第8話:初めての依頼
入ってきた時と同じ南門へ向かい、そこでギルドカードを提示する。対応してくれたのは最初と同じ衛兵の男性だ。
「おっ! ちゃんと冒険者登録できてみたいだな!」
「はい。冒険者ギルドにも迷わずに行けました、ありがとうございます」
「いいっていいって。それで、何か依頼を受けたのか?」
「薬草採取です」
ジルがお礼を口にして、衛兵の質問にはメリが答える。
「まあ、
入った時とは異なり、都市の外にはすぐに出ることができた。
しかし、これは出るからという理由ではなく、ギルドカードを持っていたからだ。
住民以外が都市を一時的に出る場合でも、必要書類を記載することになっている。
だが、ギルドカードを持っていればそれがその人の身分証となり、提示することによって都市の滞在許可証があれば自由に出入りすることができる。
二人は衛兵に手を振りながら門を通り、薬草採取ができる森の方へ向かう。
そのまま南に向かえば通ってきた街道なのだが、脇道からしばらく行くと森に到着する。
森の名前はアトラの森。
スペリーナが発展を遂げていく中で周囲には木々が一本も生えておらず、資材を調達することが困難になっていた。
そんな時に現れたのが、
アトラは魔法を使い広範囲に種を撒き、そして成長を促進させて一夜にしてアトラの森を誕生させたのだ。
これが嘘か真かは分からないが、スペリーナの住民には子供の頃から伝わるおとぎ話になっている。
そんなアトラの森だが、豊富な薬草が採取できる反面、魔獣も多く存在している。
薬草が群生しているということは豊かな森ということであり、豊かな森には自然の食料が多く実っている。
魔獣は自然の食料を狙ってアトラの森に集まるのだ。
「ここがアトラの森か」
「太陽の光も差し込んでくるし、心地いい森だねぇ」
普段と変わらない会話をしながら薬草を採取していく二人。
ギルドから借りている背負いかごが薬草で一杯になったところで──ジルはふと立ち上がった。
「どうしたの?」
「……魔獣の気配がする」
気配察知、これも
自身に対して敵対感情を持つ相手の気配を察知することができる。
ジルの言葉を受けてメリも立ち上がると、ジルが見つめている森の奥へ視線を向けた。
──ガサガサ!
茂みから姿を現したのはスペリーナへの道中でも遭遇したブラウドだが、その数は三匹と多い。
ジルは剣を抜き、ブラウドの動きを警戒しながら少しずつ間合いを詰めていく。
『グルアッ!』
「はあっ!」
一番先頭にいたブラウドが正面から飛び掛かってきたのとほぼ同時に斬り上げを放つと、空中で回避行動をとれないブラウドの体が両断された。
直後には残る二匹が左右からジルを挟み込むようにして襲い掛かる。
「──アイスニードル!」
そこに響いてきたのはメリの声だった。
右から迫っていたブラウドの体を氷の槍が貫くのを視認したジルは、左から迫るブラウドに意識を集中させて渾身の横薙ぎを放つ。
刀身が口内へと飛び込み、そのままの勢いで頭部を斬り裂いて絶命させた。
一瞬の邂逅ではあったが、戦闘が終わるのと同時にメリの体からは大量の汗が溢れ出していた。
生きた魔獣と初めて相対した結果、死と隣り合わせの状況に発汗が止まらない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……これで分かっただろ? メリに冒険者は似合わない。パペル村やスペリーナで
「……い、嫌よ」
「お前なぁ」
「絶対に嫌! 私は、ジルと一緒にいたいの!」
「だからって冒険者は──!」
そこまで口にしたジルは弾かれたように振り返りアトラの森の奥を見る。
「ど、どうしたの?」
「しっ! ……何か、来る」
ブラウドではない、別の魔獣がゆっくりと近づいてきている。その気配を察知したジルはメリの手を取り茂みの中に身を隠す。
「ど、どうして隠れるの?」
「ちょっとやりたいことがあったんだ」
「やりたいこと?」
ジルの武器はラインハルトから貰った剣だけではない。もう一本、短剣を腰に差している。
大きく深呼吸をしたジルはあろうことか、右手に剣を握り、左手に短剣を握りしめた。
「ちょっと、何をやってるのよ! ジルは剣士でしょ!」
「そうだ、俺は剣士だ。だけど、俺は剣士を否定する」
「ひ、否定って、何を言ってるの──ちょっとジル!」
メリの忠告を聞く気のないジルは茂みの中から立ち上がりアトラの森の奥を見つめる。
ヒタヒタと聞こえてきた足音にメリはごくりと唾を飲み込むが、ジルには足音の正体が分かっていた。
剣士以外を試すには格好の相手であり、魔獣の中でも最弱筆頭と言われているその相手は──
『……ゴブッ?』
二足歩行で右手に錆びたナイフを握りしめたゴブリンだった。
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