても安心できる材料が増えていた。


 双剣士としての可能性を見出しつつあるジルとメリは、その足でようやくゴブリンの巣へ到着した。

 ゴブリンの巣はアトラの森の中程にある洞窟にできていた。

 今は周囲に魔獣の気配はないのだが、洞窟の入口近くにはゴブリンのものと思われる大量の足跡がいくつも付けられている。

 ここがゴブリンの巣だと知らなかったとしても、何かしらが群れを成していることは誰の目で見ても明らかだった。


「……メリ、準備はいいか?」

「……大丈夫だよ」


 お互いに確認をして頷き合い、ゆっくりと洞窟の中へ足を踏み入れた。

 入口から突き当たりまでは日の光が洞窟内を照らしていたのだが、曲がり角に差し掛かるとその先は暗闇が支配している。

 このままでは夜目に優れていると言われるゴブリンに不意打ちを受けてしまうのは必然と言えるため、光源を作ることにした。


「――ライトボール」


 メリの持つ杖の先に顕現したライトボールは、暗闇を晴らし足元をはっきりと照らしてくれる。

 ライトボールのおかげで先に進むことは可能となったが、その先で見たものはあまりに酷い惨状だった。


「……これを、ゴブリンがやったのか?」

「……全部、死体なの?」


 照らし出された地面には、食い荒らされた人と思われるものの残骸が奥へと続いていた。

 ゴブリンは魔獣の中でも最弱と言われている。だからこそ群れを成して巣を作るのだと言われているのだが――それでもゴブリンはゴブリンである。

 本来ならばこれほどまでに死体が転がることはないはずなのだが、二人の目の前にはそのあり得ない惨状が広がっていた。


「……ジ、ジル? これ、一度ギルドに戻って報告した方がいいんじゃないかな。もしかしたら、原石等級の難易度を超えている気がするんだけど?」


 ここが本当にゴブリンの巣であれば問題はない。

 だが、目の前の惨状は違う可能性をメリに突きつけていた。

 それは――ゴブリンの上位種の存在である。


「……いや、先に進もう」

「で、でも……」

「報告するにしてもモンスターの存在を確認しないと話にならないだろう。目視で確認できたらすぐに退散するよ」

「……分かった」


 ジルが言っていることも理解できたメリは、渋々ながらも洞窟の奥へ進むことを了承した。

 足元に転がる残骸を避けつつ先に進んでいく。

 しばらくすると残骸は姿を隠し、地面にはゴブリンの足跡と何かを引きずったかのような跡が奥へと続いている。

 二人に会話はなく、わずかな気配も見落とさないように周囲へ注意を払っている。

 そして見えてきたのは──ライトボール以外の光源によって作り出された明かりであった。


「……奥からだな」

「……まさか、ゴブリンが光を作ってるの?」


 奥に見える光源は揺れていることから松明だろうと二人は予想するものの、夜目の利く魔獣がわざわざ松明を灯すだろうか。

 もし灯しているなら、その魔獣には知恵がありゴブリンの上位種であることが確定される。


「……メリはここで待っててくれ」

「な、なんでよ!」

「しっ! ……ライトボールの明かりが奥を照らすと気づかれるかもしれない。だから、ここで待っていてほしいんだ」

「……わ、分かった。でも、何かあったらすぐに逃げてよね?」

「もちろんだ。それじゃあ行ってくる」


 足元に気を付けながら曲がり角の手前まで移動したジル。

 一度深呼吸をして身を低くし、ゆっくりと顔を覗かせた。


「……マジかよ……これは原石等級じゃ無理だって!」


 洞窟の最深部、そこに群れを成していたのはゴブリンだけではなかった。


「……ゴブリンナイトが、三匹も!」


 群れのボスを担っていたのは、珊瑚コーラル等級が最低ラインとされるゴブリンの上位種──ゴブリンナイトだった。

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