第11話:スペリーナ二日目

 翌日、ジルはリザから驚きのプレゼントを貰うことになった。


「えっ、リザ姉、これって?」

「剣と短剣で双剣士ツインソードの真似事なんて、それこそ自殺行為だからね」


 昨日の話から、ジルが双剣士の真似事をしていると知ったリザは既製品ではあるものの、双剣として作られた自身の作品を手渡したのだ。

 素材の質でいえばラインハルトから貰った剣の方が良いのだが、鍛冶師の腕でいえばリザの方が上。

 ランク付けをするとなると甲乙付けがたいのだが、どちらも自分で購入するなら薬草採取だけでは稼げない金額が必要となる作品だ。


「でもリザ姉、俺たちその、お金があまり無いんだけど……」

「だからプレゼントだって言ってるじゃないのよ。お金なんていらないからね」

「私たち、リザ姉に返せるものがないよ?」

「スペリーナにいる間はこっちに泊まって話をしてくれたらそれだけで構わないわよ」

「「……リ、リザ姉〜!」」


 二人して泣きそうな声を出してきたのでリザは苦笑しながら二人の頭を撫で回した。


「二人は私にとって弟と妹みたいなもんだからね。こうして話をしてくれるだけでも私は嬉しいのよ」

「ありがとう、リザ姉」

「私たち、それ以外でも何かお返しできることを考えるね!」

「はいはい、それはそのうちで構わないわよ。二人は今日も出掛けるんでしょう? 早く行かないと冒険者ギルドは混み合うわよ?」


 そう口にしたリザは台所に行って戻ってくると、その手には弁当が入った袋を持っていた。


「これ、お腹が空いたら食べなさい」

「「……リザ姉〜!」」

「いやいや、これはただのお弁当だからね? そこまで感極まる必要なくない?」


 苦笑するリザから弁当を受け取った二人は、何度も手を振りながら屋敷を後にしたのだった。


 ※※※※


 朝早い時間だったからか、昨日と比べて冒険者の数は少なく依頼ボードも数名が眺めている程度だ。

 二人でも受けられそうな依頼がないか眺めていると、ジルが一つの依頼に目を止めた。


「アトラの森にできたゴブリンの巣の殲滅、難易度は原石等級か」


 依頼書には依頼内容だけではなく難易度が記されている。その難易度を見て冒険者は自身にあった依頼を受けていくのだが、ジルが見ているのは原石等級でも問題ないとされるゴブリンの巣の殲滅だった。


「ゴブリン……」


 ただ、昨日の戦闘を見ていたメリにとってはゴブリンとの戦闘に嫌な予感を感じていた。


「大丈夫だよ、メリ。リザ姉にも言われた通り、命を大事にして色々と試してみたいと思う」

「……本当?」

「あぁ。危ないと思ったら剣士ソードマンとして戦うことを約束するよ」

「……分かった。私も危ないと思ったらすぐに助けるからね!」


 お互いに約束事を取り決め、そのまま依頼書をボードから取り受付へと持っていく。

 冒険者登録とは違うので別の受付嬢がいると思っていたのだが、依頼受付窓口には昨日顔を合わせた受付嬢が二人に手を振っていた。


「おはようございます、ジルベルト様、メリル様」

「おはようございます。……えっと」


 ジルが挨拶をしようとしたところで二人は受付嬢の名前を聞いていないことに気がつき、受付嬢も名乗っていないことに今更ながら気がついた。


「あっ! そういえば名乗っていませんでしたね、失礼いたしました。私は冒険者ギルド受付嬢のエミリア・ピエーリカと申します」

「おはようございます。ピエーリカさんは冒険者登録の窓口担当じゃないんですか?」


 改めて挨拶をしたのはメリであり、そのまま質問を口にする。


「基本はそうなんですが、受付をした原石等級の冒険者が依頼を受ける時にはなるべくこちらに立つようにしているのですよ」

「えっ! でもそれってすごい数になるんじゃないですか?」


 冒険者ギルドを訪れる人数は都市の規模にもよるが、スペリーナだけでも一〇〇名以上に及ぶ。

 原石等級だけとはいえ相当な数になるのではないかとメリは心配していた。


「うふふ、実はそうでもないんですよ。原石等級から珊瑚コーラル等級には早い段階で上がっていくんです。なので、こうして受付できるのも数回程度なんです」

「そうなんですね。それじゃあ、俺たちも早いところ珊瑚に上がった方がピエーリカさんの仕事を少なくできるってことですね」

「あら、嬉しいことを言ってくれるのですね」


 クスクスと笑いながらエミリアはジルが提出した依頼書を確認する。


「依頼内容はゴブリンの巣の殲滅ですね。そういえば、昨日の討伐証明の中にもゴブリンのものがありましたね。ブラウドの討伐証明も複数ありましたし、問題はないでしょう」


 そう言ってエミリアは依頼書に受付印を押してジルに手渡した。


「依頼完了の証明としてはゴブリンの討伐証明が一〇匹以上となります」

「それだけでいいんですか? 何か巣から持ち帰るとかは?」

「あまり言いにくいことなのですが……ゴブリンの巣にあるのは、人の死体がほとんどなんです」


 死体、と聞いてメリはごくりと唾を飲み込む。


「なので、ゴブリンの討伐証明を二桁以上提出することで依頼完了としているのです。ですが、本当に巣が殲滅されているかどうかはその後にギルド職員が珊瑚等級以上の冒険者と確認に行くことになっているので、嘘をついてもすぐにバレてしまうんです」


 確認に行くと聞いて、ジルは内心ホッとしていた。

 ゴブリンの討伐証明を二桁提出するだけで依頼完了とされるのであれば、その辺のゴブリンを討伐して持ち帰る冒険者が出てくるのではないかと危惧していたからだ。


「もし嘘の報告をした冒険者がいた場合は、相応のペナルティを科せられるのでオススメはしませんよ?」

「し、しませんよ」

「うふふ、そうですよね。やろうと考えている人は今のような質問をしませんから」


 笑顔でそう口にしたエミリアだったが、最後には真剣な表情で二人を見つめながらこう告げた。


「今回の依頼は原石等級でも問題はないとされていますが、相手は魔獣です。決して気を抜かないように気をつけてくださいね」

「「はい!」」


 エミリアの忠告に大きく頷いた二人は、そのまま冒険者ギルドを後にした。

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